第17項 家庭訪問のお時間です

 次の日もメイを呼び出す。

 例のごとく、さしたる用事はない。


 ……ただ会いたいんだ!


 見て可愛い、からかって楽しい。

 俺様の専属メイドはなかなかの逸材だ。

 

 いや、ほんと。

 前世でメイのことをもっと知ろうとしなかったことを後悔してる。


 だから、死に際の涙の意味も分からないままなんだろうし……。

 

 

 タタッ。


 メイが来た。

 

 ガタンっ。


 何かにぶつかったらしい。


 キィ……。

 扉があく。 


 メイは肩で息をしている。

 「ルーク様。ルーク様。どんなご用……」


 ……って、頭から血ぃ出しとるやんけ!


 アハハ。

 ちょっと可哀想だけど、元気でたわ。


 って、将来の妻候補だからな。

 面白がっている場合ではない。

 

 顔に傷でも残ったら大変だ。



 「ところで、メイの実家に家庭訪問することにしたぞ」


 突然の申し出で、きっとメイは驚くことだろう。


 ……。


 あれ?

 リアクションないな。


 お前、リアクション芸人失格だぞ?

 

 それどころか。

 メイはなんで今更?っていう顔をしている。


 なんだか俺の方が不安になってきた。


 「あのな。お前の家に行くんだぞ? 俺みたいなのが行って本当にいいのか?」


 ……最近気づいたことがあるんだ。

 悪役キャラは、空回りすると自虐キャラになるって(遠い目)。


 メイはキョトンとしてる。


 「いいに決まってるじゃないですか」


 なんで?

 こいつ、やっぱりちょっと、あれなの?


 「いや、俺様が逆の立場だったら、絶対イヤだけどね」


 「なんでですか? わたし、嬉しいですよ。ルーク様、最近、よく毛が抜けるし」


 は?

 何故、いま、毛の話が?

 いつもながら意味わかんねーぞ。こいつ。


 「わたしの家、教会もやってるんです。それでお父さん頭の上の方だけツルンッとしていて」


 無慈悲に進んでいく会話。


 おいおい。

 話すほどに混迷の度合いが増しているぞ。


 俺、対面で相手の目を見ながら話してるのに迷子になりそうなんだが。


 お前の会話はどこぞの樹海か?


 この呪言のような会話はまだ続くようだ。

 「それで、ルーク様の髪型も、お父さんみたいでカッコよくなってきたなぁって」


 あぁ。

 そういうことね。


 こいつ、俺を泣かせにきてるね。

 センセー。おれ、いま、アタックうけてます。


 って、本当に泣いちゃいそうだ。

 ヒック……。


 こっちだってな。

 好きで抜けてるんじゃないんだよ!!


 ん。

 なんかメイ。

 お前、いまニヤッとしなかったか?


 メイは顔を左右に振る。

 まぁ、いいや。とりあえず、出て行ってくれ。


 男には人には見せてはならぬ姿がある。


 ひとりになりたいんだ……。



 

 第17項 (完)





 ……んなわけあるかい!!

 まだ、家庭訪問のカの字分も何も決まってないぞ!!


 「メイ戻ってこい」


 すると、秒でメイが戻ってきた。


 ……。 


 早すぎる。

 こいつ、扉の隙間から中の様子を伺ってたな。


 その手には何の対策か聞く気も起きないが、ティッシュの箱が握られている。


 「ゴホン。それで、いつが都合いいんだ? お前の主人として、お前のご両親にも挨拶しときたいしな」


 「ルーク様のご都合のよい日で……」


 「じゃあ、明日はどうだ?」


 「すみません、その日は実家の都合が」


 「じゃあ、明々後日は?」


 「すみません、その日はわたしの都合が……」


 「…………。」



 いるよねー。

 こういう人。

 いつでも良いっていうのに、いつもダメな人(遠い目)。


 結局、メイに決めさせた。

 すると、これからが良いということだった。


 現地集合で私服のメイとデート気分味わいたかったのだが。

 まぁいいか。


 メイに連れられて街中をいく。

 

 前回は私服私服いってたが、やっぱりメイド服っていいよね。

 腰のラインからスカートまでの丸い感じとか。

 今日は、黒のメイド服だから、白いタイツとのコントラストもまた……。


 俺様がメイの後ろでヘラヘラ笑っていると。

 メイが突然振り向く。


 おい、やめてくれよ。


 こっちにも目を合わせる準備というものがあるんだ……よ。

 

 ———あれ、このピーマン畑みたことあるな。


 メイが逆手で、隣の建物を指し示す。

 

 「ここが、わたしの実家です」


 あれっ、ここって。


 俺様がケーキを買ったところだ。

 孤児院の前の露店のケーキ……。


 メイが嬉しそうに微笑む。

 「……見覚えありますか?」


 あぁ。

 なるほど。


 俺の中で全部が繋がった。


 メイが、ケーキとプレゼントをやたら喜んだ理由。


 きっと、メイにも経験があるのだ。

 昨日のあの子のように、ここで何かを売っていた経験……。

 

 貴族が通りがかることもあっただろう。

 きっと、その時に、汚いものを見るような目をされたのではないか?


 いや、子供の頃の俺も、その中の1人でないとは言い切れない。


 

 ……昨日のメイは、自分の主人が、この店を選んだことがうれしかったのだ。




 メイの履歴書には誕生日や年齢の記載がなかった。


 年齢を誤魔化してでも、稼がなければならなかった。

 あるいは、本当に自分の誕生日を知らないのかも知れない。


 

 やばい。


 

 メイが愛おしくて、大切で。

 そして、何も知ろうとしなかった自分の愚かさが悔しくて。


 これ以上、悪役ロールプレイを続けられそうにない。



 すると、メイがティッシュを差し出す。


 「ルーク様。ルーク様。目から汗が出てますよ?」

 

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