第36項 わたしだけの勇者さま


 あれからイブキを抱えてアジトまで戻った。

 すると、ノアが迎えに来てくれていた。


 あの時、ノアが首を縦に振ってくれていなかったら。

 イブキが一緒に来てくれていなかったら。


 考えるだけでも怖い。


 なんとか無事に帰ってこれたのは、本当にコイツらのおかげなのだ。


 俺とメイは、ノアとイブキに何度もお礼を言い、何度もお辞儀をして、俺たちの屋敷に戻った。



 あれから1ヶ月が経った。


 あの時、メイがどうして居なくなったのか。どういう経緯であんなことになってしまったのか。


 気にならないではないが、一切聞いていない。

 まぁ、クズのすることな大体想像がつくしな。


 聞いたら、また法王を殺したくなってしまいそうだ。



 メイは元気になった。

 が、俺と肌が触れると、まだ、ビクッとなる。


 あんな事があったのだ。

 当然だ。

 きっと、本当は男そのものが怖いはずだ。


 それなのに、頑張って毎朝ハグをしてくれる。



 ……いつか、元通りになるといいんだが。



 そういえば、俺にも変化があった。

 右の手の甲に変なアザができたのだ。


 羽のような、星のような。

 なんだろ? と思ってメイに聞いたところ

 「勇者様の紋章だぁ」とのことだった。


 マジかよ。


 勇者界も人材不足ですか?


 俺はメイとずっと一緒に居たいだけなので、ホントありがた迷惑なのだが。


 魔王が暴れようが、俺はメイがいるこの屋敷から出ないぞ。


 マジで。


 おぉ。神よ。

 人選ミスだと思って、当代の勇者は不在ということで宜しくお願いします……。


 



 それから1ヶ月後。

 少しずつ暖かくなってきて、花が蕾をつける頃。



 寝室でくつろいでいると、誰かが部屋をノックした。

 まぁ、俺の寝室に来る物好きなヤツは1人だけなんだが。


 「入れ」


 すると、メイが立っていた。



 あのデートの晩と同じ、黒と白のティアードが入ったドレスを着ている。メイはニコッとすると、俺に駆け寄ってくる。

 


 そして、ギュっと抱きついてくると、頬を桜色に染め、恥ずかしそうに言った。

 


 「わたしを、ルーク様のお嫁さんにしてくれませんか?」

 


 ……あぁ。もちろんだ。

 俺は何も答えず、メイをただ抱きしめた。


 身分? 親父の反対?


 そんなのなんでもないさ。

 2人で乗り越えてきた困難にくらべれば。


         


              完

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