026:同業者の談合

「それで、これがその手紙だと?」


 折り畳まれ赤茶けた羊皮紙を前に、ヨセフは言った。


 パイソン亭の僕の間借りしている部屋の中。僕は彼に憲兵が殺され、その男が犯行声明を持っていたと言うことを伝えていた。


「ああ、そうだとも。ヴラドから貰い受けてきた。君の所にも何か届いていないか?」


 ヨセフは何も答えなかった。ただ、此方の瞳を見ている。


「中を見たくないか?確証を持ちたくないか?多分、貴方が求めているものが書かれているはずだ」


 ヨセフは腕を組み、手紙に手を出そうともしない。


「何故、そう思う?」


「それも中を見れば分かる。この手紙はうちの雇い主だけに向けて書かれたもんじゃない」


 ヨセフは再び僕を見据え、手紙へ手を伸ばす。


「中を見てからでいいか?」


 僕は手で促した。僕は何者でもない。誰かだけに肩入れすべきではない。


 ヨセフは目で羊皮紙を舐め回す。懐から木炭と紙切れを取り出し、何かを書き写す。恐らく、あの紋章だろう。


 僕は口を挟む。


「どうだ?」


 ヨセフは手紙を置き、暫く押し黙った。

 そして、僕の方へ彼が何かしらを書き写していた紙を僕の方へ押しやった。


「ウチの大聖堂の屋根に引っかかっていた奴が持っていた紙に、こんな紋章が描かれていた」


 真新しい黒鉛で描かれた既知の紋章の横に、赤い鉱物インクで書かれた未知の紋章が描かれている。帝国の鷹が教国の三叉をへし折っている様を模している。


 構図としては、帝国側に送られた書状とは真逆だ。


「分かり易すぎる対比ですね」


 ヨセフは無言で頷き、僕に問うた。


「ああ。どう考えてみても同一犯か、志を同じくする奴の仕業だ。お前はどう思う?」


「前提として、私も雇用主もこの紋章に対して知っていることはそう多くありません。その上で、私が導き出した推測はかなり単純です。二カ国の危うい均衡を蹴り飛ばそうとしている輩がいる。それも我々にとって未知の誰かです」


「反帝国か反教国。どちらだ?」


「何方でもあり、何方でもあるでしょう」


「確かに、連中が手を取り合えない理由はない。抜本的には、だ。だが双方が其々にとっての悪魔と手を取ってしまった以上、結果的に対立している。それが百五十年続いている。今更、変わりえるのか?」


「理屈は単純でしょう。帝国と教国の関係の軟化ですよ。敵の敵は味方という薄っぺらい屁理屈が薄れつつある。それの象徴こそが、今回の祭りに他なりません。領土奪還の悲願が悪魔との契約によって果たされないならば、彼等には取れる選択肢は一つだけ」


 僕は言い切った。


「自ら諸共、悪魔同士を殺し合わせ、全てを消しとばし、新たな国を作る他ないのです」

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