第61話 その後
「ルナさん!」
俺とアマルは、デビルキメラ撃破後にすぐにルナさんに駆け寄った。
「ルル、アマル・・・よくやりましたね」
ルナさんは、右隣に来たアマルの頬に手を優しく添えた。
「姉上…お怪我が…」
「ええ。大丈夫。それにしても立派でしたよ。アマル・・・」
アマルを褒めるルナさんの表情はきつそうだった。
ダメージが大きい。
体を動かすのにも辛そうであった。
「ルナさん、傷を見せてください。俺が診断します」
「‥‥た、大したことはないですよ。うぐっ」
俺が彼女の服をめくり上げると。
声では我慢していても体には痛がる反応が出た。
ダメージを追った部分の筋肉が僅かだが、震えた。
それに紫色に腫れあがっていて、左脇腹のダメージが大きい事を知る。
あの時の俺には、攻撃角度からいってもお腹を抉られたと、思っていたのだが、実際はギリギリのところで体を捻って致命傷を回避していたのだ。
さすがは歴戦の侍であるルナさんだ。
戦いにおいては素晴らしい人である・・・
そう、戦いにおいてだけは信頼できるのである!!!
「これなら。医術・・・あ、イエロー反応だ。ちょい赤みが出ている・・・この程度あるならば」
俺はすぐにマジックボックスから、包帯とポーションを取り出す。
「ルナさん。これをゆっくり飲んでください」
「・・・ん。ポーションじゃないですか。貴重なものを」
「貴重じゃないです。大丈夫です。俺が作りましたから、まだあります。傷はこれで少し癒えます」
「は? ポーションを? ルルが?」
「ええ、俺は錬金術のスキルも持っているのでね。材料さえあれば作れますよ」
「はぁ。ルルはもう人の領域を超えてますね。相変わらずです。飲みます」
そう言ったルナさんはポーションを飲んだ。
若干体力が戻ったルナさんの目に生気が宿る。
「だいぶ楽に」
「次にこれを・・・・包帯を巻きますね」
「・・・え?」
「俺のスキルの応急手当です。これの副次効果で、体力を少し回復させることができて、さらにこれ以上の出血を防ぐ効果があるので、今のルナさんの負傷具合ならば、かなり効果がありますし。打ち身にも若干効くので」
「そ、そうですか。ではお願いします」
お腹を出してもらったまま、俺はルナさんの手当てをした。
「足手まといでしたね。拙者」
「そんなわけありません。ルナさんがいなかったら俺たちは、この15階まで来ていないですよ」
「そうです。拙者はルル殿と姉上のおかげでここまで来ました」
「そうですか・・・アマル、別人のようですね。立派な侍であります。嬉しいですよ。拙者はとても嬉しい。ちょっと頭をこちらに」
ルナさんがアマルの頭を優しく撫でた。
「良く出来ました。あなたはもう立派な里の侍ですね」
「え・・・はい。そのようになるように精進します」
「ええ、そうですね。拙者も精進します」
そう優しく微笑んだのだった。
◇
左肩を負傷している俺は、ルナさんを安全におんぶするために、紐を利用して彼女を俺に巻き付けるようにして固定した。
「アマルに頼みたい。下の階層では敵がわんさかいるかもしれん。お前が全て蹴散らしてくれないか」
「ん? 拙者が全て?」
「ああ、すまんが、俺もあのスキルを六分も使っちまってな。実は体がボロボロなんだ。そんで俺は帰りの道中ルナさんをおんぶするから、お前ひとりに任せることになるが大丈夫か?」
「承知しました。拙者が斬り伏せます」
と言ってくれたことで俺たちはこのガルズタワーを降り始めた。
よく考えてみたら、俺はあのスキルを六分使っても立っている。
もしかしたら、今までの指導の日々で俺もかなり成長しているのかもしれないと思った。
敵を倒していくアマルを見つめ思う。
アマルの実力は剣聖と呼ぶにふさわしい人物となった。
元々俺が鍛えた段階で一級冒険者クラスの実力者であったが。
才能開花の影響で今や、特級クラスの実力者となっていた。
なぜなら、ここにいるモンスターどもはAランク帯はなかなかいないが、Bランク帯はうじゃうじゃいる。
なのにアマルは余裕で斬っていった。
あのひしめき合う八階のモンスターどもも、楽勝で斬り伏せたのだ。
これはモンスターパレードと同視してもいい状態なのに、彼は余裕であったんだ。
ならば、Bランク帯のモンスターパレードの護衛任務を一人でこなすという神技を達成している。
