【一章完結】悪役貴族の次男に転生した俺は、ストーリーを無視して英雄へと成り上がる

煙雨

第1話 推しキャラを救う


   どこで変わってしまったんだ。


 ドラゴンの死体を見つめながら、俺はボソッとつぶやいた。

 周りには、本来の主人公である勇者やヒロインたちが立っていた。



 アルファイヤ・クロニクル------アルクロと呼ばれているRPG。俺はこのゲームが好きだ。アルクロには、ストーリーに引き込まれる人間関係や世界観がある。


 大学生の頃に出会い、社会人になっても時間を作ってはアルクロをプレイしていた。


 そんな世界に転生してしまった。それも、悪役貴族の次男としてだ。


「なんで、このキャラなんだよ……」


 フレード・リアム。貴族の中でも位が高い公爵家であり、悪事を働いていると噂が流れている。


 実際、ゲームを行っていた際、最終的に長男であるアビが魔族と手を組んで主人公たちと敵対することになる。


 絶対に俺だけでも、平穏な生活を送る。いや、送って見せる‼


 そう、思っていた時、部屋の扉が開いた。


「リアム、これから取引先と打ち合わせがあるから参加しなさい」

「はい」


 父さんに言われるがまま、俺は取引先の方々と対面をし、父さんたちが話しているのを見ていた。


 何を言っているのかさっぱり分からない会話を一時間ほど聞き、この場が解散となった。俺はすぐさま自室へ行き、これからのことを考えようとしていた時、廊下で先ほどいた取引先の人たちの会話が聞こえた。


「今日の夜、決行するぞ」

「分かっている。流石に王族も俺たちをなめきっている」


 耳をひそめて聞いていたら、後ろから物音がなってしまい、取引先の視線がこっちを向く。


(やばい‼)


 冷や汗をかきながら頭をフル回転させていると、メイドが頭を下げて取引先に謝っていた。


(よかった……)


 その後、俺は自室へ戻り、さっきのことを思い出す。


「王族と今夜ってワード……」


(もしかして、ミアたんが誘拐されるってことか⁉)


 思い出してみると、ミアたんは16になった時、一度だけ誘拐されたことがあった。その影響で人間不信になってしまった経緯があったはず。


「どうしよう……」


 平穏な生活を送りたい。だけど、最押しキャラであるミアたんが同じ目に合うのは見たくない。


「あ‼」


(俺だとバレずに助ければいいんじゃないか?)


 そうだと決まれば、俺は魔道具屋に行き、助けるための道具を買い集めた。



 決行の夜。俺は、前世の記憶を思い出しながら、森の中に潜んでいた。


(確か、ここでミアたんが襲撃を受けるはず)


 少しづつ時間が進んでいきながら、先ほど設置した魔道具が作動することを祈る。

 すると、ミアたんの馬車がやってきた。それと同時に、隠れていた誘拐者たちが一斉にミアたんの兵士たちを殺そうとしてきた。


(今だ‼)


 先ほど設置した一つ目の魔道具を起動させて、大きな落とし穴が出来た。

 まんまと誘拐者数名が引っ掛かり、何もできない状況となっていた。


「クソ、何が起きているんだ⁉」


 誘拐者とミアたんの兵士たちどちらも驚きを隠しきれていなかったが、そんなことお構いなしに二つ目の魔道具を発動させる。


 誘拐者たちに向かって火玉ファイアーボールが放たれて、ギリギリのところで避ける。


 その瞬間、仮面をつけた俺が剣を抜いて誘拐者たちを切り裂く。その後も、三つ目四つ目と魔道具を起動させながら誘拐者を倒していく。


 そんな時、護衛をしていた男性が、ミアたんの首元に剣を突き付けていた。


「お前は何なんだ‼」

「……」

「何も言わないと、こいつを殺すぞ‼」


(ミアたんをこいつ呼ばわり⁉)


「今なんつった?」

「は?」

「お前がこいつって言っていい存在じゃねーぞ‼」


 ぶちキレてしまった俺は、最後の魔道具を起動させて、人質を取っていた男性の足元が泥になり、態勢を崩す。


 その一瞬を見逃さず、俺は男性の腕を切り落として、ミアたんを助ける。


(誰にミアたんを渡せば……)


 さっきみたいに護衛が敵である場合もある。そう考えていると、一人だけ見知った男性がいた。


 アルファイヤ・ロバート。国最強の剣士と言われ続けた老人。


「後はお願いします」

「あ、あなたは……」

「あ~。内緒ですよ?」

 

 仮面をつけていた俺は、口元に指をあてて言った後、この場を去って行った。


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