第1章 09 初任務・破
「いただきま~す!」
「がっはっは! さぁメアちゃん心行くまで食いなさい! がっはっは!」
俺たちは、呑気に昼飯を食っていた。正確には食わせてもらっていた、だ。港湾管理者の親玉が、えらくメアを気に入って、飯を奢ってくれる流れになったのだ。
入った店のメニュー表が、不思議と自然に読めたので、淀みなく注文出来た。しかし料理の内容までは分からないので、取り敢えず適当に、片っ端から頼むことにした。食いきれない分はゲーム機に収納すればいい。そんな風に、考えは安直なんだが、後できっちりと美味しく頂く予定ではある。
勿論船長方にもおすそ分けはする。何より、無遠慮で旨いもんを食うっていうのも、何だか気が引けて飯が不味くなる気がした。
「……つーかさぁ、船長たちは今頃何してるんだ?」
「もぉ~さっき船長から直接聞いたじゃないですか~」
「ん? そうだったか?」
「やっぱりあの時ぼーっとしてたんだ~」
そういえば、船から降りてすぐ船長を見失ったな……あの時は確かによそ見をして考え事をしていた。そん時が間が悪く説明フェイズだったのかもな。
「ごめんごめん、あの時は完全に考え事してたわ」
「……船長と翠蓮さんは別任務だそうですよ。停泊許可を得たのも、この島に長く滞在する必要があるからだそうで」
「へぇ~」
となると、この町にも長らく世話になりそうだな。あまり悪目立ちしないように気を付けよう。ただでさえメアは目立つのだから。輩に目を付けられたら堪らない。
にしてもやっぱり、コイツはえらく整った顔立ちだな。ふいに目が合うのだが、その度にドキッとしてしまう。恐らく死ぬまで慣れないんだろうなぁ。
ん?
「……お前カラコン入れてる?」
「へ?」
「いや、出会った時と目の色が違ったから。文字通りの意味で」
「お、おぉ~……お気付きになりましたか。その通りです、可愛いですか?」
「……おう」
今の感じ、ちょっとキモかっただろうか……。カラコンの話題になった瞬間、メアも一瞬キョトンとした顔をしたし……やっぱ見た目の変化への言及ってのは、イケメンだけの特権だったか。こうなったらモテテクなんて糞食らえだ。
別に何か、好感度を上げようだの疚しい気持ちがあった訳じゃないが、途端に気まずい雰囲気になる。
なので並んだ飯を慌ててかきこんだ。食うのに集中している様に見せかけて、沈黙も仕方なしと思い込ませる為だ。
「ご馳走様でした~」
「メアちゃ~ん、ワシの嫁になっでくれ~」
「もぉ飲み過ぎですよ~」
セクシュアルハラスメント。俺の世界では聞き馴染みのある言葉だ。しかしそんな行為を働くのは、大抵権利のあるヘロヘロ糞オヤジだ。
しかし今そのセクハラを働いているのは、ひと際図体のデカい極道の取り締めの様な男だ。気持ち悪さなんかよりも、野獣と向き合う様な恐怖の方が勝りそうだが、メアはニコニコと受け答えをしている。
その後、そのオッサンの子分が店にやって来て、彼を担いで帰って行った。そうして俺たちも、やっと帰路につくことになった。
「もう夕暮れ間近ですね~。とっても綺麗です」
「……そうだな」
「……冴根さんの世界にも、夕暮れとかってあったんですか?」
「まぁそりゃあな」
夕暮れが、無い世界もあるのか。ずっと昼とか、ずっと夜とか……まぁ前世でも、白夜って現象があった訳だし、そのくらい普通にあるか。
「……なぁ、メア」
「?」
「お前はさぁ、生き返りたいって思うか?」
「え?」
何となくの質問のつもりだった。俺の中で答えが決まっていた分、即答されると思っていた。
しかしメアは深く考え込んだ。少なくとも俺にはそう見えた。地雷踏んだか?
