第25話 英雄と無職の始まり 1

 冒険者。


 それは、大陸を股にかけて旅をする者。

 それは、未知なる素材を求めて、ダンジョンへと潜る者。

 それは、誰も倒したことのないモンスターに挑む者。

 それは・・・・・それは・・・・それは・・・。


 冒険者は、どんな職業ジョブを持っていても、誰しもがなれる分、冒険者には色んな目的を持った人がいる。

 人それぞれ、夢や目的は違うけれど、冒険者は、冒険することに変わりがない。

 人生という大冒険を旅する機会は、等しく誰にでも与えられているのだ。

 



 冒険者を始める時。

 この俺ルルロアは、いつも一緒の英雄たちといた。

 こいつらと一緒なら何でも出来るんじゃないかと。

 俺は胸躍る大冒険が出来るんじゃないかと思っていたものだった。


 無職が一人と英雄が四人。

 どこか歪であったのに、でもなぜかバランスが取れた冒険者パーティー。

 それが俺たちだった。

 

 彼らは、俺の為に冒険者になったのだ。 

 俺と一緒に冒険すること。

 それが彼らの夢で、俺の夢は。

 英雄職にふさわしい偉業を。

 前人未到の偉業を。

 あいつらに達成してほしい!

 である。


 その瞬間に俺は立ち合えればいいんだ。

 俺は目立たなくてもいい。

 その時が来たら、俺は彼らのそばで笑いたいんだ。

 こいつらが、俺の自慢の友達なんだって。

 ジジイになった時にでも、孫に自慢してやろうかと思ってたんだ。



 ◇


 学校卒業後。

 俺たちはすぐに冒険者として動き出そうと、マーハバルのギルドに向かった。


 「お姉さん、そこのお美しいお姉さん。冒険者になるにはどうしたらいいんでしょうか?・・・そんなことよりも今日はお暇でしょうか。今は、お忙しくても夜にでも・・・成人したばかりですが、お酒は飲めますよ。ぐびぐびっと、俺とどうです?」


 勇者レオンは、受付の女性をナンパして、ついでに重要な質問をしていた。

 大事な事の方をついでに話すなよと言いたい。

 

 「どうしたの。君・・・あら、まあ」

 「いやあ、あなたがあまりにもお美しく。俺は見とれてしまいましてね・・・・・・」


 会話の中身が、どんどんナンパの方に傾いたので、俺はその隣の受付の人の前に立った。

 あのモードになると、埒が明かない。

 勇者レオンとは屑である。

 俺は、こいつをほっといて受付の人に話を聞く。


 「すみません。冒険者登録ってどうやるんですか?」

 「あ。はい。ええ、こちらの白のカードに名前を記入してもらいます。それとこの裏面に天啓で得た職種を書いてもらいます。それでこちらに持って来て頂ければ、冒険者登録は完了です」

 「説明ありがとうございます! 技能検査とかないんですね」

 「ありません。冒険者ギルドは冒険者になりたい人をいつでも歓迎しています」

 「そうですか。分かりました。助かりました」


 俺は白のカードを四枚手に入れた。

 ギルドにある丸いテーブルで四人で並んで名前を書く。

 

