3 片田舎の医療事情 上
アヤやシエスタの地元は王都から離れた片田舎の村だ。
片田舎。
当然人様の地元を片田舎だとはモラル的に自分からは言えない訳だけれど、これに関しては本人達が熱く熱弁していた。
『私の地元? めーっちゃ田舎だよ。田舎田舎超田舎。圧倒的ド田舎だよ。景色が綺麗な事とご飯が美味しい事と皆優しい事位しか良いところが無いアルティメット田舎だよ。ああ、良い感じの温泉があるのもいいとこかな』
かつてシエスタもそう言っていたし。
『いやー私の地元マジで田舎なんで覚悟しといてくださいっすよ。王都生まれ王都育ちのシティーボーイレインさんの感覚のまま滞在してたら無いものだらけで大変っすからね。ドの付く程の田舎っすから。ド級の田舎、ド田舎っす。ご飯美味しくて景色綺麗でみんな優しい事位しか良いとこないっすね。ああ、でも良い感じの温泉有るってのは一応追加で』
数日前、シエスタの実家から手紙が来た事を話した際にアヤもそう言っていた。
……とにかく田舎な彼女達の地元は王都からはかなり離れているので、日帰りで行ける距離ではない。
それ故に。
「……安心して休診にできるってのもなんだか悲しい話だね」
「まあ、そうだな……」
リカが主として構える診療所はしばらくの間休診だ。
先月話していた通り、墓参りには四人で向かう。
それ故に診療所はしばらく休診とせざるを得ない。
誰も居ないので運営しようがなくなるから。
そして患者が少ない現状、休診に伴った対策策、ケアも然程必要が無くて。
準備が楽だったと言えば聞こえは良いが、寂しいものはある。
もっとも患者が少ないという事はある種喜ばしい事だと思わなければならないと思うけれど。
……そんな簡単な話でもない。
人の感情はそれほど簡単ではないし、自分達もそれは同じだ。
……とにかく良くも悪くも休診する事自体に問題は無かった。
「しかし田舎って事は当然、人口も少ないんだよね」
「そうだろうな、というかそうらしい。いわゆる過疎地域って話だ」
「やっぱりそうなんだ」
そう言ったリカは口元に手を添えて、少し考えるように間を空けてから言う。
「……そういう地域だと、私達みたいな旧医療従事者って呼ばれる立場の人ってやっていけるのかな?」
「……」
「人口の多い王都にいる私達でもこんな感じだよね……極端な事を言うと、賢者が一人居れば事足りるみたいな事になってたりするんじゃないかな」
賢者は絶対数が少ない。
それ故に自分達旧医療従事者にも仕事が回ってきている。
だから……リカが言っている事は実を言うと正しい。
「正解だ……今はもう、現役の旧医療従事者はその村にはいないらしい」
その答えを聞いたリカは、信じられないとばかりに目を見開く。
「いないって……一人も?」
「一人も、だそうだ。アヤから聞いた」
それを聞いた時は流石に驚いたが、詳細を聞くとそうなるのも無理はない話だと、そう思った。
「村に一人居る優秀な賢者が超が付く程真っ当な人間性の頑張り屋で最低限の料金しか取らず、積極的に人助けをするような聖人らしい。地域医療を文字通り一人で支えられる人材で、実際支えている。そうなったら……やってけないだろ、ビジネスとしては」
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