第98話 フレデリカ シエナ 両英雄立つ

 「ジャコウに住まう。ジャコウを愛する人々よ。私の名はフレデリカ・キーサ―。かつて、ジョルバ大陸にあったテレスシア王国の王バルマの娘である!」


 マーハバルの中央広場にて、フレデリカが本名を宣言。

 聴衆は熱狂に包まれる。

 大王。

 そのスキル『民への鼓舞』を使うまでもない。

 彼女の凛々しき姿を見れば、誰もがそう思うだろう。


 「私は世界に向けて・・・ここマーハバルで新たに生まれる国を宣言する! 王都をマーハバルに置き、国名をロア王国! 国王をこの私―――フレデリカ・キーサーとする」


 静まり返る民衆は、フレデリカの通る声を聴き始めた。


 「ここより我らは、新たな歴史を歩むためにクレセント王国を打倒する。勇敢なるロア王国の国民よ。私は、テレミア王国のゲルグ王と、その民たちと協力して由緒正しい。あの歴史のある。テレスシア王国を乗っ取った。悪しきクレセント王国と戦うことを決めた!」


 言葉の一つ一つに思いを込めて、フレデリカは皆を鼓舞する。


 「私は、魔王ヴィランの思想を否定する。優秀な職業を持つ者だけが支配する世界。私はそれを完全に否定する。世界は自由であるべき。皆が自由に生きるべきなのです。誰もが等しい立場で。誰もが何にでもなれる。自由で開かれた世界を、私は皆と共に作っていく! たとえ、神によって、私たちのジョブが決められるのだとしても、自分の人生は、自分で自由に選ぶのです。私たちは自由であるべきなのです。ですから、この夢の実現のために、私と共に戦いましょう。ロアの民よ! 私と共に開かれた新たな世界を歩むのです! さあ、私と共にこの地から始めましょう。私の愛するロアの民よ! ここから始めるのです!」


 フレデリカが右手を挙げた瞬間、世界が震えた。


 「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」


 大歓声が地鳴りとなって響く。

 大陸中を震わす歓喜の声は新たな世界の幕開けだった。


 フレデリカの両脇に立つクルスとジャック。

 その三人を遠巻きに見つめるレックスとホルサンは涙した。

 テレスシア王国の系譜を受け継ぐ真の王は、ここに生きていたのだ。


 「ロア王国! フレデリカ! ロア王国! フレデリカ!」

 

 堅苦しいものを嫌うフレデリカは自分を王とは呼ばせなかった。

 凛々しく勇ましい戦衣装の彼女は降壇した。

 その歩く姿は壇上を降りても戦う王の姿であった。

 


 ◇


 控室に帰った三人は、顔に疲れが残ったまま席に座る。

 

 「つ、疲れた~~~。僕って従者だったんですね」

 「クルス。何を言って、私たちは元々従者ですよ」

 「ああ。でもクルス。ジャック。あなたたちがそばにいなかったらワタクシ。あんな風にお話しできません! 疲れましたぁ~~~」


 フレデリカはテーブルに突っ伏した。


 「フレデリカ。カッコよかったですよ」

 「そうですね。演説。よかったですよね。でも僕らはただ後ろで立っていただけでしたね。あははは」

 「そうかしら、あれでよかったのかしら? 私、普通の女の子ですから分かりませんわ」

 「「 え? それはない! 普通ではない! 」」


 二人は声を揃えて言った。

 控室にホンナーが入って来た。


 「フレデリカ王。よく出来ましたね」

 「嫌ですわ。ホンナー先生。私その呼び名嫌ですわ!!!」

 「はははは。なれないといけませんよ。これからは王ですからね」

 「むむむ」


 頬いっぱいに空気を含んでフレデリカは不貞腐れた。


 あれから三年。

 世界の情勢は大きく変わった。

 テレスシア王国は消滅。

 新たに建国されたクレセント王国はジョルバとジーバード大陸を掌握。

 そこに至るまでには多くの血が流れたと聞く。

 一年以上にも及ぶ長き抵抗の戦いの果てにジーバードは落ち、クレセント王国となったのだ。


 そして、この戦乱の際。

 諜報員エラルは、戦いが始まる前から情報を常に収集し、逐一、二大陸に情報を渡していた。


 この功績は一兵卒のレベルではなしえない。

 究極の功績である。

 そして、その素晴らしい功績の中で、後の世に多大な影響を与えたものがある。

 それは、シエナ家の保護であった。

 エラルは任務途中で、偶然シエナの父と出会い、戦火になる前のジーバード大陸から一家をジャコウに逃がし、無事にホンナーの元へ送り届けたのだ。

 この行いのどこに戦果があるのかと思うだろうが。

 彼女のジョブを忘れないでほしい。

 彼女は英雄職『マスターハンター』である。

 敵陣営に対して、一番の要である英雄職。

 その重要な一人を保護することに成功したのだ。

 そしてもう一つ。

 彼女の父は車製造の会社を営む精密機械のスペシャリストだった。

 この事は新たな飛空艇を生み出すことに一躍買っていたのだ。

 だから、エラルというかつて卑怯者と呼ばれた男は、この世界の歴史を動かす有名な諜報員となったのである。


 

