かつて世界最強の攻略クランに所属していたクズニートが、ダンジョン配信部の顧問教師になったら

空戯K

プロローグ  美少女配信者とクズ教師


 ぼんやりとオレンジ色の灯りが広がるダンジョン。

 広間のように開けた何もない空間。


 俺は無言で、空中に浮かぶ魔力式の配信カメラをONにする。


「それじゃ~、ダンジョン配信開始しまぁす!」

「か、開始します!」


 俺が配信開始の合図を送ると同時、パッと画面に二人の教え子の姿が映される。

 両者はそれぞれカメラに手を振った。

 ルリィはニヤニヤとからかうように、コハルンはもじもじと控えめに。


「みんなぁ、見てるぅ? キラキラ☆ルリィのルリィでぇす!」

「あ、えと、皆さんこんにちは。火室小春ひむろこはる……ああ、じゃなくて、コ、コハルンですっ!」

「あははっ! コハルン緊張してるの?」

「ご、ごめんね。まだこういう配信は慣れてなくて……」

「今日はルリィたちダンジョン配信部メンバーのコラボ配信なんだから、リラックスしていいんだよ? それにぃ~、どうせ画面の向こうにはよわよわのクソザコ男性しかいないんだからぁ!」


 :金髪メスガキのルリィと黒髪清楚のコハルンいいね

 :この凸凹感すき

 :ガチ恋するね

 :どっちも十歳の小学生やぞ

 :ポリスメン、あの人です


 配信カメラの裏からデバイスでコメント欄を確認する。

 よしよし、開始直後にも関わらずコメントの伸びも好調だ。

 同接も五万人を突破した。


「みんなもバカみたいに生配信に張り付いてるだけじゃなくてぇ、ルリィたちにスパチャもよろしくねぇ~! 今ならスパチャしてくれたらその人の名前呼んであげてもいいよぉ? あ、でも平日昼間からルリィたちの配信見てる人なんてヒキニートばっかりだからそんなお金ないかぁ! きゃははははは!」

「ル、ルリィちゃん、そんなに言っちゃっていいの……?」

「いいのいいの! ここの視聴者は罵られて喜ぶ情けない変態さんば~っかりだから!」


 ルリィの煽りに、さらにコメントが加速する。

 数百円から数千円ほどだが、ちょくちょくスパチャも入ってきている。

 しばらく届いたスパチャの名前と内容をルリィに読み上げてもらう。

 さすが個人で登録者百万人を突破しているだけあって、配信慣れしているな。


「よーし、いいぞお前ら! その調子でもっとスパチャを搾り取れ! できればきんスパも!」


 :ルリィの煽りからしか摂取できない栄養がある 

 :今日は馬いねぇな

 :ワイは最近コハルン推し

 :いつもなら配信開始した瞬間ドアップ馬面で始まるのに

 :馬いないと平和


 ……よし、そろそろ俺も出陣するか。

 さっきからチラホラとコメントでも『馬』に関するワードが言及されていたからな。

 そんなにお呼びとあれば馳せ参じようではないか。


 俺は身バレ防止のためにいつもの馬の被り物を装着して、優雅に配信に姿を現す。

 ゆっくりと二人の背後へ歩いていくと、コメント欄がにわかに加速していった。


 :出たな馬男

 :邪魔

 :消えろ

 :百合の間に馬を挟むなとあれほど……!

 :ルリィとコハルンだけ見せろ


「おぉいおい、お前らまさか無料タダでウチのルリィとコハルンの絡みを見れると思ってんのかぁ!? 俺が邪魔なら分かるよなぁ? とりあえず五でいいぞ」

「ひゃっ!」

「せ、先生!?」


 ルリィとコハルンの肩にそれぞれ手を置き、グイッと引き寄せて二人をくっつける。

 十歳の女子小学生がお互いに肩を寄せあって密着しているような構図だ。

 俺はそんな二人の背後に立って馬面うまづらで配信カメラに挑発する。


 :あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 :脳破壊

 :あの馬BANしろ!!!

 :BSS

 :刺し違えてやりたい

 :でもこの馬なぜか特級探索者レベルのバケモンだから襲っても返り討ちにされるんだよなぁ


 ぶわっと溢れる阿鼻叫喚のコメント。

 ハハハッ、これは毎度お決まりの流れなんだが、飽きねぇな視聴者こいつらも。

 コメント欄の謎の団結感に、馬の被り物の裏でカカッと笑う。

 ちなみに俺がルリィとコハルンを抱き寄せている訳ではないから、この絵面も配信規約上なにも問題はない。


 すると、配信画面の横に金色に光るコメントが表示された。

 そこには、見覚えのある太客の名前。


『哲学ニキ ¥50000

 :これで消えてください。皆さんに安らかなる精神を』


 :ナイスパ!!

 :ないすぱ

 :ナイスパすぎる!

 :さすが俺らの哲学ニキ

 :哲学とは

 :ルリィの馬NTRで脳を破壊され尽くして哲学に目覚めたって話すき


「お、哲学ニキさん、いつもありがとなぁ! 他の奴らもルリィとコハルンにやって欲しいことあったら金スパでじゃんじゃん送ってくれよ! あ、分かってると思うけど金スパのリクエスト以外はそもそも検討する気もねぇから! んじゃ、ばいばーい!」


 それだけ言い残して、俺はスキップしながらはけていく。


 :守銭奴が

 :ルリィとコハルンを金儲けに利用してんじゃねぇ!!!

 :金馬

 :種馬みたいに言うな

 :でもこの馬、ダンジョン配信部の顧問教師らしいぞ

 :自称やろ

 :※馬に教師は務まりません


 くくくっ、コメント欄では好き勝手に俺の悪口で盛り上がってるみたいだ。

 いいぞいいぞ!

 このままコメント数が稼げれば、今日の人気ランキングに乗るだろう。

 ゆくゆくは二人ともダンジョン配信界のテッペンまで押し上げてやる!

 そうなりゃ俺も億万長者だッ!!

 ぎゃはははははは!!


「……つっても、本当にダンジョン配信部の顧問教師になっちまうとはなぁ。先月までニートだったってのに、えらい出世だこと」


 オープニングトークを済ませ、いよいよダンジョン攻略を開始するルリィとコハルン。

 目の前で楽しそうに配信を続ける二人の姿を眺めながら、俺は顧問教師こんなことになった経緯をぼんやりと思い出すのだった。



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