ということはこれはSランク護衛任務。
アマルは、特級冒険者と同等となったのである。
◇
帰りの道中。俺は呟いた。
「俺は、とんでもないバケモノを生んだか・・・・まずいかな?」
「いいえ。大丈夫でしょう。あなたのおかげであの子は真っ直ぐに育ちましたよ。綺麗な心を持ちました」
「あ。ルナさん。起きましたか」
俺の背中で、ぐっすり寝てくれていたルナさんは起きていた。
「ええ。拙者と兄上、それに父上ではあのように育ちませんでしたよ。あなたの指導のおかげです」
「そうですかね」
「そうですよ……ありがとうルル。拙者の家族の命は助かりました。これにて拙者も、帰れますね」
「そうですね。待ってますよ。師匠。寂しそうでしたからね。手紙も読んだでしょ?」
「手紙・・・・・ああ、あのメモですね」
「メモ? 師匠メモって言ってたけど、本当は手紙でしょ?」
「いいえ、ルル。あれはメモですよ。『無事でいろ』 これしか書いてませんでしたからね。メモですね」
「はははは。師匠らしい一文ですね」
「はい。グンナーさんらしくて素敵でしたよ」
師匠のぶっきらぼうな優しさを知る俺とルナさんは笑いあってこのダンジョンを後にした。
◇
里に帰還した俺たちは、里中から大歓迎を受ける。
「よくやったぞ坊ちゃん」「おお。長の孫! 偉いぞ!」
「ルルちゃん、お団子。食べに来なよ」「これで我らの里も安心だ」
「そうだな。剣聖がいるのだ。何十年ぶりだ」
なんか途中でお茶屋のおっちゃんの声が聞こえた気がした。
俺のことを心配してくれていたんだと思って、ちょっと嬉しかった。
大パレードのような通りを抜けて、俺たちは大屋敷に戻る。
「よくやった。よくやったぞ。アマル。おおおおおお」
鼻水まで出てる爺さんがアマルに抱き着く。
その後ろでブランさんは涙をこぼして喜んでいた。
「ああ、そうだ。俺の息子よ。よく無事で」
「はい。拙者。ルル殿と姉上のおかげで生き残りました」
「そうか。そうか。立派になって」
「爺さん。そこんところは後で説明してやるから、俺、寝てもいい? 結構・・・」
「「「ルル殿!!」」」「ルル!!」
俺はバタンと倒れた。
安堵感に包まれたら一気に疲れが出てきて玄関先で死んだように眠った。
この先の意識がないから記憶がないのである。
次の記憶は三日後。
◇
「起きろじゃ!!! 三日目じゃ!!! 暇じゃ!!! 暇!!! 余は話し相手がいなくて暇じゃ」
理不尽な理由で起こされたのである。
俺が倒れた時の師匠は、黙って俺を見守ってくれていたというのに、この小鳥はやかましいったらありゃしないのだ。
「クソ、やかましい・・・レミさんかよ。俺の親父みたいに騒ぐなよ」
「お! 起きたのじゃ! ルル、余は暇じゃぞ!」
「ああ、そうですか」
「リアクション薄いのじゃ。久しぶりなんじゃから、感動せい!」
「いや、起きてすぐに鳥が目の前ってね・・・誰も感動しないでしょ。ルナさんかアマルがいてくれるなら感動しますけどね」
「おお、酷いのじゃ・・・おろおろ、あの時助けてやったのに・・・酷いのじゃ」
「たしかにさ。あの時に助けてもらったけどさ。あれってさ、あんたがいなかったらエルジャルクは攻撃して来なかったんじゃないの?」
「ギク!? そ、そんなことはないじゃろ」
「いや、あんたさ。あの時にエルジャルクに存在がバレたって言ってたよね? あんたのせいじゃん」
「ヒューヒュー」
「口笛できない鳥ってどういうこと!? 鳴けないじゃん!」
とまあ、レミさんはごまかしに入った。
「そうだ。レミさん、エルジャルクとはどういう関係なのよ」
レミさんは急に真顔になった。
「・・・余と奴は正反対なのじゃ」
「正反対?」
「うむ。奴は闇。余は光。相反する力を持つのじゃ。互いにとっての抑止力じゃ。じゃから奴は余を邪魔だと思っておるのじゃ」
「はぁ? まあ、レミさんにとっての天敵でライバルみたいな関係ってことだな」
「そうじゃな。簡単に言えばな」
俺はここで奴との決戦での事を思い出した。
「レミさん。そう言えば、あいつ。あんたのことをレミアレスと言っていたぞ。あれが本名か」
「そうじゃ。隠しておこうと思ったのにじゃな。あ奴のせいで、ムカつくのじゃ」
「なんで隠す必要があるのよ?」
