星占い部の先輩と望遠鏡
冬凪てく
1話 怪しい女子の先輩
今年も桜舞う季節がやってきた。
この時期の校内は普段より少し浮足立っている。
ふわふわとした雰囲気に包まれて、廊下を歩く僕の足取りまでふらふらと
そんな僕を横目に、放課後の校舎を生徒たちが行き
僕とは何も変わらないはずなのに、なぜだかまぶしく見える新入生たち。
対する上級生と思しき生徒たちは何やら
廊下を生徒たちが駆け抜けていくたびに、掲示板に所
この時期の名物と言えば部活勧誘だ。
窓の外を見れば、校門の方から賑やかな声が響いてきている。
まだ部活に所属していない新入生を捕まえるべく、在校生があの手この手で勧誘をしているのだろう。
つられた僕は声が響く方へと足を向けた。
◇
野球部、サッカー部、テニス部、卓球部、それに陸上部。
それぞれが色とりどりのユニフォームに身を包み、部活で普段使う道具なども手にして、懸命に所属する部のアピールをしている。
勧誘しているのは運動部だけではない。
ほかにも吹奏楽部に文芸部、パソコン部……は謎の着ぐるみを登場させて、この場のカオスをさらに増幅させていた。
とはいえ、世間ではこの高校は進学校と認知されている。
そのため、全国大会常連! みたいな強豪チーム扱いされる部はなく、うちにしかない! みたいな特徴的な部活も無い。
どこの高校にもあるような、ありふれた部活ばかりなため、正直なところ面白味はない。
もう少しニッチな部活があれば興味がわいたのかもしれないのになぁ。
などと、心にもないことを思っていた時だった。
「そこのキミ」
声をかけられた僕は声の主へと振り返ると、性別不詳の先輩と思しき生徒が僕に向かって微笑みかけていた。
もちろん僕にとっては面識のない、はじめましての人だ。
「いま、相変わらず面白そうな部活は無いな……なんて思ってたでしょ?」
「あ、いや、……そんなことは」
「嘘はついちゃダメだよ? 新入生くん。ボクにはわかっちゃうんだから」
髪型こそ短めでボーイッシュだが、可憐な
その証拠に女子用制服であるスカートの
とはいえ総じて色々とちぐはぐな印象で、一言で言うとミステリアスな様子の先輩だ。
「先輩こそ、そこで何をしてるんですか?」
「見てわからないかね? 勧誘だよ勧誘」
先輩は「おいでおいで」と手を振って僕を誘う。
「勧誘って……宗教のですか?」
先輩の手が動きを止めた。
「なんでそう思うの」
少し不本意そうだ。
「だって、見た目で何の部活してるか分からないし、先輩の雰囲気がそこはかとなく
「胡散くさいとは失敬な。陰気そうな君に、こうして分け
小首をかしげて僕に微笑みかけてくるが、どれだけ好意的に見たとしても100%怪しいと疑わずにはいられないタイプの人だ。
言動の全てに裏があるように
「僕みたいな、人と話したがらなさそうな人にまでわざわざ声をかけてくるから、宗教っぽいって言ってるんですよ」
「それより本題。ボクが何の部活をしてるかだっけ?」
「……強引に話を変えた」
ささやかな抵抗は一笑にふされて跡形も無く消え去った。
「ボクはね、占い部をやってるんだよ。専門は占星術、星を使った占いが得意なんだ」
「やっぱり怪しい人だった」
僕の勘はよく当たることで有名だ。主に僕の中で。
「しかもね、ボクの場合は本物の星を見ながら占いをするんだ。だから、実際には天文部ともいえる」
「天文部?」
出来ればこのまま怪しげな勧誘を丁重にお断りするつもりだったが、僕は思わず反応してしまった。
「おっ? 興味がありそうな様子だね」
「えぇ、まあ」
正直星には興味があった。
というか夜に興味があったというべきだろうか?
僕は自分自身が陰気であることを少なからず自覚している。
だから、こうして放課後にもかかわらず一人校内をふらついているわけで、それに
そんな理由で夜に少なからず親近感がある、ただそれだけの理由だけど。
「興味……無くはないです」
この先輩には僕の考えていることは全て見透かされているような気がする。
仕方なく正直に答えると先輩は得意げにうなずいた。
「ほう。では良ければ今夜、学校の屋上に来てみないかい? キミを星空観察会兼星占い体験会に招待しよう」
星空観察会兼星占い体験会。
なんだか
「夜に学校居てもいいんですか?」
最終下校時刻を過ぎると、先生が早く帰れとやかましい印象が僕にはあった。
「天文部でもあるって言ったじゃないか? 今から顧問の先生に夜間活動の申請しておくから、それで問題ないはず。ということで決まりだね」
「いや、まだ『行きます』とは返事してないんですが」
などと僕が言い終えるより前には、既に先輩は背を向けている。
「今晩必ず来るんだよ」
その言葉だけを最後に残した先輩は、ひらひらと片手を振って校舎の中へと消えていった。
「……はぁ」
まるで春嵐のような先輩だ。
とはいえ、約束をすっぽかすと明日以降もしつこく付きまとわれる気がしたので、仕方なく僕は時間をつぶしながら、夜を待つこととした。
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