第24話 旅の再開―――続く旅路

 海辺からは少し離れた、新たな拠点となる集落で、住人たちは仕事に励んでいるらしく。


 オーサンとローストの見送りに海岸まで来ていたのは、アラニだけだった。


「それじゃ、オーサン、ローストちゃん……気をつけて行くんだよ。海がキレーになったって言っても、この荒野はいつもどおりサ。環境は相も変わらず厳しいし、危ないことなんて、いくらでもあるんだからね」


「ガハハ、心配性だな、アラニは。なァに、これからは頻繁に、コッチにも顔を見せにくるさ。集落がどうなってくのか、俺だって気にしてんだかんな!」


「へえ、な旅人オーサンがねぇ! ふぅ~ん、変われば変わるもんサね……それもローストちゃんと旅してきたおかげ、なのかねぇ」


「? ン……おかげ」


 バイクの後部に乗り、こてん、と首を傾げるローストは、良く分かっていないようだが。


「へへっ」と鼻の下を擦りつつ、フライトキャップを深くかぶったオーサンが、ゴーグルをつけ。


「んじゃ、行くぜ―――なんかまたイイモン見つけたら、集落まで届けにくらぁ! またな、アラニの姐さん!」


「ン。……アラニ、また」


「ああ、期待してるよ、オーサン! ふふ、アタシの名前、や~っと呼んでくれたねェ。またね、ローストちゃん!」


 二人に返事しつつ、大きく手を振りながら、アラニはもう一声。



「二人の旅路に、幸運を―――祈ってるサ!

 いってらっしゃい―――!」



 威勢の良い声に見送られ。


 オーサンとローストは、再び、荒野をバイクで駆け始めた――――



 ◆     ◆     ◆


 さて、随分と懐かしくも感じるバイクでの二人旅は、気持ちよく風を切って順風満帆じゅんぷうまんぱん――とはいかず。


「ウ、ウオオッ……いきなりトンデモネェ突風だな!? 久しぶりだからって、ちょいと歓迎が荒すぎやしねぇかい!? ロースト、大丈夫かァ!?」


「ン。大丈夫」


 ごう、と唸りを上げて襲い来る砂塵さじんは、もはや砂嵐の様相ようそう――それでも純白の少女を覆う白光は、彼女に砂の一粒もつけない辺り、だが。


 しかしオーサンとバイクのほうは、そうはいかない。バイクの速度をゆるめつつ、オーサンが見通しの悪い視界で、必死に遠目をかせる、が。


「ウーム、バイクに砂が入り込んで故障でもしちまったら、コトだかんな……仕方ねぇ、ちょっと休めるトコに避難を―――って、オオッ?」


 ローストを覆っていた淡い光が、オーサンと、バイクまでも、丸々と包み込んで――叩きつけてくる砂礫を全て弾き、その身に一切届かせない。


 それがローストの仕業なのは明らかで、けれど不思議な力を使うことに、オーサンが心配して声をかけた。


「オ、オオッ……こいつぁスゲェし、助かるが……ロースト、こんな力を使って、おまえさんは大丈夫なのかい!?」


「ン。だいじょうぶ」


「! そっか……それなら何よりだ! へへっ、バイクだけじゃねぇ……ロースト、おまえさんも、頼りになる相棒だぜ!」


「ン。あいぼう」


 無表情だが、何となく、ふんす、と誇らしげにも見えるロースト。


 と、吹き荒れていた砂塵を、ようやく抜けて――


 ぶわっ、と前方に広がる、荒野の砂漠。


 終わった世界で、見慣れた光景、だがオーサンは、ニッ、と笑みを深めた。


「へへっ……そうこなくっちゃよ! コレだよ、この風がイイんだ。な、ロースト!」


「ン。いい」


「だよな、ガハハ! そんじゃ――旅を続けようぜ、ロースト!」


「ン――――」


 バイクを巧みに操縦しつつ、軽く後ろを振り返り、オーサンが笑いかけると。


 ローストは―――――




「旅――――続けよう」


「……………へっ!?」




 一瞬、ほんの一瞬――オーサンが驚く声を上げる直前、ほんの一瞬。



 ローストが―――――



 見間違い、だろうか、とオーサンがパチパチとまばたきするが。


「ろ、ロースト、おまえさん、今……、かい?」


「?」


 ローストは、こてん、と首を傾げていた。いつもの、無表情で。


 やはり、見間違いだったのか――〝いいや〟とオーサンは、頭を振って。


さ〟と口元を緩め、ハンドルを強く握る。


 きっと、その無表情は、これからも。

 新しい表情を、見せてくれるのだろう、と。



「さあ、ロースト―――しっかり掴まってなよ!」


「ン。つかまってる」


「おーし、イイコだ!

 さあ、いくぜぇ~~~……GoGoゴーゴー!!」


「ごーごー」



 文明が終わった世界の荒野を、バイクで駆ける。


 オーサンと、ローストの。



 旅は――――続いてゆく――――

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