 「ルル! レオンの分は?」

 「ミー。あの感じで。素直に名前を書いてくれると思うか。今のあいつは、この席にもつかんぞ」

 「そうだな。いつものか・・・阿保だな」


 ミヒャルは冷ややかな目でレオンの事を見た。


 「ああ。だから、あいつだけ、後で自分でやらせればいいと思うじゃん。俺たちは勝手にやろうぜ」

 「そうだな。賛成!!!」


 俺とミヒャルの意見が珍しく同意見となった。

 レオンはまだ女性を口説いている。


 「ルル! 本当に職業を書かなければいけないのでしょうか」

 「ん?」 

 「あまり書きたくないですね。知られたくありません」

 「そうか・・・でも、書かないと、冒険者になれないみたいだぞ」

 「そうですか」


 目の前にまでカードを持ってきて、ジッと見つめていたエルミナは、意を決してテーブルの上に置いてペンを取り出した。


 「仕方ありません……我慢します」


 少しがっかりしたエルミナは、自分の職業が気に入らないのではない。

 重いのだ。

 聖女という役職に常に重みを感じている。

 それにエルミナは、自分が聖女という崇高な人間であると微塵も思っていない。

 私には荷が重いのです。

 といつも言っていて、口癖になりそうなくらいなんだ。

 でも俺は彼女にこそ、ふさわしい職業だと思ってる。

 だって、女神のように綺麗で、女神以上に優しいからな。

 これは内緒にしておこう。


 「・・・・ルル・・・・おら、書いた」

 「お! 珍しいな。イーが最初だなんて・・・っておい!!!」

 「・・・な、なんだ!?」

 

 イージスの字が汚すぎて読めません。

 ぶれぶれの字では、ギルドの職員さんたちが困ってしまいます。


 「ったく、イー。俺がお前の手を握ってやるから、書き直すぞ」

 「・・・えええ・・・・めんどい」

 「誰がめんどいって、俺がめんどいんだよ。お前はただペン握って、大人しくしてろ」

 「・・うん」

 

 しょんぼりしたイージスは、ペンを握り、その上から俺が手を握って、イージスの記入をやり直した。

 イージスという男は、世話のかかる弟みたいな奴なんだ。

 

 「・・・おお! 出来た・・・寝る!」

 「寝るな! アホ」


 イージスの頭にチョップをするが。


 「zzzzzzzz」

  

 寝た。

 とにかく眠るイージスである。


 ◇

 

 それぞれカードに記入し終わると俺が立ち上がって皆の分を回収した。


 「そんじゃ、提出するぞ。皆の分。俺が持っていくわ」

 「任せた」

 「ルル、お願いします。ありがとうございます」

 「・・・・うむ・・・おらのも・・・・たのむ・・・ぞ」


 四人分を持って俺は受付に行った。

 俺の受付の隣ではまだ。


 「いやぁ・・・お姉さんのようにですね。お美しい肌になるには、どうすればよいのでしょうかね。俺も・・・・あなたのように・・・」


 ナンパは続いていた。

 だから、思いっきりレオンの尻を蹴る。

 

 「いでえ。だ、誰だよ。ってルルか! 何すんだよ」

 「あほ! 俺たちもう、登録するからな。お前だけ登録してねえかんな」

 「え? ずるいぞ。ちょっちまて、俺を待て」


 勇者レオンは、わがままである。


 「そんじゃ、そのお姉さんから、白のカードをもらって名前書けよ。馬鹿!」

 「辛辣だ。お姉さん。この友達、酷いですよね」 

 「いえ。その方の言う通りで、早く受付して、お名前書いて、帰っていただけないでしょうか」


 お姉さんはナンパに負けていなかった。

 毅然とした態度で、早く書けよ馬鹿と言っている気がした。


 「ガーン。脈なしだったのか・・・俺は」

 「うっせえわ。お前! いい加減にしろや」


 俺はもう一度レオンの尻を蹴った。

 

 「いでえ。お前の蹴り強いんだよ!」

 「それは当り前だろ。こういう時の為に鍛えてあるからな、ナンパ男」


 

 ◇


 四人分提出した俺は、目の前の女性の顔色が七色に変化していくのに気づいていく。

 

 彼女はまず俺のカードから見た。


 「え?・・・え?」


 無職なのこの子みたいな顔で、鼻で笑った気がした。

 次にミヒャルのカードを見た。


 「だ・・だだ・・だ」


 カードに驚いて、「だ」しか言ってない。

 そこまで「だ」を言うなら大賢者まで言えばいいのに。

 

 さらに彼女はエルミナのカードを見た。

  

 「ぶは! 息が・・・」

 

 息が詰まったらしい。

 聖女の衝撃ってやつのせいですかね?

 その衝撃、腹にでも来ましたか?


