第7話魔力判定②

「エステラ……大丈夫か?」

「大丈夫。気にしなくても大丈夫よ」

「だが、そんな様子で大事な適性試験に臨むなど……」

「心配いらない。私は私のやるべきことをやるだけだし。行ってくるわね」




 エステラは小生を残して石板に歩み寄り――手をかざした。


 しばらく待つと石板がぼんやりと発光し――そこに現れた数字は「800」。


 おおっ、と周囲がどよめいたところを見れば、悪くはない数字なのであろう。




 だが一方のエステラは少し無念そうに俯き、そうするのが何かを堪える時の癖であるのか、下唇をきゅっと噛み締めてしまう。




 ふむ――やはりこの試験はよくない。


 こんなやり方では真の魔剣士など育つわけがない。


 これは小生が少し範を示してやらぬことには、同窓たちに落ちこぼれが増えてしまう。




「次、ええっと――クヨウ、クヨウ・ハチースカ君!」




 小生の名前が呼ばれ、小生は石板の前に立った。


 小生は二、三度、掌を握ったり締めたりを繰り返して、石板に手をかざした。




 明鏡止水めいきょうしすい身心脱落しんじんだつらく泰然自若不動心たいぜんじじゃくふどうしん――。


 小生はそれだけを念じ、静かに瞑目した。




 小生の中にある何かの炎がゆっくりと鎮火してゆくのを感じた、その瞬間。


 試験官の女性が短く悲鳴を上げるのが聞こえ、小生は目を開いた。




 石板に示されていた数字は「0」。


 小生の中に、魔力が一滴も「ない」事を示す数字だった。




「えっ、えええっ――!? すっ、すみません、不具合が発生したようですッ! ま、魔力がゼロだなんて……!」

「いやいや試験官殿、これで合っておる。この石板は正確だ、ある意味でな」

「だっ、だって! 魔力がゼロだなんて有り得ませんッ!!」




 試験官の女性はガタガタと震えた。


 その側で硬直しているエステラでさえ、まるで怪物を見ているかのような驚愕の表情で小生を見つめている。




「だっ、だって! だって魔力がゼロってことは、死体と一緒ってことですよ!? 生きるためのエネルギーが身体の中になんにもないってことに……!」

「それでも、測った結果ないというならないのであろう。小生は魔力ゼロで構わぬ。次がつかえます、小生は移動してよいかな?」

「いっ、いいわけありません! も、もう一度測り直して……!」

「よい。お手間を取らせることになるのでな。エステラ、戻ろう」

「えっ、ええ……!? あなたこれでいいの!? 史上最悪の落ちこぼれの数字よ!? い、いや、こんなの落ちこぼれどころの話じゃ――!」

「構わぬ構わぬ、後で実力で挽回すればよいだけだ。行こう」




 小生がそう促しても、エステラはまだ信じられないという表情だった。


 小生たちを見つめる周囲の視線が、さっきとは明らかに違う。


 魔力が「ゼロ」の小生は、彼らにとっては歩く死体と同義なのだろう。




 だが小生は生きている。呼吸もしている。


 本当に小生の中の魔力がゼロならば、もちろん有り得ないことである。


 魔力がゼロでありながら、生きており、立ち、歩き、呼吸をしている小生を、同窓たちはどのように解釈するのだろう。


 全く――数字だけに縛られるから、そういう愚かな錯覚を生むのである。




 いやはやこれはなんとまた、水準が低いものよ――。


 そんな落胆と呆れを同時に感じながら、小生は列に戻っていった。





次話は17:00に投稿します。



「面白かった」

「続きが気になる」

「いや面白いと思うよコレ」


そう思っていただけましたら、

何卒下の方の『★』でご供養ください。


よろしくお願いいたします。

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