第122話 鳥の人と四歩目

 まえがき

 お食事中の方には不快な表現があります。

 そんな彼女でも可愛いと思ってくれればうれしいです・・・。

 はい。

 お願いします。


 ―――――――――――――――――――――――――





 入口の方から声が聞こえた後。

 声の主たちは逃げているらしいが、足跡が聞こえてこなかった。

 洞窟内で、彼らの足音が響かない。


 「なんだ今の声? ズン、逃げろって聞こえたよな」

 「ああ。ルル様。おいらたちはどうする」

 「そうだな。俺たちは、もうちょい先に行って様子を見るか。俺たちもその悲鳴の現状を知った方がいいと思うな」

 「なら、おいらが先に行って、偵察しようか」

 「偵察?」

 「おいら。足が速いから、先に行ってみてから、ルル様に知らせに戻るよ」

 「ああ、なるほどね。でもズンが戦いに巻き込まれたらどうすんだ?」

 「一対一なら戦えると思う。だけど複数だと厳しいから、その時はルル様の所まで戻ってくるよ」

 「よし。ズン頼むわ。ただ、危なくなったら絶対に戻って来いよ。命優先だからな」

 「うん。了解!」


 人間モードのままズンは入口に向かった。

 

 ◇


 「うわあああああああ。逃げろ」

 「なんでまだ……私たち死ぬのね」

 「文句を言う前に奥に逃げろ。とにかく逃げるんだ」


 鳥人バードストライカーたちは逃げていた。

 必死の形相で。

 懸命に翼を動かして。

 彼らは、ワイバーンから逃げていたのだ。


 ジークラッド大陸最強の魔物。

 竜。

 その僕であるワイバーンは下級であっても、人にとっては脅威。

 滅多にない種族の襲撃に、彼らは大混乱していた。



 ◇


 様子を見に行ってから一分も経たないうちにズンが戻ってきた。


 「ずいぶんと速いな。すぐ帰って来たのかよ」


 俺は彼の顔を見て呟いた。

 

 「る・・ルル様ぁ! やばいぞ・・・ワイバーンだ。こっちに向かってきてる。もうく・・」


 ズンの後ろから鳥人バードストライカーが複数やってきて、その後ろからワイバーンもやってきた。

 その姿、絵本でしか見たことがなかったから、俺は興奮を覚えた。

 そう俺たちの世界で竜種はあまり見かけない。

 エルジャルクを見た時にも思ったけど、竜種ってカッコいいぞ。

 でも思うことがある。

 絵本にあるということは、やはり伝承はしっかりしていたのだ。

 こちらの世界では、普通に生きていたんだ。


 「おお! マジか。竜種。かっけえ!」

 「なに。楽しそうにしてんだよ。ルル様! 逃げるぞ。おいらに乗れ」


 獣の姿に変わったズンが逃げようと言ったが。


 「いんやいい。このまま行く!」


 俺は断る。


 「は!?」


 俺とズンがすれ違い、鳥人バードストライカーたちともすれ違う。

 彼らは奥に逃げていった。

 そして俺はワイバーンの前に出た。


 「悪いな。俺、こいつに興味があるぜ。どれ。勇者と仙人の力でほい! 桜花流 二枚花」

 

 俺は縦に回転して、ワイバーンの腹を蹴って、顎を蹴った。

 洞窟の天井にワイバーンが打ち付けられた。


 「ぎゃあおおおおおお」

 「お。頑丈だな。じゃあ、もういっちょいくか。お次はと・・あ?」

 

 天井から落ちてくるワイバーンがもうすでに死んでいた。

 姿形がそのままだったから、死んでないと思ったのに、俺の勇仙の力は強すぎるらしい。


 「ちょ・・あなた、あたしがいるのを忘れてるわ・・・ぎ・・ぎもぢわるい! おぼぼぼぼぼ」

 「あ! 忘れてた。すまん」


 俺は、ナディアをおんぶしてることを忘れていた。

 ナディアは俺の肩に向かって綺麗な噴水を披露した。

 

