第25話 宣戦布告
朝月新聞の記者『畠山秀雄』は、この日本にダンジョンが生成されている現実を受け入れられず、これはテロ組織による攻撃で、自衛隊はその事実を隠して『神の試練』などと嘘を吐いていると確信していた。
現在行われている記者会見も、その嘘を国民に植え付けるための陰謀なのだと、彼は歯ぎしりする。
(絶対に暴いてやる!)
そして畠山の質問の順番が回ってくる。
畠山は堂々と手を挙げた。
「はい、そちらの男性の方」
畠山は立ち上がり、ニコを睨んだ。
「朝月新聞の畠山と申します。そちらの黒いスーツの男性、ニコ様にお伺いします。タバコの神様ということですが、どこか神社で祀られているのでしょうか?」
ニコが常世田の前に置いてあるスタンドマイクを手元に寄せると、畠山はニコが回答する前に敵意剥き出しの口調でこう続けた。
「聞いたことないんですけど?」
ニコの眉がピクリと上がる。
ニコは改めてマイクを前に置き、こう答えた。
「貴様が聞いたことがあるか否か、それと我が存在するか否か、これらに関連性はない。端的に言えば、貴様が無知なだけの話だ」
会場が騒つく。畠山は貴様呼ばわりされたこと、無知と罵られたことに腹を立てた。
「お言葉ですけど『貴様』とは何事ですかね? それと、私が無知だと言うなら、貴方はその辺に詳しいと言うことですね? なら教えてくださいよ。貴方が神だと言うなら、その起源を説明してください」
0512
盛り上がって参りましたwww
0513
いいぞもっとやれ
0514
これ畠山負けるだろ。タバコの神様いるぜ?
0515
>>514
野椎神な
0516
ニコって名乗ってるのは何なん?
0517
わからん。なんか事情があるんだろ
ニコは溜め息をひとつ吐くと、常世田も知らなかった自らの起源について話し始めた。
「我は何度か信仰を失い消滅しかけた。最初の記憶は薄れ、今ではもう思い出せん。
1番古い記憶は昭和だ。喫煙率は80%を超え、我は今の姿形で東京へ舞い降りた。
自分の起源について調べたこともあったが、はっきりとはわからなんだ。
0568
野椎神は別名カヤノヒメ。女神。
0569
本人が別人って言ってるんだから違うんだろうな
0570
見つけた。L神。
0571
>>0570
なんぞ?
0572
>>0570
GJ。マヤ文明の神様らしいな。
0573
おい誰かニコ様に教えてやれよ
「ふふはは! ご自分の起源もわからないのに神様のフリですか!? ご冗談もほどほどに――」
すると、シヴァがガタンと立ち上がって畠山を見下ろす。その表情は呆れた目で彼を蔑む様子で、シヴァはマイクなしで良く通る声で告げた。
「君、神に対する態度がなってないね。君みたいな人間はさ、神の技を『体験』するまで信じられないんだよね。体験、してみるかい?」
シヴァの両目が赤く光る。それと同時に彼の周囲の空気が渦を巻いて白いつむじ風となった。
会場は一気に『神を怒らせた』と気付き、カメラマンは命を賭けてカメラを回した。
パンッ!
それを鎮めたのはミーシャだった。彼女は大好きなプリン(5個目)を食べるのをやめ、両手で
そして不思議な力で会場全体に響き渡る声を発し、畠山に告げる。
「煙草の歴史は古いよ? ミーシャの御祭りでも儀式に煙草が使われてたからね。限りなく神寄りの道具と言えるね。それが神格化していても何も不思議ではない。
畠山。神を舐めるなよ?
お前の態度次第で東京直下型大地震を見せてやってもいいんだぞ?」
すると、誰もが体感したことのある『耳に響く重低音』と共に、会場が縦に小刻みに揺れ始めた。
皆のスマホから一斉に緊急地震速報のアラームが鳴り響く。
0603
誰かケロちゃんを止めろ!
0604
戦犯。畠山。
0605
おいィィィィ!結構揺れてるぞ!
0606
ミシャグジを怒らせるなとあれほど。
0607
ここはひとつ銀座の最高級プリンをお供えしてだな
0608
ミシャグジさまプリン食いすぎやろ。糖尿病になるで。
畠山は畏れた。何かの仕掛けがあるのかとも思ったが、幼女が地震の予告をした上で、実際に東京が揺れ、緊急地震速報まで発せられた事実に、疑いようのない未知のチカラを感じてしまったのだ。
ミーシャは舌舐めずりをした。
畠山の『恐怖』を食べているのだ。
それは畠山にも伝わった。
抗いようのない神の息吹が畠山を飲み込む。
「ハッ! ハッ! ハッ! も、もうわかりました! し、質問は以上ですっ!」
畠山が椅子にドカッと腰を抜かしたのと同時に、地震は止まった。
会場がパニック寸前で慌ただしく右往左往するのを、加瀬1等陸佐は落ち着いて沈静化した。
「えー、皆様、どうか落ち着いて下さい。ここに居られる神様方は、日本国民の味方です。
ですが、敵意を向けられては味方も味方ではいられなくなってしまいますね。
どうか、この方々を敵に回さないで下さい。それは自衛隊の意図するところではありません」
それを聞いて、会場は静まった。
テレビ画面では、どのチャンネルでも緊急地震速報の報道がなされており、局によっては、画面右上に小さく記者会見の様子が映し出されていた。
少し落ち着いたところで、ニコがマイクに向かって話し出す。
「少しいいかな?」
司会者と加瀬1等陸佐は、頷いてニコの発言に耳を傾けた。カメラマンが一斉にニコをアップにして映し出す。
「我がこの場で言いたかった事が一つある。
日本各地の契約者に告ぐ。
かかって来い。
全て蹴散らしてくれる」
ニコの表情はまるで悪魔のように口角を釣り上げた笑みであり、そこから覗く犬歯がギラリと光っていた。
全国ネットの宣戦布告は瞬く間に日本各地へと届き、テレビを見ていた契約者達は、この挑発に鼻息を荒くするもの、真剣な眼差しでニコの実力を推し量るもの、はたまた逃げる準備をするものなど、様々な反応を見せた。
巨大掲示板はお祭り騒ぎで、一部の有志が神や妖怪、天使や悪魔をリストアップし、誰が1番になるのか予想するWebサイトまで立ち上がった。
こうして、自衛隊率いるダンジョン攻略チームの発足に関する記者会見は幕を閉じ、世間は実在する神を目の当たりにしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます