夜桜舞う夜

@yozakura014

夜桜舞う夜



春香は恋人で中国人のリンにふと尋ねた。


「ねぇ、I love you、を日本語に訳してみて」


「う~ん」


リンは大袈裟に唸って見せた。


いくら日本語が堪能とは言え、この質問は酷だったかもしれない、


「リン、」


「夜桜―かな。」


リンは優しく微笑み春香に言った。


「どうして?」


キョトンとする春香に、リンはこう言った。


「貴女が夜桜みたいだからよ」





―あれから5年の月日が経った。


私たちは別れ、別々の道を歩んでいる。


その日は接待カラオケで、終電を逃してしまった。歩いて帰らねばならない。


リンの大学の近く。コンビニの前。

そして―夜桜。


夜空を眺めていると、コンビニから忘れもしない、元恋人のリンが出てきた。

彼女と春香は、横断歩道越しに見つめ合っていた。


春香は我に返った。

そうだ。私たちは別れたのだ。

永遠のサヨナラをしたのだ。


春香は踵を返すと、家に向かう道を歩き出した。

リンもこちらに歩いて来、その瞬間、

「―夜桜」

と言った。


春香に背を向けると、リンも振り返ることなく歩き出した。


(愛していたよ―)


そんな想いに抱かれているようで春香は一筋の涙を流した。




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