第12話 天地鳴哭

「【インフィジャール】」


 ベネトナシュがまたしても爆破魔術を繰り出す。今度は指向性を絞ったようで、帝国兵だけが吹っ飛んでいった。


「ファクダ。今のうちに研磨を」


「了解」


「ちょっと待て。何をする気だ?」


「ここで宝剣アイレスを研磨します。使える状態になるように」


 本気のようだ。こんなところで抜けば、また黒魔竜が襲いかかってくる。危な過ぎる橋だが、状況を打開するにはそれしかないか。


「さっきの【インフィジャール】も、まるで手応えがなかった。それしかないのよ。ヨハンナ様の遺物でしか、奴には対抗できない」


 ベネトナシュはそう説得してきた。それってつまり、俺にあの帝国兵と戦えということなのか?


「時間がありません。始めましょう」


 すると、ファクダの残った片腕は青く輝く砥石に変化した。どういうからくりなのかは知らんが、これで錆を落とすようだ。胸から放水ホースまで展開され、水に浸しながら研磨作業が始まった。


 だが、その間、敵が待ってくれるはずもない。


「人形風情がうるさいな。劣等種にもなれないガラクタは、ここで死んどけ」


 間髪入れずにハミルトンの拳がベネトナシュに突き刺さる。ベネトナシュは確実に腕をクロスさせ防いだが、そのまま吹き飛ばされた。


 これが獣人の膂力か。まずい。想定以上だ。


「劣等種などと蔑まれながらも、安全と平等を望み帝国に飼い慣らされたのは自分たちの意志でしょう?」


 ベネトナシュは蒼鋼木の下から這い出し、立ち上がる。既に両腕は折れていた。さっきの一撃で腹にも亀裂が入っているし、まずい状況だ。


 さらには、黒魔竜の群れが上空を旋回しているのが見えた。本格的にやばい。帝国兵ともども全滅の可能性が出てきたな。


「終わりました! これを!」


 ファクダは青緑色に輝く宝剣アイレスを投げてよこした。俺はそれを確実にキャッチし、構える。持っただけで、凡百の剣とは比較にならない強度を持つことが分かった。


「秘奥義……」


 師匠である父からこの技を教わったとき、8本の剣を使い潰さねば完成しないと言われた。


 今ならその意味が分かる。


 8本の剣を同時に持つ必要はない。ただ、使い潰せないほどの強度の剣を持ち続ければ済むだけの話だ。


「【天地鳴哭】」


 纏った魔力は空を引き裂き、雷鳴のように轟く。そればかりか、地面への斬り下ろしの度に地鳴りが響く。


 それ故の、天地鳴哭。


「な……黒魔竜を、斬っているだと!?」


 セプテントリオの生態系の頂点すら斬り伏せる。というより、そのためだけの剣技だったとしか思えない。それほどにちょうどよい剣技だった。

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錆びた宝剣が繋ぐ!魔導人形との絆 川崎俊介 @viceminister

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