第40話  部員二人のコラボ配信


 俺の後押し(物理)によって、瑠璃の配信に飛び入り参加してしまった心春。

 配信カメラの前で固まり、緊張でフリーズしてしまった心春の顔が、ばっちりと配信画面から確認できる。


 俺に対するバッシングや殺害予告であふれていたコメント欄も驚いたのか、一気に攻撃性が和らいでいき、話題が謎の乱入者に集中しだす。


 :誰だ?

 :この子だれ

 :可愛いね

 :ん? この顔どっかで見たような……

 :もしかして、火室心春ちゃんじゃね?

 :え、火室?

 :その名字ってまさか……

 :そのまさか。火室心春ちゃんは彩夏様の妹だ

 :ええええええええ!! マジ!!?

 :思い出した! さっきの模擬戦でも最後ちょろっと映ってた子か!


 コメント欄も心春のことを知っていたらしく、さらに彩夏の妹という情報も追加されたことで一気に盛り上がりを増していく。

 心春は人前に立った緊張で目がぐるぐるして混乱しているが、それを隣にいる瑠璃が戸惑いつつも慰めている状態だ。


 そこでふと、瑠璃と目があった。

 瞬間、視線を鋭くさせる。

 目だけで、何考えてんのよ!! と叫んでいるのが伝わってくる。

 目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。

 俺は、頑張れ! と期待を込めて二人に向けてグッドサインをした。

 瑠璃は内心ぶちギレているだろうが、今は配信中でもあるため、必死に心春に話しかけている。


「なんだぁ~、いきなり入ってくるからびっくりしちゃったよ心春ちゃん!」

「ご、ごめんね、瑠璃ちゃん……!」

「あはは~、緊張してるの? 大丈夫だよぉ、ほら隣にはルリィもいるでしょ?」

「う、うん!」


 瑠璃が心春の方を抱いて気遣うその姿に、コメントも加速していく。


 :ルリィが同学年と絡んでるの珍しい

 :友達?

 :百合やで

 :小学生の百合からしか摂取できない栄養がある

 :ええなぁ

 :我が人生に一片の悔いなし……

 :昇天してて草


 突然乱入する形になった心春だったが、コメントを見る限り好意的に受け止められているようだ。

 これなら少しは配信慣れもするだろう。

 俺が監督よろしく腕を組みながら二人の配信を眺めていると、不意に心春と目があった。

 瑠璃と同じく俺に怒りを抱いた視線を向けてくるかと思ったら、ぐっと覚悟を決めたような表情でこくりと頷いた。

 そして、瑠璃に介抱されながら配信カメラを真っ直ぐに見つめ、ぎこちなく頭を下げる。


「え、えと、私、火室心春っていいます! 皆さん、よろしくお願いします!」

「ははは! 心春ちゃんちょっと固すぎだよぉ。このカメラの向こうにいるのはルリィの視聴者だけなんだから、緊張する必要なんかないよ?」

「あ、あはは。一応、挨拶くらいはしておこうと思って」


 心春は強張った笑顔で答えた。

 いかにも慣れてなさ満載の態度だが、その素人感がウケたのかコメント欄はさらに好意的な文面が増えていく。


 :ぎこちないけど慣れてないのかな?

 :緊張しなくてええんやで 

 :ルリィとは対照的で新鮮 

 :いま心春ちゃんのチャンネル見てきたけど、全然喋ってなくてワロスwww

 :ほんまやw

 :もうこれただの追尾映像やろ

 :普段の配信があれだったらマジでルリィとは対極の配信者やね

 :でも彩夏様の妹さんだから『新世代』ってことだろ?

 :間違いなく実力者


「改めて皆にも紹介しとくねぇ~! この子はルリィのお友達の心春ちゃん! コメントでもいくつか言及されてたけど、火室先生の妹さんで、ルリィと同じ『新世代』の一人で~す! これからもたまにルリィの配信にお邪魔してもらうかもしれないけど、みんな仲良くしてあげてね~!」

「よ、よよ、よろしくお願いします!」

「あははは! だから固すぎだって~!」


 緊張した心春を瑠璃が宥めて落ち着かせるという流れでトークを回していく。

 さすが有名配信者である『キラキラ☆ルリィ』だ。

 こういうイレギュラーな事態にも適応能力が高い。

 てか、普通にあいつ配信者としての才能があるのかもな。

 心春を気遣いつつ、話題を振って、時々コメント欄にドS発言をぶちこんでメスガキキャラも忘れない。


 瑠璃と話していると徐々に緊張感もほぐれてきたのか、心春も少しずつ自然に話ができるようになってきていた。

 が、またしてもコメント欄の雲行きが怪しくなる。


 :ていうか、さっきちょっと男の声しなかったか?

 :俺も思った

 :だれだ? 

 :馬やで(にっこり)

 :それに心春ちゃんもさっき誰かに押されたような感じだったよな

 :小学生の女の子を突き飛ばしたってこと?

 :馬ならやりかねない

 :てかあいつならやるやろ

 :百合崩壊の危機

 :馬が俺たちを見下しながら嘲笑ってる画が浮かぶ


 またしても話題の矛先が俺に向いてきた。

 不味いな。

 こうなるとすぐにまた俺への罵詈雑言コメントで溢れかえることになりかねない。

 それを瑠璃も目敏く察知したのか、無理やり話題を変えるようにパンッ! と手を叩いた。


「それじゃあ心春! 早速二人でダンジョン攻略しようよ!」

「ダンジョン、攻略?」

「そうだよぉ! ルリィたちはダンジョン配信者なんだから、モンスターを狩ってる姿を見せないとねぇ! ま、どうせコメントの人たちはルリィたちが見れたら何しててもいいんだろうけど!」

「そ、そうだね! うん、私もダンジョン攻略頑張るよ! 瑠璃ちゃ……じゃなくて、ルリィちゃんは迷惑じゃない、かな?」

「迷惑なわけないじゃん! だってルリィたちお友達なんだから! ほら、早く行こうよ!!」


 今度はルリィが心春の手を取って歩き出した。

 目指すはダンジョンの最奥。

 まずは第二階層に向かう階段まで向かわないといけない。


 色々な波乱はあったものの、こうして無事ルリィのチャンネルに部員二人をコラボ出演させるという荒業を駆使して、本格的なダンジョン攻略配信がスタートしたのだった。



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