第51話K 最終話

ソフィアはバーナードと共に領地の森の中の林道を散歩していた。

ロイヤルな乳母車にはレオが乗っている。


道のデコボコを感じながらガタゴト揺れる乳母車が気持ちよかったのか、レオはいつのまにか寝てしまっていた。


穢れを知らない純粋で無垢な存在。温かくて柔らかい私たちの天使。そしてこの子は無敵だ。


マシュマロのようなぷくぷくした手が、ブランケットをぐしゃっと掴んで離さない。


「綺麗な空気と澄んだ水に囲まれている。都会より良い環境だと思う」


バーナードは森の木々や花、流れる小川の水を見ながら優しく話しかけてくれた。


ソフィアはそうですねと相槌をうつ。



誰にもボルナットにいる事を言っていなかったので、まさかバーナードが自分を見つけるとは思っていなかった。



「外国にいて、自分で仕事をしているなんて思ってもみなかった。まさに盲点を突かれた感じだ」


邸から出て行った後、彼は必死にソフィアを捜していたようだった。


私が急に出て行った事を、バーナードは怒っているだろうと思っていたが、彼はとても穏やかに話をした。


「何も言わずに、逃げ出してしまって、ごめんなさい」


ソフィアは俯いた。




林道の先に白いサギが羽を休めている。

風に揺れる木々の隙間から、初夏らしく澄みわたる空が見える。


どこからか飛んできた天道虫が、レオのブランケットの隙間に入っていった。

裏側からまた表に出てきたかと思うと、ひょいと飛んでいった。


この場所で聞こえるのは、葉の揺れる音、風の音。


誰もいない場所でバーナードの声はソフィアの耳に低く 心地よくとどく。


「ソフィアが何を思っているのか、あの時、君が何を考えていたのか、あらゆる可能性を自分なりに考えた」


「……はい」


バーナードは立ち止まって横を向くと、少しかがんでソフィアをそっと抱きしめた。


「気づけず、すまなかった……」


ソフィアの目から涙が落ちる。





「私と、もう一度結婚してくれないか」


止めようと思っても次から次へと涙が溢れ出してしまった。


バーナードはずっとソフィアの背中を撫でながら。



「私の子供を産んでくれてありがとう」


そう呟いた。




初夏の暖かな日射しを受けて、レオは眩しそうに眉間にしわを寄せる。

遠くに浮かぶ白い雲が風に乗ってゆらゆらと微笑んでいた。







ーーーーーーーーーー完ーーーーーーーーー

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