第2話
俺=KC=カイ・カールステットとDY=デヴィッド・ヤマノ、VA=フィクトル・アンシンクはセントラルやその周辺に住む、中学からの仲間だ。
3人共、晴れたら学校をサボってバイクで走り回り、そこら辺の自動販売機や商店、食堂で顔を合わせるうちにつるむようになった。
高校は皆同じになったので、雨降りでも一緒にいることが増えた。
と言ってもクラスはバラバラだし、俺はそこそこ授業を受けるほうだが、奴らは全然出ない。
「あとでな」「おー」と奴らと別れ授業に出た。
美術の授業は人物画で、モデルはソアだった。
油絵。俺は色を付けるのが苦手で上手くいかず、いや、絵の具の匂いに酔ったか、途中で切り上げて席を立った。
ソアが上目遣いに俺を見て、少し口を開きかけた。
ああ、だからそんな表情で俺を見ないでおくれ。
この子とふたりの幸せな時間がほしい、と、きみは度々俺に感じさせるんだ。
けどね。
それはいつもただの願望であって、実際には有り得ないことなんだって想いに至る。
俺は「ごめん」と彼女や周囲に片拝みして出口に向かう。
「カイ、補習追加なー。ソアさん、元に戻して」そんなチエちゃん(先生)の声にソアの視線は逸れた。
ドアを閉めたところで、大きく深呼吸した。
六月の雨の日は極端に気温が下がる。晴れた日との気温差からか、すごく寒い。
もしかしたら気分が悪いのはこの寒さのせいかも知れない。
俺の部屋と双璧を成す溜まり場になっているのがパソコン同好会の部屋。
行くとストーブが焚かれていて、入ったら一気に力が抜けた。
「アレ。ヌケテキチャッタノネ」
DYがパソコンにそう喋らせた。俺等が使える数少ないパソコン操作のひとつだった。
パソコン同好会には所属しているものの、俺等は日中の居場所確保が為の幽霊部員であって、本体は放課後にやってくる部長以下だ。そんな時間に俺等がいることは、まずない。
「おい、KC」とVAがオカルト雑誌Mーを俺の顔の前に突き出した。
「えー、なになに……あなたの恐怖体験談、ミステリーサークル、オーパーツ、人類滅亡」
「いや、大きいのを読め」
「総力特集:もっとも宇宙に近いまち・オーシャンサイドと異世界シマ島……なんだこれ?」
俺は首を傾げるしかなかった。
「昨日お前が話してたあれも書かれてんだよー!」
「ああ、あれか」
これっぽっちも信じなかったくせに……
「けど、この雑誌、前にも観光キャンペーンで市と提携してなかったか?」
「イヤ、コンカイハナニカアルゼ。ナ、ヴィエー」と音声合成。
「ああ、ある」
VAがニヤリと笑った。
「この雑誌な、発売禁止になって現在回収中!」
FM放送を聞きながら眠りに落ちるのが常だった。
AジムスのOウトブロがかかってきて、もうすぐ意識を失うってところで、しかし今夜は叩き起こされた。
「行くぞ!」
闇のなかにDYのニヤケ面が浮かんだ。わざわざ懐中電灯を下から照らしていた。
「行くって……ロケット発射場か?明日の昼晴れたらって言ってたじゃん」
俺は布団を頭から被ったが直ぐ様引っ剥がされ、今度はVAが顔を近づける。
「発禁の原因たる部分が分かったんだ。明日夜明け直後に宇宙人の船を打ち上げるんだよ」
「だから気象衛星打ち上げでシマ高原は交通規制されてるって……」
「夕方にまちの北側をずうっと走って来たんだがな、その規制の範囲が半端ねえっての」
とVAの顔の横にDYの顔が現れた。
「西海岸から高原全域は道路封鎖だ。オーシャンサイドからは何処へも行けない形の規制だ。
これはあの三大古代遺物のひとつ、シマ島西海岸の〝カタプルタ〟から高原中央の〝ラダー〟へ続く〝古代リニアカタパルト遺跡〟の使用を意味する。
わかるか? 気象衛星なんてちゃちなもんじゃないんだよ!」
VAはあの雑誌の当該記事と思しき箇所を必死で指差し、力説した。
「あー、わからん。暗くて読めん。寝たい」
俺は蓑虫のように布団に包まった。
「出遅れる! こうなったら!」
ふたりの声が見事にハモった。
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