27 共通の友人

「シエスタ……キリロフ。シエスタ……私達より少し年上……レインさん。もしかしてその人綺麗な青髪とかじゃなかったっすか?」


「そ、そうだな」


「じゃあ十中八九しーねぇっすねそれ。そっか……そんな立派な事やってたんだ」


 そんな、どこか嬉しそうなアヤの声を聞きながら、少しづつ血の気が引いて行くのを感じた。


「アヤ、もしかしてシエスタさんと知り合いなのか?」


「同姓同名で髪の色とか歳まで同じって感じじゃ無かったらそうっすね。端的に言えば近所のねーちゃんっす。ああ今のじゃなくて実家に住んでた時のっすよ。しーねえが実家出た後は会う機会無くて疎遠って感じだったっすけど……立派にやってるんすね」


「……」


 どうしたものかと、頭を抱えたくなった。

 きっとアスカのように命を救われた訳ではない。

 自分のように道を示された訳でもない。


 だけど関係性で言えば、自分達よりずっとシエスタに近い所にアヤは居た。


 そんな相手に対して、シエスタの事についてどう話すべきなのか。

 そもそも話さないほうがいいのではないか。


 頭を抱える程悩ましいのは致し方ない事だと思う。


 そしてそんな風に思考を巡らせれば、どれだけ隠そうとしても勘が良ければ察する。


「……どしたんすか?」


 そんな風に訪ねてくるのは当然だ。

 こちら側の話だけでなく、アヤにとっても知人だったのなら尚更だ。

 ……何をどう隠しても不自然な事になるし、事が事だから遅かれ早かれ知ることになるだろう。

 だから、これもまた覚悟を決めて言わなければならない。


「……アスカとパーティを組んでたのがシエスタさんだった」


 その言葉だけでアヤも察してくれたらしい。

 しばらく頭の中で情報を処理するように間を空けてから、絞り出すように呟く。


「そう…………っすか」


「……ああ」


「……冒険者が危険な仕事なのは分かってたつもりっすけど……つもりだったんすけどねぇ……」


 沈んだ表情と声音でそう呟くアヤはそこからしばらく黙り込む。

 当然だ。

 しーねぇなんて呼び方をする間柄だ。

 薄情な人間性ならともかく、アヤという人間はこういう時に軽く流せたりなんてしない。

 だけどそれでも、こちらに気を使うようにアヤは言う。


「すみません、レインさん。レインさんも話すのしんどいっすよね」


「いや、お前程じゃ…………まあ、しんどいよそりゃ。でも俺の事は気にすんな」


「…………そう言ってくれると助かるっすね」


 それからしばらくは沈黙が続いた。

 その間、多分実際のところはリカを起こしに行った訳ではなかったであろうアスカが静かに扉を空けて様子を覗き込んできたが、場の空気を感じ取って察する事があったのかもしれない。

 一瞬こちらと目が有った後、静かに扉は閉められた。


 そしてそんなアスカにも気付かなかったらしいアヤだが、やがて口を開く。


「……そういう事なら、マジでレインさんに協力惜しまないっすよ私」


「……助かるよ。シエスタさんの分も、俺が頑張らないと」


「だけどマジで無理は禁物っすよ……レインさんもほっとくといつ大変な事になってもおかしくないような気がするっすから」


「信用ねぇなぁ……」


「昨日の今日であると思うっすか?」


「……分かったよ。肝に命じとく」


「頼むっすよほんとマジで……今回みたいなのは勘弁っすから」


 どこか縋るようにそう言ったアヤは、やがて静かに言う。


「とりあえずこれからの事なんすけど……ああ、冒険者絡みの話じゃないっすよ。今の話の延長線」


「……」


「……葬儀とかその辺がどうなるかはちょっと分からないっす。でもどうであれ……墓参りには行くつもりっす。王都からは結構離れるっすけど……レインさんも言われなくても行くつもりっすよね。そしたら案内するっすよ」


「頼むよ。王都出ると土地勘ねえからさ」


「はい…………ご飯食べに行くとか、そんな空気じゃなくなっちゃったっすね」


「本当に落ち着いたらというか……落ち着けたら行こう。約束忘れたりはしねえからさ」


「じゃあまたいずれって事で」


「ああ」


 いずれ、そのうち、落ち着いたら。

 残った自分達がちゃんと前を向いて歩いて行くためにも、そういう予定はちゃんと残しておかなければならないだろう。

 いつまでも俯いているわけにはいかないから。

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