12 誤算 上
「──さん!」
遠くから声が聞こえた気がした。
「レインさん! 着いたっすよ! 目ぇ覚ますっす!」
アヤの声だ。
「……ッ!」
意識を引きずり上げるように響いた声に、勢いよく起き上がり周囲を見渡す。
直掩まで視界に映っていた木々はなく、見慣れた噴水や家屋,、それから危険から程遠いのどかな日常を送る人々などが視界に映った。
眠っていた場所も森の中の土では無く、芝生の上。
「何が……え? ん!?」
薬宝の森の中で意識を失ってから、気が付けば今現在だ。
視界に映る現在の状況を、すぐには脳が理解してくれない
そんなレインに、どこか安心したような声音のアヤが言う。
「落ち着くっすよレインさん。此処はもう王都っす。気ぃ失ったレインさん抱えてあの森抜けて戻ってきたんすよ」
「え、あ、そう……そうだ。アヤがベニセイリュウタケを見つけ出してきてくれてそれで……」
と、そこで大切な事に気付いて、思わずアヤの両肩を掴んで問いかける。
「そうだお前副作用! 薬二錠も飲んだ影響は出てねえか!? おかしい所あったら隠さず言えよ! 絶対だぞ!」
「私の倍飲んでる人が何言ってるんすか……大丈夫っすよ私は。ちょっと頭痛いくらいっす。レインさんは?」
「……滅茶苦茶しんどい。頭痛に軽い吐き気に眩暈と倦怠感。色々フルセットだ」
アヤが無事な事に安堵しながらそう答えたが、その回答の中に不可解な点があった。
「でも…………思ったより軽いな」
自分の想定では目が覚めた後も今以上にグロッキーな状態になっていると思っていたのだが、こうして受け答えした上で徐々に頭が回せるようになっている位には軽い。軽すぎる。
いい意味で異常な状態だ。
嬉しい誤算ではあるが誤算は誤算な訳で、その詳細がどうしても気になってくる。
そんな事を考えていると、どこか慌てた様子でアヤは言った。
「ま、まあ良い方向に転んだんだったら、此処はラッキーで済ませておきましょう! そんな事よりレインさんのご自宅の診療所に早く戻んないとっすよ! 時間無いんすよね!」
その慌てた様子は、急いで戻るべきという焦りなのだろうか。
……きっとそうだ。
確かに自分達には時間が無いのだ。
「あ、そうだ。そうだよ早く戻らねえと」
今は自分の計算ミスの事を考えている場合ではない。
「っていうか此処は……もしかして俺んちの近くの公園か?」
「マチスさんと別れた後、そのまま頑張ってレインさん抱えて診療所まで行こうと思ったんすけど……このまま連れて行っても妹さんに心配掛けるだけっすからね。どの道レインさんが起きないと薬の調合もできないと思うっすから。一旦此処で止まって起こしてみたっす。で、無事起きてくれたんで……何事も無かったかのように堂々と帰るっすよ」
どうやら色々と配慮をしてくれたらしい。
……もっともリカ相手に今の状態を隠し通せる自信は無い訳だけれど。
だけど配慮してくれた心意気は本当にありがたい。
「ほんと、何から何までありがとな。感謝してもしきれねえ」
「別に良いっすよ。困ったときはお互い様っす」
「……とりあえず食べたい物考えといてくれ」
「はい……でもまあそれ考えるのも、全部綺麗に終わってからっすね。行きますよレインさん」
「着いて来てくれんのか?」
「此処まで来たら最後まで付き合うっすよ。邪魔なら一旦帰るっすけど」
「いや、邪魔じゃねえ。ありがと」
「どういたしましてっす。動けるっすか?」
「ああ、なんとかな」
「じゃあ急いでいきますか。ああ、ベニセイリュウタケはポーチの中に入れといたっす」
「了解……っと間違いなく、ベニセイリュウタケだな。これであの子を救える……救えるぞ」
ポーチの中を確認して、それから一歩前へと踏み出し……ややふら付きながらも小走りで走り出した。
これでこちらに必要な物は全て揃った。
後は、どうにかあの子の命がまだそこに有りますようにと。
そう祈るだけである。
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