悪女は嗤う。旦那様、私達とってもお似合いだったのね♪

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お似合いの二人

シオン・アグニス侯爵令嬢は幼い頃から虐げられてきた。実の両親に虐待されてきたのだ。


それは産まれて来たときに、金髪で緑の瞳を持つ両親から黒髪で赤目の子供が産まれてきたからだ。


最初は妻の不貞を疑ったが、妻は必死に否定し、高名な医者など呼んで調べた所、父親の方の先祖に黒髪、赤目の人物がいた事から、先祖返りした子供だと結果がでた。


しかし、自分達に似ていない子供で、翌年には自分達にそっくりの双子の長男と妹が産まれた事で、シオンの待遇は、どんどん酷くなっていった。


ただ、この国の侯爵令嬢であり、黒髪、赤目の子供は珍しく、産まれた時に疑いを晴らすため色々と調べた事で、色々と周りに声を掛けていたため、シオンの事を隠す事ができず、死なないようにメイドに世話をさせていた。


そして、5才になる時にこの『エリュシオン王国』の王城に呼ばれた。


この国には5才になると、顔見せの為に必ず登城して、自分達の子供を紹介しないといけない決まりがあり、健康に成長した姿の確認と、子供の取り替えで、貴族のお家乗っ取りなど防ぐ為もあった。



「ほぅ?これがアグニス侯爵の令嬢か。確かに珍しい先祖返りだな」


国王様は顎に手を当てて少し考える仕草で言った。


「アグニス侯爵よ。容姿が違うとはいえ、貴殿の子供に違いはない。大事に育てるように。これは命令ではないが、生まれてきた子供に罪はない。大切にしてやりなさい。私の願いだ。それと、我が弟にも同じ黒髪の息子が産まれているのは知っておろう?」


「はい。確か3歳年上で現在8歳でしたでしょうか?」


「うむ、同じ先祖返りした者同士だ。婚約を結んでみてはどうだ?」


!?


王弟とはいえ、王家に縁ができるのはありがたい。

本人の意思も確認せねばならないが、国王様が口利きしてくれると言うなら、ほぼ確定だ。


アグニス侯爵は2つ返事でよろしくお願いしますと国王に了承したのだった。


とはいえ、王弟陛下は辺境の国境に領地を構えており、隣国との小競り合いで、なかなか領地からでる事ができない。全て代理人を通して、手紙でのやり取りで婚約が成立した。



シオンの価値が上がった事で教育が始まった。

無作法で嫁がした場合、アグニス侯爵家が非難されるからだ。そして、厳しい教育が始まり10年の歳月が流れた。




シオンは深いため息を付いた。1歳年下の兄妹である二人に嫌味を言われたからだ。

年々嫌がらせなど酷くなってくる傾向だった。

シオンが王弟殿下の息子と婚約しているのが気に入らないのだ。


とはいえ、物理的な虐待は減った。

嫁いだ時に傷があれば虐待がバレてしまうからだ。

精々、食事を抜かれたり、装飾品を盗まれたりする程度だ。


そして急に嫌がらせのように学園を退学させられて、辺境の王弟殿下の息子の元へ嫁がされる事になった。


いまだに会った事はないけれど、私と同じ黒髪と言う所と、武力に優れており黒獅子と恐れられていると言う情報しかない。



私はろくに準備もさせて貰えず、急遽、馬車で辺境の領地へ向かう事になった。


ガタッゴトッ

ガタッゴトッ


馬車に揺られながらボンヤリと考えていた。

私の生きる意味ってなんだろうか?

嫁ぎ先でも同じ様に抑圧されて生きていくのだろうか?


学園にいる時が1番楽しかった。知識を蓄えるのが嬉しかったし、少なからず友人もできた。

私の人生はいつまで家族に翻弄されるのだろうか?