 ◇


 「え~ん。えんえん。やだぁ。もういやああ。吐いちゃったぁ……もうやだぁ。ルルに吐いちゃったぁ。恥ずかしい。死にたい!」


 ナディアは、駄々こねた子供のように泣いていた。


 「わりい。わりい。ナディアのせいじゃないって、俺のせいだから気にすんなって」


 俺はその場で上半身の服を脱いで、着替え始める。

 彼女は俺のそばでうずくまって顔を伏せた。


 「だってぇ。ただ吐いたんだじゃなくて、ルルに向かって吐いちゃったよ」

 「いや。どっちかといったら、今のは俺が悪いよ。具合悪いナディアに、あんな縦の回転を加えちまったらもっと具合悪くなるに決まってるわ。すまんって」

 「うううん。謝ってもらっても……あたし。もうルルに吐いちゃったのよ。ルルに見られたんじゃなくて、ルルに向かって吐いちゃったのよ。もう死にたいぃ……」


 それは俺が悪かった。

 こればかりは完璧に悪い。申し訳ない。

 俺はすっかりワイバーンに気を取られて、興奮してしまい。

 彼女をおんぶしてたことを忘れていたのだよ。マジでスマン。


 「幻滅どころか。失礼よ・・・やだ、もう生きていけないわ」

 「いや。そこまでいかなくてもいいよ。俺は平気だって。気にすんな!」

 「こんな女……き、嫌いになったでしょ。げ・・・ゲロ女よ・・・・自分に幻滅よ」

 「はははは、別に嫌いにならないって。俺が貴重な体験をしたと思えば大丈夫。俺はね。大抵のことは笑っていられるし。女性がしたことは、どんなことでも受け入れるのさ……ってなんだかレオンみたいでやだな。でもこんな事は些細な事なんだぞ。マジで気にす・・あれ? ん?」


 二人でそんなやり取りをしていたら、奥から鳥の人たちがやってきた。


 「あなたは・・・ヒューム!」

 「しかし・・・ワイバーンが・・・」

 「あ、ありえるのか!?」


 一気に鳥の人たちが俺を囲んできた。 

 こちらも興奮気味に俺の元に来た。


 「すみません。あなたがワイバーンを倒したのですか」


 美しい顔立ちの女性が俺の顔の前まで近づいて来る。

 そんなに近いと、顔全体が見えません!

 鼻しか見えない!


 「え。ま、まあ。そうですけど」

 「なら、私たちの仲間を助けてくださいませんか。私たちを逃がすために、まだ入り口の方で戦っているんです」


 鳥の女性は俺に懇願してきた。


 「え? なんだって。そいつはやばいんじゃ」

 「そうなんです。それにその中に私の旦那様がいるのです。助けてください。どうか」

 「お!? うん。いいよ。いこう。助けに行くわ」

 「ありがとうございます。こちらです。私に乗ってください!」

 「え? 乗る!?」

 「はい。お願いします」


 鳥の女性は獣身化フォームチェンジした。

 背に乗れと言うので、俺は初めて女性に乗った。

 鳥の姿をしたとしてもなんだか申し訳ない!


 「乗ったぞ。お願いする!」

 「ええ。こちらこそ、戦闘をお願いします。飛びます!」

 「おう。わかった!」


 鳥の女性の飛行はズンとほぼ一緒の速度。

 顔面に受ける風が凄い。

 顔が変形しそうだ。


 「おおお。飛ぶの速えわ。あんた、何の鳥?」

 「私は隼です」

 「だから速いのか。無茶苦茶だぜ」


 俺は洞窟内だけど、空を飛んで現場に向かった。


 ◇


 俺と鳥の人は入口を突き出た。


 「い。いました。ろ。ローレン!」

 「なんできた。リヴァン。お前は逃げろと自分は言ったはずだ」

 「逃げたくないです。貴方をおいては! でも私は、この方をお連れしたのです」

 

 入り口での死闘は。 

 ワイバーン三体に対して、鳥人バードストライカーが六名。

 一体二の有利はあってもワイバーンは強いらしい。

 一瞬見ただけでも鳥の人たちが不利だった。


 「おいしょ! 運んでくれてありがとな。リヴァンさんって言うんだな」

 「あ。はい。あ、あなたは・・・」

 「俺の名は!」


 勇仙の力を出して俺は高く飛び、『桜花流 百花繚乱 桜流し』を繰り出した。

 居合の一撃から始まる。

 咲き乱れる花びらは、ワイバーン三体をほぼ同時に斬り伏せた。


 「ルルロアだ!」


 三体のワイバーンがドサドサッと落ちたのを見て、鳥人バードストライカーたちは驚いていた。

 

 「呼ぶ時は、ルルでいいぞ!」


 ◇


 「ああ。よかった。ローレン。無事ですか」

 「だいぶ疲労はありますね・・・」

 

 二人は人の形態に戻って抱きしめ合っていた。

 俺はそこから少し離れていると、入口で死闘をしていた鳥の人たちに囲まれる。


 「お前誰だ」

 「俺、ルルだって言ったじゃん」

 「ヒュームだぞ。なのにあれを倒したのか」

 「見てなかったの? 今俺が斬ったでしょうよ」

 「見てたぞ。もちろん」


 俺はこの場にいた鳥の人たちに次々と話しかけられたのである。

 質問攻めであった。


 「強いな。ヒューム」

 「だからルルだって」

 「ルルか。覚えたぞ」

 「あ。どうもどうも」

 「あとでローレンと話してくれ。俺たちの長なんだ」

 「長? そうなんだ。リヴァンさんの旦那さんがね」

 「そうだ。今は・・・あれ。そうか、お取込み中か」

 「そうみたいだね」


 二人は、無事確認のキスをしていた。


 ◇

 