 ◇


 マーハバルに新たに建築された城壁。

 その上から北を見つめる少女。

 オレンジ色のボロボロになったリストバンドを胸に抱いて、彼女は北を指さす。


 「あちし! あそこでお兄ちゃんを探すんだ! あちしが絶対に見つけるんだ!」


 11歳になった彼女はもうすでに一流の冒険者である。

 マスターハンターを持つ彼女の実力は、すでに現在の冒険者の上位層に位置する。

 準特級ほどの力を持っていた。

 この成長力を支えた彼女の師は彼である。


 「こんなところまで来てたのか。駄目だろ。下で稽古だって言っただろ・・・それともここで鷹の目の練習か?」

 「ム。フィン。ここに来たのか。くるしゅうない」

 「なんでお前は、いつも偉そうなんだよ」

 「フィンは、あちしのお兄ちゃんの弟子なんでしょ。ならあちしの弟子でしょ」

 「は? なんで、俺がお前の弟子なんだよ」

 「あちし、もうフィンを超えた! あちしの弓はお兄ちゃん以外には負けない!!!」

 「おいおい。隊長が弓を使ったとこ見たことないぞ。隊長って弓を使えるのか???」

 「使えるに決まっている! お兄ちゃんは何でも出来たもん」


 軽装に身を包んでいるシエナは、ルルロアの事を万能者だと思っている。


 「あちしの弓はもう・・・・200m先の敵の目も抉る」

 「怖いわ。こいつ・・・言ってることが怖えよ・・・はぁ」


 師であるフィンは、弟子であるシエナを御せずに困っていた。


 「シエナ~。こっちに美味しいケーキがありますよ。食べましょう」

 「は~い。マールダ。待ってて」


 マールダには素直なシエナは、高い城壁のこの場所から飛び降りていった。

 彼女は階段も使わずに降りることが出来るのである。

 城壁の壁に対して、スキルを発動。

 狩人スキル『壁走り』

 それとこの応用スキル『木登り』までもマスターしている。

 彼女はやはり天才であった。


 「あら、よく出来ましたね。それじゃあ、食べましょう」

 「はい。マールダ。今日は何のケーキ?」


 マールダが左手を伸ばすと、シエナは笑顔でその手を握る。

 二人は仲良く手を繋いだ。


 「チーズケーキよ!」

 「わーい」


 二人が城壁の脇にある兵舎に向かうと、上から見ていたフィンは。

 

 「なんだよ。俺は???? おい。マールダ。シエナ」


 置いてけぼりを食らった。



 ◇


 この三年。

 やるべきことが決まってからのジェンテミュールのメンバーは、解散はせずにグンナーの軍の特別軍として編入された。

 それは腕がなまらないようにするためと次の大冒険に行くための実力をつけなくてはならないためであった。

 ルルロアの救出。それは魔大陸の踏破。

 これは偉業中の偉業であるから、皆は自分の爪を研ぐ期間が必要であったのだ。


 だが彼らの大半は準特級だったので、軍に編入するにも実力が高すぎた。

 なので軍としては正式加入せずに、特別軍として独立友軍となったのである。

 普段は訓練のみ。

 特別時は、モンスター退治と、西から来る船団を追い払う戦いをこなしていた。


 そして、西のクレセント王国について少々。

 かの国は、二大陸統一後。

 東の侵略に手間取っていた。

 過去に大型船を使って、ジョーとジャコウを襲撃しているが失敗に終わっている。

 

 魔王ヴィランは、テレミア王国とロア王国の強さに面を食らったというのが内心の心情であった。

 想像以上の反抗勢力になっていることにだ。

 この事には、魔王の力を有するヴィランでも戸惑うばかりで、なぜこうなったのかをずっと悩んでいたのだが。

 この日に全てが解決されたのである。


 それはフレデリカ女王のジョブ『大王』の存在を世界が確認したのだ。


 この事に驚愕を隠せずにいるヴィランは玉座の間で椅子を叩いたと記録されている。

 冷静な男の動揺を誘ったのは。

 彼女が、かつての魔王の天敵『大王』だからだ。

 唯一警戒すべき職を持つ彼女の存在は、目の上のたんこぶどころではなかった。


 ここより、ヴィランの計画を遅れに遅れて、四大陸の統一はまだ先の話となる。



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