第1話 真夏の電気代は異常



 *1



 それは、とても……とても……暑い……暑い…………。

 ──と言うか暑すぎるだろ……!

 少しは設定温度を下げろよ地球!

 僕の事を殺すきか?


 そんな、とても暑い夏休み初日の出来事だった──

 

 ――まさか……連続で十二回も面接に落ちるなんて……これは真夏の空から降る青天の霹靂へきれきならぬ晴天に辟易へきえきだ。

 もう、面接何て言葉は聞きたく無い。

 そもそも、本当は男性の募集なんて、最初からしていないのではないかと――人間不信ならぬ人選不信に陥ってしまいそうになる程に、辟易していた。


 今日は、いったい何回……深く息を吸いこみ、憂いをき散らしたのだろうか――


 僕の晴れない、今にも雨が降りそうな……溜め息模様の空みたいな心の中に(と言うか、すでにドシャ降りのゲリラ豪雨が降っている)嫌がらせのように……さげすむように……ギナギナとザシザシと、僕を照らす太陽の光に向かい…………僕は叫んだ「太陽のバカ野郎!」と――


 

 もちろん心の中でだ――

 こんな人だかりの雑踏の中で、大声を出す度胸なんて持ち合わせてはいない。

 胸をはって言えることではないけれど――

 それに誰だって、連続で十二回も空振りしたら落ち込むものだ……ヒットどころか、かすりもしない。


 敗北しかない連戦による連戦――

 これはもう厳選ってレベルではないぞ。

 心の中は泫然げんぜんだ、むしろ怨言えんげん怨面えんめんだ――


 ここまで落ちると――もしかして、自分が呪われているのではないかと、思えて来てしまう。

 いや、呪われているに違いない……!

 なぜなら、十二回も面接に落ちるなんて――もう――呪われているとしか思えないからだ!


 きっと、僕が悪いのではなくて。僕の名前の画数が呪われているのだ。

 つまり僕は全然に悪く無い……!

 この九条鏡佑くじょうきょうすけと言う、名前の画数が全て悪いのだ……。


 人間とは不思議なものだ――


 何か自分にとって、都合が悪い事が立て続けに起こると。

 自分ではない、何か違う物のせいにして、責任転嫁をしてしまうらしい――


 そう思わない人もいるのだろうけれど……。

 悲しいかな、僕は違うみたいだ。


 まあ、名前の画数で、自分の運気がどうのこうの何て、全く信じてはいないけど。


 むしろ眉つばものだけれど――

 別に僕は、選り好みをしているわけでも無いのに……。


 十六歳を過ぎて、アルバイトが出来る年齢になり、しかも今は夏休みだ。

 夏休みに入ったばかりだ。

 夏休み初日だ。

 

 アルバイトを始めようと、思ったきっかけは、これと言って特にないのだが――

 いや、まあ、きっかけはあるのだが―― 

 と言うか、僕にとっては、凄く重要なきっかけなのだが。


 

 長期連休にやる事と言ったら、夏休みの宿題を終わらせ、残りの休日を、冷房がガッツンガッツンに効いた部屋で、のんべんくだりと、ダラダラしながらヒマと一緒に過ごすだけなのだから。

 別に友人がいないと言っているのではない――いや、本当はいないのだけど――


 と言うか、こんな使い古された、旧態依然の友達がいない、プチ不幸なんて言う話しのネタは化石以下だ……!

 しかし悲しいかな、現実は非情なり――ネタでは無いのだ。

 まあ、これが真実なのだから仕方が無い……受け入れるしかない……。

 逆に、大見得切って嘘をついて、友達が、たくさんいるアピールをする方が、よっぽど痛くて悲惨だ――



 しかし、不思議な事に、僕は寂しいと思った事はあまり無い。

 むしろ逆で、冷房がガッツンガッツンに効いた部屋で、鍋で煮込み過ぎて、グチェっとしたマカロニのようにグンナリしながら、お菓子や、冷蔵庫でカッキンカッキンに冷やした、炭酸飲料水やアイスを食べて、一人で過ごすのも嫌いでは無い。


 いや、むしろ大好物だ!


 だが……だが……しかしだ…………!

 この……暑い……暑い……暑い……コンクリート熱帯ジャングルの中で……。

 なんと…………冷房が壊れてしまったのだっ!

 

 別に、現代っ子と言う訳ではないが、僕は暑いのが、本当に耐えられない体質なのだ――

 冷房が無いと……生きていけないと言っても……過言ではないっ!



 まさか……夏休みに入る一週間前に、狙い澄ましたかのように、冷房が壊れるなんて。

 これで僕の、夏休みダラける計画が、全て壊れてしまった……!

 もう……新しい冷房を購入する以外……選択肢が無くなってしまった――――

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