 そして最後に彼女は、イージスのカードを見た。


 「・・・あああ・・・あ」


 急に息絶えた。

 女性は受付のテーブルに頭を打ち付けて気絶した。


 「あの。この場合、受付はどうなるんですかね」


 俺はシンプルに倒れた人に聞くが、全く反応がない。

 マジでいい迷惑である。


 「ぎゃあああああああああああああああああああ」


 隣の美人な受付のお姉さんはものすごい悲鳴を上げた。


 「ゆ、勇者!?!?!?!??!!?!?!?」

 

 隣の受付の人は、勇者と呟いて、気絶したのである。


 「何ここのギルド、気絶が流行ってんの?」

 「ああ、そうみたいだな」


 レオンが言ったことに、俺は全面同意した。



 ◇


 この一連の流れが騒動になっていた。

 俺たちの起こした騒ぎだと思い込んだギルドマスターが登場した。

 見たこともないギルドマスターの事を、ギルドマスターだとわかった訳は。

 胸にマスターとでかでかと書いてあったのだ。

 洋服の上にゼッケンのようなものが掛かっており、『マスター』と自己主張激しく書いてある。


 何だこの人、自慢したいのか。おっさん!


 おっさんは、女性を守るようにして俺たちの前に出てきた。

 どうやらおっさんは、俺たちが女性を襲ったとでも勘違いしているらしく、怒った顔をしている。

 俺は心の中で勘違いすんなよって思ったんだけど。

 確かに、実際にナンパしてた屑が隣にいるから、そう言われると完全に否定できないのが、なんかむず痒いし、嫌だった。

 何もかも、レオンのせいである。


 「君たち、私の職員に何をしたのかね。暴れるなら出禁にするよ」

 「俺たちは暴れてないですよ。こちらの女性たちは、俺たちのカードを見て気絶しました」


 俺は冷静に答えて、女性の手にある俺たちのカードを指さした。


 「ん? ギルド登録で? 気絶? ありえるの?」


 そんなのこっちに聞かないでほしい。

 初めてギルドに来たんだからさ。


 マスターのおっさんは、俺たちのカードの中身を見る。

 すると、俺たちが何もしてない。

 何も言ってないのに、勝手に腰が砕けて、勝手に足が崩れ始める。

 酔っぱらいみたいに千鳥足になった。


 「な、ななな。なんだって、勇者に大賢者に聖女に仙人!? し、信じられん」

 

 やはり、その驚きの中に俺は含まれていない。

 当然である。

 無職でビビるわけがない。

 無職は馬鹿にされる部類である。

 

 「それで、冒険者として登録できるんでしょうかね。マスターさん」


 レオンが聞くと。


 「ゆ、勇者様・・・そ、そうですね。登録します」


 マスターのおっさんは手が震えながら、冒険者ギルドの書類に俺たちの写しを取った。

 登録はこれにて完成らしく。

 簡単すぎる登録方法に、これだから誰でもなれるのだろうと俺は思った。

 

 そして、まだ手の震えが治まらないマスターから俺たちはカードを受け取った。


 「あ・・と・・これを。冒険者の基本事項をまとめた本です。今、五冊はないので一冊しかありませんがよろしいでしょうか。勇者様」

 「え。ああ。それでいいですよ。受け取ります」


 レオンが教科書のような分厚い本を受け取る。

 

 「ルル、まかせた」

 「おう」


 流れるように俺に本を託す勇者レオン。

 完全に俺は読みませんと言っているのである。

 やはりわがままである。



 ◇


 俺たちは、ひとまずギルドのテーブルで一段落した。

 四人が会話している間に俺は本を読む。

 百ページくらいあった本を速読した。

 ここで、俺はスキル『速読』を発動。

 ジョブ『司書』の初期スキルである。

 このスキルは、本を読むのに便利で、俺は図書館のエミールさんという方と仲良くなった時に得たスキルである。

 

 「ルル、なんか分かったか?」 

 

 テーブルの上に置いてあるコップの水滴を拭いて、暇そうにしていたミヒャルが聞いてきた。

 

 ここで本から皆の方を向いたことで、俺は気付いた。

 三人は、俺のことを見ていて、レオンは外の景色を見ていたのだ。

 レオンの目線をなぞっていくと、女性のお尻である。


 屑である!!!!

