「父へ」

@fukuyama_mayaku

「初めて手紙を書きます。

家族LINEにお父さんがLINEを送ったのを見て、ふと手紙を送ろうと思いました。きっかけはただそれだけです。ただ、手紙を書こうと思ったら自分の中から伝えたいことが溢れてきたので、少し長くなりますが、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。


お父さんが母と離婚してから、最初のうちは気も使わず、敬語もなしで話せていたものの、歳を重ねるにつれてそれも憚られるようになりました。そう思っていたら、お父さんも今日の家族LINEで急に敬語を使い始めたので、僕はまた少し、お父さんとの距離が掴めなくなりました。だからLINEを送るでもなく、手紙という手段を選んだのかもしれないです。

離れ離れになってから、僕はずっと独りだと感じていました。母は近くにいるし、話もしていましたから、独りとは違うのかもしれませんが、家族の中で男が一人になった、守らなければならなくなった。でも何もわからないし、相談できる相手もいない。そんな自分もわからないもので溢れて、壊れたこともありました。言い表せない孤独感といつも向き合って、躁鬱になって、乗り越えて今がありますが、それでも独りと感じることに変わりはありませんでした。もし一緒に暮らしていたとしても、相談できるような感じでは無かったかなと、失礼ながら思うところもありますが、支えがあるのとないのでは、やはりあったほうが良かったんじゃないかと思ってしまいます。


母とお父さんは、反対のことを言います。母は僕の夢を語ると「あなたの人生だから、あなたのしたいようにしなさい。なりたい夢があるのなら、そこに向かって頑張ってほしい。」お父さんは「仕事はしてるのか?早く正社員になりなさい。早く東京に出てきなさい。」と。

その言葉を聞いた当時は、その発言にネガティヴな感情を抱きました。でも、今は少しだけ受け入れられるようになりました。夢を追い続けるのも大変だとわかって自分も臨んできたつもりでしたが、最近は「やっぱり有名になれる人たちってのは一握りで、それで食っていけるってのも一握りしかいないんだな。」と、その世界に飛び込んですらいないのに、怖気付いてしまいました。ずっとアルバイトをしていたので、就職活動も大変でしたし、最初に入った会社はブラックで3ヶ月で辞めてしまいました。今は転職して別の会社に勤めていますが、もっと早い段階で就職していたら、その先の他の可能性も見れたんじゃないかな、などと夢を追っていた時と同じように、たらればばかり見つめてしまっています。きっと、母から話を聞いただけですが、お父さんも仕事に就くのに苦労をしたから、あの時の僕にも教えてくれていたんだな、と思えるようになりました。


社会人になって両親の凄さに驚かされます。行きたくない飲み会に半ば強制的に参加させられ、「この会社はこういう飲みの席でうまくやっていく人が上に上がれるんだよ。君も練習しよや。二次会行こか。」なんて言われた時は軽く絶望しました。食事のマナーが悪い上司、咀嚼音を立てたり肘をついて食べたり、下ネタでセクハラしてきたりが横暴していて、なんて最悪なんだと思っていました。酔っ払った演技をして二次会を回避して帰宅した道中で、両親もこういった付き合いを乗り越えて今も働き続けているんだな、と思った時、「そんなところで?」とは自分でも思いますが、尊敬の念を抱きました。

人との関わりが不得意なわけではありませんが、飲み会や上司とのお昼の度に「自分は社会人向かないな」と、周りも嫌々ながら我慢しているであろうことから逃げ出したい気持ちでいっぱいになり、社会人ってめんどくさいと人並みに思っています。


姉とのことはもう知ってるでしょうか。実は姉とは高3の時に喧嘩して以来口を聞いておらず、21の時にも再び喧嘩をして、全く連絡も取っていません。

大学受験を控えていて、センター試験まであと2週間程度の時でした。志望校の判定がC判定で、余裕もなくなり切羽詰まっていた時に、勉強の邪魔をされて激昂しました。姉の言い分は「私が勉強してた時も邪魔してきたじゃない。」でした。姉の中では同じ勉強だったのかもしれませんが、自分にとっては人生のかかった勉強でした。「大学受験もろくにしてないくせにどれだけ大変かわからないだろ!自分がされて嫌だったことを人にもするのがお前の倫理か!いじめてきた奴らにいじめ返すのが正しいのか?違うだろ!」と、感情のままに叫んで号泣していたのを今でも覚えています。二度目の喧嘩は、深夜に母が疲れて眠っているその横で、動画を見ながらクスクス笑っていて、そのせいで母が起きたのです。姉はいつも、母が作ったご飯をすぐに食べず、食べ始めたかと思えば文句を言ったり食べないと言い始めたり、その他諸々今まで我慢してきたことが限界を迎えて、その時も爆発しました。その際に姉とは縁を切る、と言い放ったので、正直もう金輪際話すことはないと思います。仲良くやれず、ごめんなさい。でもたとえ血のつながったもの同士でも、人同士合う合わないがあるのです。僕にとって唯一の嫌いが姉だった、仕方がないと僕は思っています。


僕はまた道に迷っています。夢を完全に諦めきれない、決断しきれない自分がいつもついて回ります。お父さん、あなたならどんなことを今の僕に話してくれるでしょうか。

僕はお父さんとも一緒にいたかった。いろんなことを教えて欲しかった。家族としてもっと近くに感じていたかった。戻ることはできないから、これからを大切にしていくしかないよね。僕も挑戦を続けているから、せめて応援してくれると嬉しいな。

東京に行ったら一緒にまたお酒を飲もう。新しい奥さんとのこともあるだろうから、時間はそんなに取れないかもしれないけれど、少しだけでも会えたら嬉しいよ。


春もだいぶ暖かくなって、外では爆音のバイクや車がせからしく行き交っているし、猫も喧嘩を始めてどんちゃん騒ぎ。今年もまだ始まったばかりだけど、あっという間に4分の1。人生は早いね。タバコもお酒も好きだろうから、健康には気をつけてね。ご自愛ください。」

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