第44話
そしてアシュリーの復讐のキーを握るのは、異世界から召喚されたユイナ。
彼女の性格にもよるだろうが、正直ここまでアシュリーとギルバートに食いついてくれるとは思わなかった。
おかげで思ったよりもスムーズに計画を遂行することができるだろう。
「ユイナ様のあの様子だと……あの男とは、とてもうまくいっているようには思えないわね」
「オースティンもユイナの扱いにはかなり苦戦しているようだよ?」
ギルバートの言葉に笑みを深めた。
「そう……とっても素敵ね。どんどん追い詰められて恐怖に怯えればいい」
アシュリーと何もかもが違うユイナだからこそ、ここまでうまくいったのだ。
先ほどユイナは二人の背中を追いかけて、挨拶の途中で抜け出している。
こんなことは普通ならば許されない。
ダンスがまだ踊れないということは、それよりも必要な所作が覚えられていないのだろう。
まったく違う世界からきたユイナに、この世界の常識を強要することには限界があるだろう。
それにユイナが王妃教育を受けるにしてもアシュリーと同じように治療と結界を張ることを並行してでは時間が足りな過ぎる。
アシュリーが何年も掛けて身につけたものを、すぐに身につけられるはずもない。
本当は厳しく叩き込んでいきたいのだろうが、ユイナが拒否すればうまく進まない。
機嫌を損ねたら命が脅かされてしまうため何も言うことができない。
けれど今のオースティンが公務に行くにあたって、ユイナの同伴は必須になっていく。
(側妃でも迎えようと考えている頃かしら。そしたらもっと面白いことになるわ)
すべて当然のようにうまくいっていたことがアシュリーがユイナに代わったことによって少しずつ少しずつ壊れていく。
今までオースティンに何を言われようともアシュリーは耐えていた。
サルバリー王家のために、両親のためにと従い続けた。
(本当……わたくしって何て馬鹿だったのかしら)
満足に文句も言えずに板挟みの中、悶え苦しんでいるのかと思うと、アシュリーは心が満たされるような気がした。
そしていつもならば、このような場に真っ先に飛んでくるエルネット公爵と夫人の姿がなかったのは予想通りというべきか。
二人も着実に追い込まれているのだろう。
(まさかペイスリーブ王家からもらったあの莫大な金を半年もせずに使い込むなんて……信じられないわ)
両親はアシュリーが思っていたよりも、ずっと金遣いが荒かったようだ。
手切れ金としてペイスリーブ王国はあの二人に大金を渡した。
アシュリーはその恩を返すために無償で力を使っているのかもしれない。
ギルバートはエルネット公爵家の様子を窺うために人を派遣してくれている。
アシュリーの耳には二人の愚かな行いが定期的に届いていた。
『エルネット公爵家は破産寸前まで追い込まれている』
今までそれだけ多くの金を得ていたのだろう。
アシュリーもいないため収入源がなくなって焦ったエルネット公爵は無理に税を引き上げたせいで領民から大きな反発を受けたそうだ。
親戚に金の無心をし続ける二人に愛想を尽かして、金を貸さなくなっていった。
給金も払えなくなり、エルネット公爵邸からは次々と人が去っていく。
税もうまく調達できずに破産に追い込まれていく。
ロイスとアシュリーと関わりを絶つと契約書に書いたのにもかかわらず、ペイスリーブ王家に『少しの間でいいからアシュリーを貸してくれ』『金を貸してくれ』といった内容の手紙が届いていた。
正式な契約をしているため、ペイスリーブ王家は一切相手にしていない。
エルネット公爵たちは恥を忍んで何度か金の無心をしにペイスリーブ王城に来たこともあるそうだがすべて門前払い。
そんな暇があるならば領地の経営を見直すために金を使えばいいのにと思わずにはいられない。
恥ずかしいを通り越してしまい最早、哀れだった。
ロイスも同じように思ったのだろう。
何も言うことはなかった。
二人は敷地に足を踏み入れることすら叶わずに帰っていった。
十年も楽をしてアシュリーを使い金を稼いでいた二人は、あの時の贅沢を忘れられないのだろう。
そんな二人をアシュリーはギルバートと共に窓から見下ろしていた。
それが二ヶ月前のこと。
そしてついには、国中の貴族たちが集まるパーティーにすら参加できなくなるほどに堕ちてしまったようだ。
エルネット公爵邸のものをすべて売り払い、着替えさせてくれる人も、掃除もしてくれる人も、世話をしてくれる人も、料理をしてくれる人もいなくなってしまった。
プライドだけは高く、やりたい放題に振る舞っていたツケを払う時がきただけのこと。
頭を下げることも謝罪することもできずに只、朽ちていく。
もうこれ以上はいいと、サルバリー王国でエルネット公爵家の監視をしていたギルバートの部下は最後の報告を終えた。
しかしサルバリー王家に忍ばせた侍女や諜報員はまだたくさんいる。
今まで横暴な態度を取り続けて周囲を威圧してきた両親は、王家にも見放されて貴族たちからも嫌われている。
誰にも助けてもらえずに、一気に地獄まで落ちていった。
(ああ、なんて惨めなの……)
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