旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます【※Ver.カクヨム】

おてんば松尾

第1話 プロローグ

「バーナード様、私と離婚してください」


ソフィアはテーブルの上に離婚届を置いた。

自らの分は記入済みだ。後は夫であるバーナードのサインがあれば、この離婚届は受理される。


「何を言ってるんだ!そんなことを話し合うつもりはない。何か勘違いしてるんじゃないか?」


バーナードは離婚届を前にして動揺した。彼の背中を冷たい汗が流れる。

まさかそんな話になるなんて思ってもみなかったようだった。


「いいえ旦那様、けして勘違いなどではありません。考えた末に出した結論です。私と離婚してください」


ソフィアは決してゆるがない姿勢できっぱり言い切った。



普段は冷静で動揺したところなど見せないバーナードが目を見開き、肩は小刻みに震えている。



「アーロンを養子にしたいと言ったからか?君が反対ならば養子をとるなんて言わない。それに、もしそういう事になっても今すぐにという話ではない!」


バーナードは、共に戦地で戦った親友の忘れ形見のアーロンを自分たち夫婦の養子に迎えたいと言ったのだ。

離婚という話が出るほど、ソフィアはアーロンのことが嫌だったのかとバーナードは驚いた。


「バーナード様はとてもお優しい方です。困っている方を見捨てることなんてできないでしょう。貴方はマリリンさんとアーロンをこの邸から追い出さないでしょう」


「それならなぜ離婚などと……ソフィア、俺は君と別れるつもりはない」


バーナードの困惑したような視線が向けられる。


言葉では愛を伝えてくれないが、バーナードが自分を愛しているのは分かっていた。

けれど、それならば何故、アーロンの母親であるマリリンをずっと側に置いておくのか。

同じ屋敷に住まわせて彼女を手放そうとしないのか。



バーナードが邸に戻って来てもう九カ月この状態は続いている。

ソフィアの気持ちは決まっていた。


「私個人の意見で、貴方の考えを変えることは難しいと思います。ですから私の方から身を引きます。私の事を少しでも考えて下さるのなら離婚してください」



ソフィアの冷静な声が二人だけの執務室の中に響いた。


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