 

 いくつになっても頭の中はピンクに彩られているのだ。



 ◇


 レオンを完全に無視した俺は、三人に本の内容を説明した。


 「そうだな。冒険者は一階級上のランクの依頼までしか受けられないって」

 「そうなんですね。というと、私たちはなに階級なんでしょうか?」

 

 エルミナが丁寧に俺に聞いてきた。


 「そうだな。冒険者になりたては、この白のカードで、これは四級だって」

 「ふ~ん。なんも色もないもんな…初心者って感じだよな」


 ミヒャルが自分のカードを触った。

 

 「そうだな。この次が黄色。青色と、どんどん色が変化するらしいぞ」

 「へぇ~」


 ミヒャルが軽い返事をした。


 「ルル。それでは一階級上と言うとどのようなランクまでなんですか?」

 「おお。そうだな。それ説明してないな…。ええっと・・・」


 冒険者のクエストの目安ランクは。


 四級―――Eランク

 三級―――Dランク

 二級―――Cランク

 準一級――BランクかAランク

 一級―――Aランク

 準特級――SランクかAランク

 特級―――それ以上


 こうなっており、モンスターランクもこれと一緒である。


 「そうか…じゃあ、うちらはEランクかDランクの依頼か」

 「そうだな。それじゃ、あそこの掲示板で選ぶか!」

  

 俺が、ギルドの掲示板を指さした。


 「おお! いこう! ルル」


 ミヒャルがすぐに返事をして立ち上がった。

 今が暇だから、早く依頼を選びたい気持ちが前面に出ていた。


 ◇


 いまだに女性のお尻を追いかけているレオンは窓辺に置き去りにして。

 俺たちは、受けたいクエストを探すため掲示板を見る。

  

 「ルル、これどうですか?」

 「ん?」


 エルミナが俺の袖を引っ張った。

 可愛らしい手であると思う俺は、レオンか!?

 なんて思ったけど。

 俺は、レオンと同類だと思われたくないので無の感情で返事をした。

 心臓は、ドキドキしてるけどね。


 「ほら。これはEランクですよ」

 「おお。採取のクエストか。でも、これはな。すぐに終わっちまうぞ」

 「…え?」

 「この薬草な。マーハバルの隣のへ―ル平原に生えてる薬草なんだ。歩いて三十分で終わっちまうぞ」

 「そうなのですか。ルルは、何故それを知ってるのですか?」

 「ああ。俺、このバイトをしたことあるんだ。だから知ってる」

 「…凄いですね。ルルは、尊敬します」


 目を輝かせてエルミナは俺を褒めてくれた。

 うっ。

 可愛すぎて直視できない。

 出来たら俺のそばから離れてほしい。

 なんでこんな美人が俺の隣に立っているんだ。


 「んじゃ! こいつは!」

 

 ミヒャルが張り出されたクエストを指さす。


 「どれどれ・・・ああ、これな。こいつはスライム討伐だな。10体か。駄目だな」

 「なんでよ」

 「だって、こんなもん。お前らなら個人で終わるわ。あっという間に終わっちまうわ。お前ら、自分の実力、分かってんのか?」

 「知らんわ!」

 「ミーは馬鹿か。お前らはもう俺の予想では、Bランククラスに近い実力者だと思うぞ。だから、お前らがスライム10体を引き受けちまえば、辺りのスライムがいなくなっちまって、お前らのせいで他の人たちがクエスト完了できないだろ? むしろな、その人たちがスライムを探す方が大変になっちまうわ」

 「んだよ。だって討伐クエストって、これしかないじゃん。つまんね」


 ミヒャルはモンスターを狩りたかったらしい。

 口を尖らせていじけた。


 「・・・ルル、なんでもいい・・・眠い」

 「お前はそればっかだな。ったく、じゃあ、どれがいいかな」


 俺が探していると、レオンがやって来た。


 「こいつでいこう! 俺たちはこれだ!」


 張り出されたクエストで、レオンが取った依頼書は、Dランクのハイキング観光客の護衛である。

 都市マーハバルから北東に歩いて一時間の場所にあるミルフィー山。

 そこの山登りをするお客さんの護衛が依頼内容であった。


 「護衛任務か。確かにパーティーならそれがいいかもな」

 「だろ! じゃ、俺がクエストを引き受けてくるわ。みんな、カードくれ」

 

 こうして、俺たちの初の任務は決まったのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る