 二人の心が落ち着いたらしいので、俺は近づいた。


 「よし。いいかな。ローレンという長さん。俺はルルロアです。ルルです」

 「自分はローレンです。ルル殿。助けていただきありがとうございます。しかし、ヒューム……どこにそんな力が」

 「ああ。俺はね。ジーバードのヒュームなんだ。ちょっとこっちのヒュームとは少し違っていてね。たぶん、異常に強いと思う。はははは」

 「ジーバード!? ファイナの洗礼はまだあるはず!?」


 このくだり。やっぱり毎回だわ。

 周りの鳥の人たちも目が点になっていた。


 「それじゃあ、聞くけど。何で襲われたのかな? ワイバーン四体とエンカウントってなかなかないでしょ?」

 「そうです。実は・・・」


 一族の長ローレンと鳥の人たちはある集落で平和に暮していたのだが。

 それがある日突然、ワイバーンの襲撃に遭い、集落と部族はほぼ壊滅状態になったのだそう。

 200名ほどの鳥の人たちは死んだらしい。

 生き残れたのは、今戦っていた人たちと、洞窟の奥まで逃げ切れた20名。

 里から離れてもワイバーンは追いかけてきて、こちらの洞窟に辿り着くと。

 奥に皆を逃がしてこの手前で最終決戦をしかけた。

 せめて奥にいる人たちでも生き残らせて種を存続させようとしたのだ。

 命懸けの行動は賞賛に値するが、もう少しうまくやるべきだった。

 このまま、俺がいなければ全滅だっただろうからな。


 「そうか。この作戦。あんたらはミスってるな」

 「え? これが間違いですと!?」


 ローレンの瞳が熱く燃えている。

 否定されて燃え上がっていた。


 「正確に言うと間違いじゃないよ。でも、考えてみてくれ。いいか。全員で魔力を溜めながら、こっちの洞窟の中に移動してから、タイミングを合わせて入口までターンをする。そんでさらにタイミングを合わせて、この出入り口の壁を破壊してワイバーンを閉じ込めちまえばいいんだよ。そしたら逃げられただろ。全員でよ」

 「・・・む・・そ、それは・・たしかに」

 「だろ。そんでその状態になっても、ワイバーンが出てくる場合。その場合でも、ワイバーンが外に出るためには壁を破壊するしかない。そこには多少の時間を要するから、その僅かな時間の間にここから全員が飛び立てばよかったのよ。あんたら里を守る時にはどんな守り方したんだ。まさか、さっきと同じようにワイバーンとタイマンしたみたいに戦ったんじゃないだろうな」

 「いや。一対複数で」 

 「そいつは勝てんわ。守るためには工夫していかないとさ。まあ、過ぎたことを責めちゃいかんな。あんたらは生き残れたんだしさ。頑張れるよ。生きていればなんだって出来るんだ。俺の親父が言ってたから間違いない。はははは」

 「…そ、そうですか」

 「じゃあ、里はどうなってるの? ほぼダメなのか? 壊滅状態??」

 「戻るのは無理ですね。おそらくワイバーンをけしかけた誰かに、我々が戻ったと分かられた場合危険ですし。もし帰ることが出来て、すぐではなくても、いつ襲撃が来るのかもわかりませんし。おそらくすでに里はないに等しいかと」

 「そっか・・・じゃあ、俺の町に来る?」

 「ルル殿の?」

 「ああ。俺の町に来れば、とりあえずの雨宿りくらいにはなるよ。俺たちさ。今街を作ろうと、町を作っている最中なんだけどさ。鳥の人たちも来てくれたら嬉しいな。あ、でも俺の町、ヒュームと奴隷と逃げてきた白狼族しかいないけどね」

 「なるほど。それなら自分らも・・・ですが、もし我々があなたの町に居ることが敵に知られたら、あなたの町に迷惑が」

 「ああ。誰かが襲撃しに来るって話だよね・・・いいよ。俺が話しつけるから。もし、ローレンさんたちが来てくれるなら。俺が守ろう! 鳥の人たちは全員さ!」 

 「ほ、本当ですか。それでは皆を説得してみます。自分は是非お世話になりたい」

 「おお! それじゃあ、話し合いを。俺も仲間の元に戻るので」

 

 という会話をしている間に、奥から皆が出てきていた。



 

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