「だって・・・余、レミアレスの姿じゃないのじゃ」
「は?」
「余。ちっこくなってもうたんじゃもん。恥ずかしいのじゃ」
「へ~、そうすか」
「なんじゃ、その態度、失礼じゃぞ」
「いや、別にちっこくても大きくてもレミさんはレミアレスだろ。なら恥ずかしがることないだろうが」
「おおお。ルルは優しいのだな。褒めて遣わそうなのじゃ。ハハハハ」
「はぁ、そうですか」
感情どうなってんのよ。この小鳥。
と思ったことは内緒にしよう。
◇
俺の回復を待っていた四人は、俺を大広間に呼び出した。
爺さん、ブランさん、ルナさん、アマルの順で並んでいた。
「どうもっす。すみませんね。三日も寝てたみたいで」
「いや、こちらこそ。あなたの体調を見抜けず……、その悪い中でもルナまで運んでいただき、感謝します」
「いえいえ。当然のことですよ。ブランさん。ルナさんは俺の師匠の様な人ですからね。家族も同然です」
ブランさんは丁寧に謝って来た。
「ルル殿。此度の件、大変感謝する。サクラノの長としても、この子の祖父としても、ワシは感謝してもしきれない・・・でも感謝するしか言えないのだ。受け取って欲しい」
「おう。受け取る! だから爺さん。そんな堅苦しくいかなくてもいいぜ」
「うむ。だがな。恩人であるからにして」
「まあまあ。そんなに気にすんなって・・・それよりもアマル、お前の気分はどうだ? 覚醒しちまってだいぶ感覚が落ち着かんと思うんだけど」
「はい、その通りです。動きが違います。いえ、世界が違うと言った方が良いかもしれません」
「なるほど。別世界に送り込まれたかのように、お前の目には映ってんだな。そうだな、今後の組手は大変になりそうだな。慣れていくしかないな」
「はい。精進します」
「ああ」
アマルはやはり覚醒した影響で別人格のようになって、立派な武人だった。
しばしの談笑後。
「そこで悪いのじゃが・・・」
爺さんが重い口を開いた。
内容が頼み事だったから、言いにくそうにしていた。
こんな大事から、すぐにお願いするのがいたたまれない。
そんな感じがする。
「ルル殿、つ、疲れている所悪いが、王に謁見してくれないか」
「王?」
「うむ。テレミア王国の王ゲイン様にだ」
「なんで、俺が? 必要ないだろ」
「それが、この国が剣聖を保有することになったので、アマルは王に謁見せねばならんのだ。そして、それを報告する際に、ルル殿が来てほしい。と王がご所望でな。ぜひ一緒に来てくれと」
「アマルだけでいいじゃんか・・・俺、王とか興味ないしな」
「そこをなんとか、ワシの顔を立ててほしいのだ…」
申し訳なさそうな爺さんが可哀そうだと思った俺は、しょうがないと思いながら口を開いた。
「…そうか・・・じゃあ、いいだろう。でも俺はそちらさんの態度によってはあんまりいい感じにはしないぞ。俺はおべっかは使わんからな」
「分かっている。来てくれるだけでもいいのだ」
「うし、じゃあ、アマルと一緒に行けばいいんだな」
「そうだ。すまぬ」
ここで気になることを一つ。
「そうだ。ルナさんはどうするんですか?」
「拙者ですか」
「帰らないのですか?」
「帰ります!! ルルのおかげで胸のつっかえは取れましたしね。グンナーさんの元に帰ります」
「そうですか。それじゃあ、この手紙をお願いします」
「ぶ、分厚いですね・・・束になってます」
「ええ。これは師匠宛てとその他宛てに書いてますからね。師匠に他の人の分も渡してもらおうと思ったんですよ。それに前から手紙は書いていたので、結構かさばりましたね。ははは」
「なるほど。わかりました。グンナーさんならば快くやってくれるでしょう」
「はい。お願いします。それじゃあ、後の事は俺に任せて、ルナさんはグンナーさんの元へで!」
「はい。これをしっかりお渡ししますね。ルル!」
こうして俺は全ての事をルナさんに託し、アマルと一緒に王謁見の準備に入った。
三日後にルナさんが里を出るらしいので、それに合わせて、俺たちは王に会おうとの計画になった。
それに・・・。
皆さんもご存じの通り、ルナさんはやばい。
一人にしてたらどこに辿り着くか分からないのだ。
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