魔王を倒して喋れなくなったので無詠唱魔法を作ります

七四六明

魔王を倒して喋れなくなった

無言の始まり

無言の始まり

 世界には、魔王という存在がいた。

 魔王は生まれてすぐ他の種族を蹂躙し、支配圏を広げ、三〇〇年で世界の全てを支配した。

 だが三〇〇年の時を経て、遂に全世界が待ち侘びていた時が来た。


「『縛れ、金色の鎖』! “ゴールド・チェーン”!!!」


 魔王の体を金色の鎖が縛り、固定。

 炎を吐く口を縛り、両腕を後ろに縛って体の自由を奪って、最大にして最後のチャンスを作る。


「今だコルト!」

「コルト、やれ!」

「『目指すは終極の彼方。遥か遠くに在る終末の果て。我が恩讐。我が憤怒。我が心にて引き寄せ給う。顕現するは、破滅の終焉。忌むべき敵は、魔王ゾディアク』――“ラグナロク”」


 空から飛来する破滅の光に、魔王の体が焼かれていく。

 魔王を縛る黄金の鎖を解くまいと、百人近い魔法使いが全魔力を集中。魔王は五体を焼き焦がされ、己が魔力と生命力を焼かれていった。


「おのれ、おのれ人間め! 許さぬ許さぬ許さぬぞ! 貴様ら人間は、いずれこの魔王! 魔王ゾディアクが滅ぼしてくれる! だがその前に、貴様は……『死ね!』」

「危ない!」

「コルト・ノーワード!」


 己に止めを刺した怨敵に対し、魔王が放った意趣返し。

 最期の最後で放たれた呪詛は己が魔力で抵抗するコルトの体を蝕み、魔王の消滅と共に呪詛も大方消え去ったが、片膝を突いたコルトの体にはわずかな呪詛が残っていた。


「大丈夫か?!」

「触れるな! 呪詛が移るぞ! コルト、気をしっかり持て! あの程度の呪詛、おまえなら弾き返せるはずだ!」

「……」

「落ち着いたか?」

「コルト?」

「……、……」

「おまえ、まさか……声を……」


 三〇〇年の支配から解き放たれたその日、魔法使いコルト・ノーワードは、声を失った。

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