第23話 仲間たち

 常世田たちは、本日合計5ヶ所のダンジョンを攻略し、極秘基地『陽炎かげろう』へと帰還した。



――19時。会議室。



「本日の攻略、お疲れ様でした」

「「「お疲れ様でしたー」」」


 加瀬1等陸佐が常世田たちを労うと、本日の敵の情報や、宝箱からの戦利品、門の主の様子などの報告会が始まった。


 報告は主に新庄が行い、各ダンジョン内での状況を詳しく伝えた。


 獲得したメダルは5枚。スキルブックも5冊。その他、宝箱から得られたものは、それぞれ個人が獲得したものの所有権を認め、自衛隊が一時預かることとなった。


 王様については、レントゲン検査など、身体測定を含めた念入りな調査を行うこととし、王様もこれに同意した。


「王様ー、寂しくなったら私を呼ぶんだぞ?」

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。デミニアンが付いているので大丈夫だも」


 王様は係の者に連れられて会議室を後にした。右手には指はないが、不思議なチカラでデミニアンがプラプラとぶら下がっていた。


 ミーシャはすっかり王様と仲良くなり、彼が解剖されたりしないか心配だった。

 自衛隊もまた、ミーシャが王様を大切にしていることを考慮し、万が一にもミシャグジを怒らせることがないように配慮した。




「それでは、新しいメンバーをご紹介します。黒崎君、彼らを呼んでください」

「はっ」


 常世田の「まじで?」というリアクションと共に、総勢6名の使徒と契約者が入室する。それは1人の自衛官が付き添う、常世田たちと同じ構成のチームだった。


 服部は推察する。自分たちと同じ構成ということは、各チームを率いる自衛官は、新庄と同じタイプの『超人』ということだろうか。



 服部の推理は的を得ていた。


 彼らを率いるのは、


 『小野寺おのでら将司しょうじ


 1等空佐。彼は空自の最終兵器と呼ばれ、新庄と同じ『不死身の兵士』として改造手術を受けた。その際、彼の細胞は突然変異し、体の輪郭を保ったまま『亜酸化窒素』――いわゆる麻酔ガスとなった。

 小野寺は覚醒しながら麻酔ガスを撒き散らすガス人間である。



「小野寺と申します。階級は1等空佐。自分は攻略班第2チームのリーダーとして彼らを率いています。お前ら、自己紹介だ」


 小野寺の横には、男性が3名と、彼らに寄り添う契約者が並んでいた。小野寺の分厚い胸板、屈強な上腕筋、Tシャツの上からでもわかる腹筋のせいで、彼らが貧弱に見える。



 彼らの氏名などは以下の通り。



『田村孝明こうめい


 21歳。現役東大生。アマチュア将棋7段の頭脳派。

 契約者は『オモイカネ』。アマテラスの岩戸隠れ事件を解決に導いた策士であり、知恵の神と呼ばれる。

 使徒としての能力は『未来視』。田村には8秒先の未来が見えている。



『岩谷哲郎』


 43歳独身。通り魔殺人事件の加害者。服役中だったところを脱獄し、小野寺によって確保された。

 彼の契約者との契約形態は独特で、すでに5年前から契約者に取り憑かれていた。その影響で何人もの人を無意識に殺めてしまった。

 契約者の名は『ジャック・ザ・リッパー』。ロンドンから東京へやってきた悪魔である。

 使徒としての能力は『切り裂き』。岩谷が右手に出現させるカミソリに、斬れないものはない。



『佐々川恭一』


 30歳独身。刀剣マニア。江戸時代から続く『佐々川流古武術』道場を経営し、幾つもの真剣を合法的に所持している。

 契約者は『アメノオハバリ』。イザナギが迦具土カグツチの首をねた際に使用された剣の神格で、この剣により複数の神が産まれた。

 使徒の能力は『斬首』。佐々川は、狙った敵の首を100%斬り落とす。



 加瀬1等陸佐は、彼らの自己紹介が終わると、新庄たちを第1チーム、小野寺たちを第2チームとし、明日からの予定について話し出した。


「明日は第1チームには記者会見に出席して頂きます。第2チームはダンジョン攻略。メダルとスキルブックについては、各員に均等に分配できるようにしたいと思います」


 メダルは、神々が収集して、試練終了後の「新たな能力」を購入するための通貨である。

 強力な能力ほど高価であり、例えばシヴァは反物質を扱う能力を欲しがっている。

 日本各地で、このメダルの争奪戦が繰り広げられていた。


「ニコ様は何の能力が欲しいの?」

「ん? 我か。我は特に欲しいものなどないな。今のままで良い」

「んじゃメダルどうすんの?」

「シヴァにくれてやろう」


 それを聞いたシヴァが驚いた様子でニコを見つめる。ミーシャはそれを聞いて、自分もメダルをあげると言い出した。


「2人とも……いいのか?」

「うん。反物質高いでしょ?」


 ミーシャは反物質の値段を知らなかったが、安価ではないことはわかっていた。


 反物質の価格は――メダル150枚。


 1日1つダンジョンを攻略していたのでは、ダンジョンのレベルが上がりすぎて、いずれ攻略できなくなる。

 1日5枚。これならダンジョンのレベルも最大30。ギリギリ千秋でも門の主を倒せるかどうかというところだ。


「ひとつ、提案なんですけどいいですか?」


 第2チームが席に着いたところで、常世田が手を挙げた。加瀬1等陸佐が常世田を指名する。


「ハイ、常世田君」

「この後みんなでファンタジー系のアニメ見ません? 今日、ウチのチームでスケルトンとかオークとか知らないメンバーがいることが判明しまして。その辺の基礎知識を共有したいのですが」


 第2チームでも、岩谷と佐々川がファンタジーの知識に乏しかった。




 一行は、急遽パソコンとプロジェクターを用意し、会議室のスクリーンに映像を投影する準備を始めた。


 ここに、『公務』としてアニメを見る自衛隊幹部らが集まり、常世田は、自信満々の顔でアニメ配信サイトから、『転〇ラ』をダウンロードした。


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