第4話大橋は混雑する

 シュガアーツ王国の王都オオウツを目前に馬車は速度を落としてやがて停車した。 


「ん。パアルコ魔学術校に着いたのか」

 オレは、寝転がった姿勢のまま専属の従者ヒコニに問いかけた。

「まだですね。いまはミシガ大橋に差し掛かったところです。パアルコに向かう馬車の列の最後尾になります」

 

 辺境伯領からシュガアーツ王国の王都にむかうには、王国中央に佇む太古の湖と称されるミシガ湖を渡るのが最短のルートである。

 しかし、それには避けては通れない問題が一つあった。


「オーサン様。この様子ですとパアルコに着くのは夕刻になるかと」

 

「は? まだ昼前だぞ。そんなにかかるのか」とオレは上体を起こして馬車の戸をあけてさきを確認する。

「うわァ。たしかに馬車の列がすごいな。全く進みそうにない」

 大橋を塞ぐ馬車の列は対岸まで続いた。

「在籍開始時期がウー月と定められていますので、この時期は手続きの都合上どうしてもこのミシガ大橋に馬車の列ができるのは恒例といえます」


 この世界は4の月をめぐりを一年とする暦が採用されている。1の月からムー月。ウー月。ハー月。シー月。この4の月であり、1の月はおよそ120日なため一年は360日である。


 「待つしかないあ」とオレはため息を吐いたところで、橋の半ば辺りにある人だかりが目に付いた。

「ヒコニ。この先でなにかの人だかりあるぞ」

「ああ。それはおそらく、ただの軽い揉め事でしょう。この馬車の列にみなさまがいらいらされていますから、あとは言わずもがなですね」

「なるほどよくあるってことね。なら、このままいても暇だからオレも見てくるよ」

「あっ。お待ちく…だ……さい、行ってしまわれた」とヒコニは宙に伸ばしていた手を下ろした。

「てきとうにぼちぼちと目立たずに。とおっしゃるわりにどうしてすぐに騒動の中心に向かわれてしまうのか。また大事おおごとにならなければいいけど……」

 ヒコニは胸のうちで「まあそこがオーサン様の面白いところなのですけどね」と笑みを浮かべると御者に声を掛けた。


「私はオーサン様を追いかけます。あなたはこのまま列の流れに従って進みなさい」


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