第5話 領主の妻として 

バーナードは翌日、ゆっくりすることもできず、王都から派遣された軍の指揮官と共に、負傷した者の家族や戦没者たちの家を回った。

戦死者の家族のために国から十分な保証が与えられ、追悼式も行われることが決まったらしい。


屋敷の事にまで手が回らないだろうバーナードの代わりに、ソフィアも忙しく立ち回っていた。

マリリンさん達の事は、赤ちゃんに必要な洋服やおむつの手配をしたり、食事も栄養のあるものを準備して、気兼ねなく何でも言ってほしいと彼女に声をかけた。


マリリンさんは目に涙を浮かべながら、恐縮した様子でソフィアに礼を言った。

儚げな彼女の姿に、誰もが守ってあげなければと感じただろう。

長旅の疲れと乳児の世話で体調も良くないようにみえた。


ゆっくり静養できるよう、子供を産んだ経験のあるメイドを専用に付けた。けれど彼女は「自分の子供の面倒は自分で見ます」といったそうで、メイドの助言を受け入れないと聞かされた。




「産後は誰しも気が立つものですから、そっとしておいた方がよろしいかと思います」


子育て経験のあるメイドは私にそう言った。

私は子供を産んだことも育てた事もないので、その辺の事情はよく分からない。


「わかったわ。そうね……マリリンさんから何か頼まれたときだけ動く事にしましょう。お節介にならない程度に声をかけた方が良いかもしれないわね」


使用人達はソフィアをこの屋敷の女主人として受け入れてくれている。

この邸の為にとてもよく尽くしてくれていた。

旦那様と私の世話に加えて、マリリンさんと赤ちゃんが増えたにも関わらず、しっかり働いてくれるのでありがたいと思った。


ソフィアは領主の妻として毎日忙しかった。

執事のモーガンと領地の仕事をこなして、領地の様子にも目を配る。

職業斡旋の場を役場に設けて、戦地から帰ってきて職が無い者達の為の職さがしも手伝った。

どこも今人手不足だった。職業案内所ができれば、帰還兵たちの仕事はすぐに見つかるだろう。

バーナードがいなかった二年間、領主の妻として、領民たちを飢えさせることなく、しっかりと彼らの生活を守ることに全力を傾けた。

その重圧に押しつぶされそうになりながら必死に頑張った。


苦しい時期を共有した領民たちとの繋がりは強固なものになり、今やソフィアは領民に必要とされる大切な存在になっていた。


 

「バーナードが領地の仕事に完全に復帰するまで、まだ時間がかかるでしょう。もう少しの間苦労をかけるけれどよろしくお願いします」


執務室でソフィアはモーガンに頭を下げた。彼は先代から執事としてこの屋敷でずっと働いてくれている。

もう引退してもおかしくない年齢にもかかわらず、ソフィアを支え領地の仕事に携わってくれていた。


「奥様も旦那様と同じくらい。いやそれ以上働いてらっしゃいます。お体が大丈夫か心配です。私どもでできる事があれば任せてお休みください」



忙しいのはみんな一緒だ。モーガンの優しい気遣いに心が温まった。





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