魔法学園、休学のシエルと魔法書庫のトリオンは並んで歩く

魔法学園、休学のシエルと魔法書庫のトリオンは並んで歩く ①

「魔法歴史学科二回生のシエル、君は自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 

 学生相談窓口で、ちょっとした騒ぎになっていた。十四歳のシエルはヴァーテクス魔法学園においてどちらかといえば優秀な学生として教員達に覚えられていた。西方の出だと分かる夕陽色の髪と瞳、食堂でよく魔導書を読みながら具のないカレーを食べている姿もちょくちょく目撃され一部では有名な変わった生徒というレッテルを貼られている。


 生活魔法研究から各種職業への就職、あるいは攻撃魔法に特化したカリキュラムを得て魔導士兵団への入団あたりが無難な進路と言われている中、シエルはいずれも優秀でありながら、大事な時期に休学届を出しに来たのである。

 

 それも授業免除期間を最長の五年で申請している事、今フレッシュで優秀な人材となりうるシエルに五年間の免除期間を与えるというのは学園側だけでなく、これからの世界に対しても大きな損失となるかもしれない。

 

「僕は、どうも気になるんですよ。勇者様に魔王が討たれてもう二千年以上経つというのに、ダンジョンは今なお増え続け、昔程統率は取れていないにしても魔物の凶暴性はいつの時代も変わらない。魔王って本当に勇者様に討たれたのかなって」

 

 ダンジョンが増えるのも魔物が凶暴化するのも魔王の存在が大きく関わっていると言われてきた。魔王が討たれた今は魔王の瘴気がいまだに残っているからと予測されているが、シエルは誰もが思い、されど行動に移さなかったことを自ら調べようと思いたったのである。歴史が変わる恐れのある研究、勇者の輝かしい冒険譚の否定とも言えるそのシエルの行動は当然非難された。

 

「シエル、それは勇者様への冒涜ととっていいのか? もし、そうなら、君を退学にすることだって検討しなければならない」

「勇者様のことは尊敬してますよ。だって、どこの街でも国でも勇者様は愛されていた。きっと本当に優れた人だったんだと思います」

「ならなぜ?」

「言い方が悪かったかもしれません。僕は勇者様が魔王を討ったという証明を探す旅に出たいんです。勇者様の事を知っている種族に出会い、生の話を聞いて、遺跡やダンジョンに潜り、僕は勇者様の足取りを探り、証明したいんです。魔王は果たして、討たれたのか?」

 

 やらせてみればいいじゃないか、そう言ったのは学園長だったか? シエルには五年間免除期間を与えられ、これより旅に出る事になる。最初に行ったのは、集めに集めた魔導書や魔法材料を学園内で売り捌いた。五年後にここに戻ってきたとしてもこれらは今以上に無価値にな物になる可能性が高いし、できれば部屋は綺麗に片しておきたい。掃除に丸一日使ってホテルの部屋くらい簡素な物になった自分の部屋を見て満足すると、そのままの足で食堂へと向かった。しばらくここで食事を取る事はなくなる。だからこその、最後の食事は、

 

「具なしのカレーライス。大盛りで」

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