胸の中のモヤモヤから目を背ける様に、今後の事を考えるのだった。


しかし予想外な事が起きた。

辺境の領地の屋敷に到着した時だった。


「「ようこそ、シオン・アグニス侯爵令嬢様!!!」」


執事、メイド一同から歓迎されたのだった。


「おおっ、噂通りに神々しい黒髪と赤目でございます!」

「本当に!レオン様とそっくりね!」


ささっ、こちらにと屋敷に入ると、大きな部屋に通された。


「クククッ、ようやく我がもとに」


部屋に入って来ると同時に身長の高い黒髪の男性が入ってきた。


「…………本当に私にそっくりな髪色」


ポツリッと呟くように口からでた。


「そうだなとは姿絵で知っていたが実物は本当に綺麗だ。我が父も、もうすぐやってくる。少し話でもしようか?」


入ってきたときの口調とは打って変わって、レオンは目配せをして使用人達を下がらせた。


「あ、あの!どうしてこんなに歓迎されているのですか?」


「そうだな。君は何も知らされていないのだったな。順を追って話そう」


レオン様の話は驚くべきものだった。


この黒髪は実は【神の寵愛】を受けた者の証であり、黒髪の人間は何かしらの能力に優れているそうだ。


しかし、王家は黒髪の持つ能力を、いつの頃からか危険視するようになり、黒髪は不吉の者であると噂を流して、余り黒髪の人間が増えないよう見張っていたらしい。


今回、王弟に王権の乗っ取りを恐れた現国王は、実の弟を小競り合いの絶えない、辺境の領地へ追いやった経緯がある。その事を恨んで叛逆させないよう、同じ黒髪の女である私を嫁がせたというらしい。実家の権力と後ろ盾が王家にも必要だったみたい。



「ここで少し訂正するが、私は兄上を恨んではいないよ?」


「父上!?」


話している間に義父であるレオンの父親であるアメジスト公爵が帰ってきたようだ。


「兄上は臆病なんだ。だが、私利私欲で国を治める人でもないし、基本的に善政を敷く人だよ。だから【私は】今の環境で満足している」


公爵は含みある言葉で言った。


「それはどういう………」


「シオン君が息子と婚姻を結んだなら私は隠退する予定だ。これからは君たちの時代と言うことだよ。黒髪の夫婦なんて私が知る限りここ100年は居なかったはずだからね」


シオンは思い切って言ってみた。


「レオン様には黒獅子と呼ばれるほどの武力が備わっている様ですが、私には特に秀でた能力はありません。ご期待には添えないと思うのですが…………」


「君の事は調べてある。今まで実家で酷い目に合っていたね?やりたい事もさせて貰えなかったのだ。何が得意かこれから見つければいい。それに、特に秀でた能力がなくとも息子は気に入っているようだしね?」


公爵はチラッとレオン様を見て言った。


「えっ、私達今日初めて会ったはずですが?」


「コホンッ、実は君の身に何かあってはいけないと思い、アグニス侯爵のメイドに何人か息の掛かった者を派遣して、シオンを助けながら報告させていたんだ」


!?


「そういえば、こっそりと助けて貰っていました!レオン様が助けてくれてたんですね。ありがとうございました」


フカブカと頭を下げて御礼を言った。

レオンは、シオンにストーカーや気持ち悪いと思われないか、内心ビクビクしていたが、シオンの素直な御礼に毒気を抜かれた。


「い、いや。御礼はいい。婚約者を助けるのは当然のことだ」


シオンは疑問に思っていた事を尋ねた。


「どうして今まで会いにきて頂けなかったのですか?」


「それは、王家が黒髪の人間を監視していたからだ。不要に会いに行けば、正式に婚姻を結ぶ前に、王命で無効にさせられるかも知れなかったからだよ」


レオン様は補足事項として言った。


「因みに、シオンには悪いと思ったけど、婚姻を急いだ理由は、シオンの身に危険が迫っていたからだ。あのクズ家族………兄妹が君に毒を盛ろうとしていたんだ」


「嘘っ!?」


嫌われていたけど、まさか殺したいほど妬まれていたなんて!?


「君が、シオンが無事で良かったよ。ここでは安心して過ごして欲しい」


シオンは素直に頷いた。


婚姻は用紙にサインして正式に結ばれたが、結婚式はしっかりとしようと言う事になり、半年後に行うことになった。


こうして、シオンのアメジスト公爵家で快適な暮らしが始まった。


「シオンは学園で首席だったそうだね。女主人の仕事はゆっくりと覚えていけばいいよ。今は自分のやりたい事を見つければいい」


「自分のやりたいこと?」


イマイチ、レオン様の言葉は理解出来なかったが、確かに今まで出来なかった事をなんでもやってみたる事にした。料理に経営学、魔法、遊戯、軍略などなど、目につくもの全てやってみた。


するとシオンのハイスペックが人々の目に留まることになる。


料理を学び、経営学を学んだシオンは、オシャレなレストランを試しに運営して、大ヒットした。

すぐに2号店、3号店が建設される事になった。


更には辺境領での問題点を洗い出して改善し、人々の暮らしを良くしつつ、税収も大いに増加した。


次には、隣国が攻めて来たので、シオンの計略により圧倒的勝利を収め、隣国の領地を刈り取ってしまった。しばらくは隣国に行動を起こす体力はなく、平和な時間が流れる事になった。