「う~ん。私は、遠慮したいですかね~」
「……そっか」
前世は人それぞれだ。あまり深入りしない方が良い。実際俺も、虐められてたなんて、あんまし言いたくないからな。
「あ! 船に明かりが! 船長達、帰って来てるかもですね!」
「おぉ」
「さっきのご飯、喜んでくれますかね?」
「まぁ事情説明さえすれば大丈夫なんじゃないか……?」
「よ~し! では参りましょう!」
そう言ってメアは、それはそれは軽快に足場を駆け上がって行った。下るときは船長の手を借りていたのにな。
俺も遅れを取るまいと、慎重に上って行く。正直あんなポンポンと上って行けるほど安定感のある足場ではないんだが……。
「船長~? 翠蓮さ~ん? 何処ですか~?」
「居ねぇのか?」
「はい……おかしいな~」
船には確かに明かりが灯っていたのだが、彼女らの姿はなかった。仕事が長引いているのだろうか……そうとしても誰が船に明かりをつけたのだろうか。
「まぁ飯は後するか」
「はい……」
メアは分かりやすくしょげてしまった。これは困ったな。
ゲーム機内の生もの、食い物の消費期限ってどうなるんだろうか。時間が止まって鮮度が保たれるのか、それともそれとは否か。ともかく今は食えないのだから仕方がない。取り敢えず今日はその場で解散した。
俺は部屋に戻った。その後ゲーム機を眺める。ふと試してみたいコマンドがあったのだ。それが”マップ”である。海上に居た時に何度か表示してみたが、いつ何時も真っ青な画面がただ表示されるだけで使い物にならなかった。それこそ、他の機能が優秀過ぎる分、もはや気にすらしていなかった。
そんな心持のまま、俺は”マップ”を選択する。すると画面には、この町の地図が表示された。まぁ表示されたと言っても、俺を中心にだいたい二百メートル圏内までのマップだが……。
「まぁ役に立たねぇ事は無いか」
迷子防止。今はそのくらいしか使い道が閃かない。この船が、未開の地を訪れて回るのだったらその都度役に立ちそうではある。それでも、収納とか具現化機能とかには、遠く及ばないコマンドだな。
「仲間の位置とか、表示されねぇのかな~」
そうして色々弄っていると、ズーム機能を発見する。街並みが、かなり詳しく見る事が出来た。
暇だったので、眠くなるまでマップを眺める。するとその時、マップ上にわざとらしく強調されたマークを発見する。
「なんだ? 宝箱……?」
ややリアルな街並みの中に、明らかにテイストの違うゆるい雰囲気の宝箱のマークがあった。RPG的な考え方でいくなら、何か隠しアイテムがあるという暗示に思える。
どんなに遠くても二百メートル圏内なので、ここからそう遠くはない。どうせ暇だし、見に行ってみるか……。
夜中、知らない土地に出かけるのは何ともワクワクがこみ上げる。俺の中の少年心は、まだまだ擦り切れていない様だ。
「だいたいこの辺りに……」
宝箱を求めて突き進む。さながら歩きスマホの様に、手元を見ながらフラフラと歩いた。かなり危険だったと後で後悔する。ガラの悪い奴にぶつからなくて本当に良かった。
俺はさらに突き進む。そうしてとうとう、宝箱マークの表示された路地の入口までやって来た。かなり良いアイテム、それこそログボで貰えるのよりも上等な代物なのではないか。焦らされる分、俺の期待はグングン増していった。
<宝箱を発見! 中には『回帰の雫溜り』が入っていた! 『回帰の雫溜り』をアイテムに追加しました>
目的地に着くなりそんな様な文字が画面に表示された。早速アイテム欄を見てみよう。
”回帰”……というのは、元通りになるという様な意味だ。”回帰の雫”、というのは、要は回復薬の様な……そんな様なイメージだろうか。
説明欄には、やはり推測通りの事が書かれている。見た目はかなり小さめの香水。内容量も一度使えば無くなってしまいそうなほどに少ない。ケチだな……。『神帝コイン』とまではいかないまでも、もう少しグレードの高い物を期待していた……。
そうして落胆しながら路地を後にする。大通りはすっかり夜の様相。酔っ払いやら”キャッチ”やらが支配する世界になっていた。とっとと帰ろう。
「メアちゃ~ん! 愛してるよ~! がっはっは!」
その時、聞き覚えのある声と、汚い笑い声が聞こえて来た。昼に俺たちに飯を奢ってくれた奴だ。まだ酔っているのか、でけぇ声を出しながら暴れている。出くわしたら、”メアの連れだ~”とか言って面倒な事になりそうだな……。
俺は、その辺の危険にはだいぶ鼻が利く。そそくさと路地に身を隠す。それで隙を見つけて、とっとと帰れば良かったのだが……人とは恐ろしい物、厄介な物はついつい見たくなるモノなのだ。怖い物見たさ、というやつである。
俺は路地から顔を覗かせ、そっと彼を見つめた。凄い酔いっぷりだ。ガラの悪さ、図体のデカさも相まって、日本の駅に居るような酔っ払いとはまた違った恐怖がある。
おまけに羨ましい事に、女も侍(はべ)らせている様だ。かなり小柄な女子である。あのオッサン、ロリコン趣味か? どおりでメアにどハマりな訳だ。
「メアちゃ~ん!」
「は~い。なんですか~?」
その時、かの女が猫なで声を出した。
俺はハッとする。
「あれ? メ、ア……?」
男が抱き寄せていたのは、見知らぬロリでは無かった。
あれは、メア其(そ)の人であったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます