第15話 ちっこい鳥

『はぁ!? なんでオレがガキの相手なんて! ぜってぇ嫌なんだけど。いいかチビちゃん。オレはオリビアの頼みで仕方がなくガキの相手をしてんだぞ? あとオレを閉じ込めたこと、一生忘れねぇからな! どんだけ大変だったと思ってやがる!? これだからガキは嫌いなんだ』

「うるさいぞ。ちっこい鳥。もう夜なんだから静かにしろ」

『その呼び方も気に食わねぇ』


 ぴよぴようるさい鳥は、ベッドの上でジタバタ暴れている。オリビアによって助け出されたルルは、間違いなく怒っていた。


 夕飯の後。

 部屋に戻れば、俺のベッドを勝手に占領するルルがいた。緑と黄色が混じったような変な色の羽をバサバサさせる鳥である。荒々しい態度からして怒っていることが丸わかりだが、ちっこい鳥が怒ったところでなにも怖くはない。


 勢いよくベッドに飛び乗れば『なにすんだ! この野郎!』との口汚い言葉が返ってくる。どうやら俺に踏み潰されると思ったらしい。いくらなんでも、そんなことはしない。


 オリビアのペットの鳥である。なんとなくお上品な感じを想像していたのだが、口を開けば中身おっさんみたいな鳥だ。この口の悪い鳥が、オリビアとどういう会話をしているのか想像もつかない。


 オリビアの姿は見えない。彼女も夕飯の時間なのだろうか。代わりに、部屋にはケイリーがいる。


「ケイリー。さっきの鳥籠は?」


 このちっこい鳥を入れていた鳥籠が見当たらない。虫取り網も見当たらない。そこら辺に投げ出しておいたはずなのに。きょろきょろと探していれば、ケイリーがにこりと笑う。どうやら彼が片付けてしまったらしい。俺の部屋は、だいたいいつも綺麗である。俺が好き勝手に散らかしても、気がついた時には、ケイリーによってきれいに整理されているのだ。さすが敏腕お世話係である。


「また明日ご用意いたします」

「今! 今持ってきて! 鳥が逃げないように入れとくの」

『誰がさせるか! オレはもう帰るからな!』


 ベッドの上で暴れる鳥をどうにか捕まえて、ぎゅっと握りしめる。『はなせ! ボケ!』と、うるさく暴れる鳥を持っておくのは大変である。早急に鳥籠がほしい。持ってこいと何度も頼むのだが、ケイリーは動かない。こいつは物腰柔らかなくせに、頑ななところがある。オリビアとは違う意味で厄介だ。


「ケイリー! 籠! はやく!」


 ありったけの大声を出してやるが、ケイリーは眉ひとつ動かさない。それどころか、俺がぐちゃぐちゃにしたベッドを手際よく整え始める。


「もう明日にしましょう。ルルもオリビアのところへ帰るのでは?」

『そうだぞ! オレは帰る! だからさっさと放しやがれ』


 うるさい鳥を握ったまま、猫を探す。部屋にいるはずなのに、姿が見えない。ベッドの下をのぞいてみれば、丸くなるユナがいた。


「猫、出てこい」

『嫌だよ。ボクもう眠いもん』

「出てこい!」


 片手を突っ込んで引っ張り出そうと試みるが、微妙に俺の手の届かない位置で寝ている。ユナはたまに、こうして俺の手が届かないところで寝てしまう。ペットのくせに、飼い主と遊ばないとは何事だ。


 すぐに引っ張り出してやりたいが、届かない。仕方がない。猫とはいつでも一緒に寝られるから。今日はいいや。


「じゃあ、今日は鳥と一緒に寝る」

『ぜってぇやだ』

「オリビアが、おまえと遊んでいいって言ったぞ」


 帰り道のことである。一緒に遊んでもいいと、彼女は確かに言った。


『オリビアがいいって言うなら遊んでやってもいいが、寝る時まで一緒はごめんだ』


 オレは夜はのんびりしたい派なんだ、とどうでもいい情報をよこしてくる鳥を、枕の横に置いてやる。目を離すとすぐにどこかへ行こうとする鳥を、ベッドの上に留めておくのは大変だ。ケイリーは、にこやかな表情で見守るだけで、手を貸してはくれない。


「ケイリー! ハンカチちょうだい」

「はい。すぐに」


 今度はすぐに動いてくれたケイリーは、適当なハンカチを一枚持ってくる。


「ほら、寝ろ。鳥」


 枕の横に鳥を寝かせて、ハンカチをかけてやる。即席お布団の完成だ。満足する俺とは対照的に、ルルは疲れた顔をしている。お布団嬉しくないのか?


「先に寝てていいぞ。オレはまだ寝ないから」

「夜更かしはダメですよ」


 すかさずケイリーが口を挟んでくる。

 別に夜更かしするつもりはない。ちょっと遊ぶだけである。『それを夜更かしって言うんだろ』と、ベッドの下から猫の声が聞こえてきた。おまえ、寝たんじゃなかったのか。

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