この半年でシオンは辺境の領地で受け入れられる存在になっていた。


「いやーめでたい!レオン様にシオン様はお似合いだ!」

「本当にシオン様は辺境の地の女神様だわ♪」


「同じ黒髪同士で雰囲気も似てる。あの黒獅子のレオン様が幸せそうに笑っているぞ!」


結婚式では領民の多くが訪れ、大変混雑した。

領民全てが、領主であるレオンとシオンの結婚式を見ようと、首都に押しかけてきたのだ。


結婚式の教会は貴族や関係者のみしか入れなかったので、そのままオープン馬車でパレードをする事になった。


「まさか、こんな大勢の人が見にくるなんて…………」


圧倒されているシオンにレオンは笑いながら言った。


「君がこの半年間頑張った結果だよ。でも、ここまで凄いとは思っていなかったけどね」


「もう!言い過ぎですよ!たいしたことはしてませんから………」


レオンは恥じらうシオンに見惚れた。


「本当に綺麗だよ。純白のウエディングドレスに、君の黒髪が良く映えている。正直、他の者に見せたくないぐらいだ」


「れ、レオン様もとってもカッコいいです。私にはもったいないぐらいです」


お互いに初々しく赤くなる様子に、パレードの中、領民達も、ホッコリした気持ちになり、心からこの若い夫婦を祝福するのだった。


こうして辺境の領地は大いに繁栄し、シオンとレオンは永く幸せに暮らしたのでした。






───と、話は終わらない。



あの素晴らしい結婚式の後は、シオンとレオンは正式に結ばれた。


それから5ヶ月ほど経ったある日───


「王都で建国記念のパーティーがある。久し振りに行ってみるか?シオンが嫌なら無視するが………」


「いいえ、行ってみたいです。学園での友人にも会いたいですから」


急に退学したため、お別れをきちんと出来なかった。ただ、辺境に来てから自由に手紙を出すことができたので、定期的に連絡を取り合っていたのだ。


「そうか。今回は隣国の領地を奪った功績の表彰もあるそうだ。父上に行って貰おう思っていたが、シオンが良いなら一緒に参加しよう」


こうしてシオン達は久し振りの王都へ向かった。

馬車で揺られながらも景色を楽しみつつ、来た時とは違い、あっという間にたどり着いた。


王都にあるタウンハウスで一泊してからパーティー会場である王城へ向かった。


「もう大勢の方々が来てますね」


大広間に入るとすでに多くの貴族達が来ており雑談していた。


ヒソッ

「見て、黒獅子王子と呼ばれているアメジスト公爵とその夫人よ!」

「二人とも黒髪に赤目と言う噂は本当だったのか…………」

「黒髪は不吉だと言われているが、あの二人は神秘的な姿に見える」

「本当にお似合いね」


多くの人々が値踏みするかの様にシオン達を見ていた。しかし、多くは好意的な視線であった。


「あーら、薄汚い元お姉様じゃないの!」


そんな事を言いながら妹がやってきた。


「何よ!いつも辛気臭いお姉様が着飾って!似合っていないわね~」


シオンの最高級のドレスを見て嫌味を言ってきた。

今回のシオンのドレスは白をベースとした金の刺繍がしてあるドレスで、肩のショールは赤色で構成されており、長いシオンの黒髪がとても映えていた。


「何だ?この薄汚いゴミは?」


隣にいたレオンが目を細くして殺気を放った。


「な、何よ!私を誰だと思って───」

「この美しいシオンの姿を見て似合っていないとは、目が腐っているだろう?ほら、腐っているんだからゴミに違いない。さっさと帰るがいい。ほら目ざわりだ。帰れゴミ。クズ。カスが」


妹が言い返す前に、被せる様に言い放った。


「なっ、ななな!?」


反論させずに追い込むレオンに、妹ちゃんが驚愕の【なななっ】としか言えなくなり、多少空気の読める兄が引きずっていった。


「申し訳ないが、シオンの妹ととは思えない下品な女だな?」


「大丈夫です。私も妹や弟とは思っていません。血の繋がっただけの赤の他人ですわ」


そう言うシオンの頭を優しく撫でるレオンだった。

そして、国王が入場してきた。


会場の貴族達は臣下の礼をして迎えた。


「皆のもの!忙しい中、本日は出席してくれて礼を言う。今日は大事な話がある。楽にして聞いて欲しい。今回、アメジスト公爵が、隣国の長年の小競り合いに、ようやく終止符を打ってくれた!隣国の領地まで切り取った大金星である!」



おおっ!!!

