第7話 しばらくの間


ミラは結婚した時に私の実家から連れてきた侍女だった。ずっと私と共に過ごしてきたから一番に私のことを考えてくれる。


「旦那様は朝から晩までお仕事ですね。奥様とゆっくり過ごすことなんて全くできないじゃないですか」


せっかく帰って来たのに屋敷にほとんどいないバーナードに対して、メイドのミラが愚痴をこぼしている。


「駄目よそんなこと言っちゃ。旦那様は寝る時間もないくらい働いてらっしゃるの。戦争の後処理はとても重要な仕事で、旦那様はハービス領の男性たちを率いた隊の長をされていたから、これも領地のお仕事のような物。私たちもできるだけバーナードの助けにならなくてはいけないわ」


私はミラを窘めた。いくら私付きのメイドだと言っても、屋敷の主人の悪口を受け入れるわけにはいかない。


「奥様が贅沢もせず、お洋服も着古したものをお召しになり、ご自分の手持ちの物を売ってしまわれた。まともな宝石一つも持っていないことに旦那様はお気づきでしょうか。もう少しご自分の妻のことを見て欲しいです」


確かに私を見ていらっしゃらない気はしているけど……


「旦那様は、まだ屋敷や領地の事にまで手が回らない。落ち着くまであと少しハービス領を頼んだとおっしゃったわ。いろいろ大変だけどあと少しの間頑張りましょう」


できるだけ明るく前向きな言葉をかけた。

バーナードは戦地から帰ってからも、軍の仕事で王都まで行かなければならない日が続いていた。合間を縫って私にもちゃんと声をかけてくれている。


「旦那様がいらっしゃらない二年間、領地を守ってきたのは奥様です。男手がない中、鍬をもって畑を耕したソフィア様のことをちゃんとわかってらっしゃったらいいんですけど」


もうミラの愚痴は止まりそうにないわねと、私はため息をつく。


「今度の戦争で、バーナードは活躍したでしょう。戦争などで貢献した者は陞爵されるわ。新しい領地も増えるでしょうし、報奨金も頂けます。だからこれからは沢山贅沢できるわ」


贅沢したいと思っていないけど、そう言っておくとミラも納得するだろう。


「きっと国から褒美が出たら、ドレスとか宝石とかたくさんプレゼントして下さいますね」


そうですよね!とミラは納得したようだった。





旦那様はスコット様の家族に会いに行き、名誉の戦死だったと伝えお悔やみ申し上げた。そしてマリリン達親子の話をしたようだ。


その日バーナード は夜遅くに帰って来た。かなり疲れた様子でそのままマリリンさんたちの様子を見に行った。

スコット様の実家の様子を彼女に伝えたのだろう。


旦那様は、就寝前に私に話してくれた。


「スコットの両親は、彼に子供がいる事は聞いていないし手紙もなかったことで、アーロンが孫であることは認められないと言った」


やはりそうだろうと思った。


「スコット様もお亡くなりになったばかりで、まだ気持ちの整理がついていらっしゃらないのでしょう」


「ああ。しばらくの間は、マリリンとアーロンの面倒を見る事になりそうだ」


旦那様は旧友の忘れ形見を無碍にはされないだろう。


しばらくとは、どれくらいの時間だろう。

そう思ったが、ただでさえ戦後の混乱の中、やらなければならない事が山積みの今、心労が絶えない旦那様にうるさく言う事は控えた方がいい。


私はお疲れさまでしたとだけ声をかけた。



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