第31話
「なんでここに・・・・・・?」
陰見理音を見た岬は疑問を抱く。
なぜ彼女がここにいるのだろうか、と。
「尾間さんに聞いたよ。君の事を」
その回答を聞き、岬は納得した。
尾間那月ならば岬の住居を知っているだろうし、居場所を他者に伝えるだろう。
しかしながら、その答えを聞き同時に怒りを抱いた。
「なんで止めるんだよッ!」
助けに来た、と理念は言ったが、岬にとってははたまた迷惑な話だ。
なぜ終わらすことを止められねばならいのか。
それを少女は解する事が出来ない。
「なんで、なんでだよぉ・・・・・・どうして皆んなボクを邪魔するんだよ!」
ただただどうしようもない怒りを覚える。
あと少しで、あともう少しで行けたのに。
「君が辛そうに見えたから」
その言葉を聞いた岬は絶句する。
「──なんてカッコいい言葉を言おうと思ったけど、違うな。そうだね・・・・・・君と話をしたくてここに来たってのに、こんな事をしようとしているんだから咄嗟に体が動いたってのが正解だと思う」
なんだよ。
ただの偶然じゃん。
「多分、この話を聞いて君は怒ってると思う。実際、私だったらそう思うからね」
「・・・・・・」
「正直、これは私の身勝手な自己満足だよ」
少女たちは雨に打たれる。
岬の防御結界は先ほどの衝撃により、割れてしまっていた。
「でもさあ、やっぱり好きな人には死んで欲しくないよ」
辛そうに理音は言った。
「なんだよ、やっぱりそれも身勝手な自己満じゃないか!」
「そうだね。これも私の自己満足かもしれない。でもね、これは私だけの思いじゃないんだよ」
そう言ってスマホを取り出す。
そこには幅舞岬の配信者としての動画のコメント欄が映っていた。
:やっぱり、ねむれむは生き甲斐だわ
:素直に好き
:この人が生きているってだけで幸せ
「ほら、ね?君が生きているってだけで幸せな人も居るんだよ」
それを見て、岬はさらに苦しそうな表情をした。
「違う・・・・・・そうじゃないんだよ、ボクはそんな事を言って欲しいんじゃないんだよぉ」
目から何かが流れ落ちる。
ただただ大粒の水玉が流れ落ちる。
雨のせいでそれが涙なのかどうか判別がつかいないが。
「知ってるよ」
「・・・・・・?」
知っている。
そんな事は理音は痛いほど知っている。
善意のコメントなんてただただ心を蝕むだけだ。
ましてや悪意のコメントなぞもっとである。
だからこそ、それが分かる理音だからこそ、岬の心はよく分かっているのだ。
「悔しいんでしょ?私に記録を抜かされたことが悔しくて悔しくて、仕方がないんでしょ?」
全くもってその通りだった。
しかし、図星であったからこそ岬はやるせない苛立ちを抱く。
「・・・・・・そうだよ!その通りだよ!でも、どうしようもなくボクは弱いんだよ!もう動くことが怖くて怖くて仕方がないんだよ!!!」
それが全てだった。
それこそが少女の本心だった。
理音は一つ言葉を投げる。
「その通りだよ。君は弱い人間だ。悔しい時は悔しいし、苦しい時は苦しい。だから、辛い時は誰かに泣きついていいんだよ」
そう言って理音は岬を優しく抱いた。
人間はどうしようもなく弱い。
肉体的な弱さ、ではなく精神的な弱さである。
人は苦しければ簡単に死ぬ。
だから、人は人に苦しさを打ち明けるのだ。
そして、その言葉を聞いた岬の心の琴線はとっくに千切れていた。
「・・・・・・ああ、ずるいじゃないか。そんな事を言われちゃったら、ボクは・・・・・・うぅ、うっ──」
涙が溢れ出る。
ただただ今までの苦しみが涙として、嗚咽として流れ出る。
しかし、その全てを小さな黒髪の少女は受け止めた。
「──苦しかった。みんなに死ねって言われて苦しかった。頑張れって言われて苦しかった・・・・・・」
「そう」
「配信は楽しいのに、みんなが離れていく事を考えたら苦しくなった・・・・・・」
「そうだね。今までよく頑張った」
そう呟き、岬の小さな頭を撫でた。
彼女たちは普段から魔力を扱うため、魔力器官の異常発達により体の成長が妨げられた。
それ故に両者とも子供ほどの体型なのだが、側から見ると姉妹のようだった。
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