会場に感嘆の声が響いた。


「しばらくの間とはいえ、向こう側に再度戦争を仕掛ける体力はないであろう。この期間を有意に使い、国力の増加に務める予定だ。そして、この機会に私は王位を譲ろうと思う」


ざわざわ

ざわざわ


まだ50才にもなっていない国王が王位を譲るという言葉に会場が大いにざわめいた。


「失礼致します。国王陛下の長男であるアベル王子に王位を譲られるのですか?」


国王様には王子が1人と姫君が3人いる。

しかし、唯一の王子が病弱である事は有名な話であった。


「知っての通り、私の息子は病弱であり、国王の激務には耐えられないだろう。故に、王位を私の弟の息子であり、今回の立役者であるレオン・アメジストに譲る!」


!?


「国王様はよろしいですか!ご自身の子供に王位を継がせなくて!」


王族派は必死であった。

自分の子供を王配に嫁がせようと画策しており、辺境の地に追いやられた王弟を見下していたからだ。


「すでに息子からも了承を得ている。自分では担う事ができないと臣下に降る事も言われている」


ぐっと、王子自身も納得しているのでは説得するのは難しい。苦虫を噛んだかのような顔をする貴族が多かった。


「レオン・アメジスト公爵よ!王位を継ぐことに異論はないな!」


サッと臣下の礼をして答えた。


「はっ!不肖ながらレオン・アメジストは謹んで王位を継がせて頂きます。そして、より繁栄できるよう粉骨砕身、頑張っていく所存です!」


シオンもこんな話が裏で付いていたとは知らずに、驚きを隠せなかった。


パチパチッと最初はまばらだった拍手は、次第に大きくなり、会場を揺らすほどの大喝采となった。


「驚いたかい?」

「ええ、びっくりしましたわ。せめて私には教えてくださいよ」


プイッと横を向くシオンが可愛らしく、手の取り、手の甲にキスを落とした。


「すまない。最近のシオンは凄すぎて、びっくりさせたかったんだ」


もうっ!と、甘い空気が二人の間に流れた。

しかし、その空気を読めない者がいた。


「納得いきません!そんな醜い無能女が国母になるなんて許せませんわ!!!」


二人の甘い空気で静かになった会場で、その声はとても響いた。


「ほう?無能とはどういう事かな?アグニス侯爵令嬢よ」


国王様も声を低くしていった。


「だ、だって、お姉様は家では何もできない無能でしたのよ!ただ辺境の黒獅子王子に嫁いだだけのラッキーで王妃になるなんてありえませんわ!」


深いため息を付いてシオンが反論しようとしたが、別の者から声が上がった。


「それは、アグニス家でシオン令嬢を冷遇していたからであろう!」


そこには遅れてやってきたレオンの父親である前アメジスト公爵がいた。


「おおっ、ガイル!来てくれたか!」

「お久しぶりです国王陛下………いえ、兄上、遅くなりました」


深く頭を下げるとアグニス令嬢に視線を向けた。


「何なのよ!私達の事を知らずに変な事言わないで!」


ヒステリックに叫ぶ妹は、いっそ可哀想に思えてきた。


「アグニス侯爵!夫人はいないか!!!」


前アメジスト公爵の声に、しぶしぶと両親が出てきた。


「貴様の所の子供達にはどういう教育を施しているのだっ!」


公爵の怒気に萎縮して言い訳を口にする両親を見てシオンの心は冷めていた。


『こんな小物達に私の人生は無駄にしたというの?』


今は幸せだ。子供の頃からか学園に入学する約15年間の屈辱の日々は、こんなヤツらのせいだったの?


「とにかかく!娘の発言は申し訳ございません!しかし、我々家族はシオンを冷遇などして───」


「してたじゃない!!!黒髪で生まれたから、容姿が似てないからと言って、世話はメイドに任せっきり!食事も私だけ別に!ドレスだって妹のお下がりばかりで新しい服なんて成長してから1度も買ってくれなかった!いつも平民の着る麻でできた洋服で過ごして、パーティーの時だけお下がりのドレスを着て出席。妹のドレスだから似合わないのは当然で、いつも笑われていたわ!学園だって急に婚姻する事になり、退学させられた!」



グサッ!!!


最後の言葉はレオンの胸を抉った。


「ち、ちがっ…………」


両親はシオンの切実な叫びのような言葉に、ろくに言い返す事が出来なかった。


「……………アグニス侯爵よ。私は過去に言ったはずだ。『容姿が違うとはいえ、貴殿の子供に違いはない。大事に育てるように』とな。私の言葉を無視するとは、大物になったものよ」


ヒヤリッ


アグニス侯爵は全身から冷や汗が止まらなかった。


「それは………はっ!?学園を退学せざる終えなかったのは、私のせいではありません!アメジスト公爵が急かしてきたからです!」


ようやく逃げ道を見つけたとアグニス侯爵は声を高くしていった。


「そうだな。それについては私にも責任はあるだろう。いっこくも早く、アグニス侯爵家からシオンを連れ出さないといけなかったからな!」


レオンは手を上げると、壁にいたメイドの1人が書類を持ってやってきた。


「私がシオンを早く辺境の領地へ呼んだのは、貴様がシオンを殺そうとしていたからだ!!!」

(正確には両親は関与していない。この兄妹がだ)


ざわざわ

ざわざわ


また会場がざわめいた。


「嘘よ!何処にそんな証拠があるのよっ!」

「そうだ!名誉毀損で訴えてやる!」


これには兄妹で喚いた。


「証拠はここにある。貴様の名前で購入した毒物と購入証明だ。こういった業者は契約書を裏切りの保身に大事に保管している。貴様達の指の朱印も押してある。言い逃れはできない!」


ガクガク

ブルブル


真っ青になる二人に両親はどういう事だ!と怒るが────


「もう辞めさせたが、アグニス侯爵家には私の手の者をメイドとして送りこんでいた。内部の出来事も全て把握している。諦めるんだな」


!?


両親は両膝を地面に着けて全てが終わったと真っ白になった。


「未遂とはいえ。実の姉に毒を盛ろうとは許しがたい!そして、アグニス侯爵も、釘を刺していたにも関わらず、シオン令嬢を冷遇、及び虐待に近い事もやっていたそうだな。罰として降爵させ、子爵位にさせる!そこの兄妹は家を継がせる事を禁じて、貴族位を剥奪!平民として今後は生活せよ!アグニス子爵家を存続させたければ、親類から養子を貰い継がせるように」


嘘だーーーー!!!!


真っ白になった両親と、最後まで醜く叫び散らす兄妹を会場から引きずるように兵士が連れていった。


「まったく愚かな者達だ。ここにいる者よ。おのが行動を返りみるがいい。アグニス侯爵がシオン令嬢を愛情深く育てておれば、国母を輩出した名家として名を馳せただろう。良い行いをすれば、何れ自分に返ってくる。その逆もしかりだ」


国王様の言葉を胸に刻みパーティーはお開きとなった。


「ねぇシオン?あの時、同情を買うために会えて、切ない感じで叫んだよね?」


「わかりました?私どうしても許せなかったみたいなんです。あの家族を破滅させたくてずっと狙っていたんです。…………こんな執着する私は嫌い………ですか?」


少し言葉に詰まりながら言うと───


「いや、俺もシオンを手に入れようとずっと執着して狙っていたからな」



「旦那様、私達とってもお似合いだったのね♪」



二人は顔を合わせて笑い合うのだった。


実は知られていない事実があり、馬鹿と天才は紙一重と言うが、能力に秀でた神の寵愛を受けた者達は、実は何かしらの【欠点】も持っているのだ。その時々や人によって内容は変わるが、二人の共通した欠点は【執着】であった。


レオンはまだ見ぬ愛しい人への執着。

シオンは、悪意の被害を受けた場合は、より過激に反撃すると言うものだった。それはもう地獄の果てまで追い掛けてでも、反撃してやると言うほどであった。今まで何もさせて貰えなかったシオンは能力の開花と同時に執着と言う欠点も生れたのだった。



それからは忙しい毎日だった。


住処を辺境から王城へ変更となった事で、辺境の領地は一時的に前アメジスト公爵が復帰して、親戚筋から後を継がせるために指導することになった。


国王様もずっと、弟を辺境の地へ追いやった事に負い目を持っていて、今回の王位譲渡に伴い、辺境の地で静かな余生を過ごすと、旅立っていった。


辺境の地で前アメジスト公爵と釣りをしたり、狩りをしたりと、和解して楽しそうに過ごしているらしい。



シオンも王妃教育が始まったが、1度学んだ事は一度で覚えたため、短期間で必要な事をマスターした。


───そして───



「レオン!実は───」


シオンのおめでたに、いつも冷静な黒獅子王子…………いや、黒獅子国王は喜びの余り飛び跳ねたのだった。


後に、黒髪の偏見を払拭する事に尽力し、産まれてきた子供に嫉妬して、ケンカしたりと親バカを発揮しつつも、幸せな日々を過ごして行くのだった。




【END】





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