「キルプの軍団」大江健三郎

 主人公が現実離れしていると批評がある本作ですが、私はそうは感じませんでした。本人の努力と環境があいまって生まれた結果だと思いました。

 努力というものは習慣になってしまえば難なく日常に溶け込みますが、他所から見ているぶんには、「とても真似できない」と感嘆の対象になるものです。


 本作は社会の一部を鋭く観察し、文字に起こした作品といえます。

 正しい日本語でまんべんなく埋められたページが美しく、ハラハラドキドキがあり、文庫本の厚みを感じさせないテクニックの結晶でした。


 背景描写の重要性、魅力的で「変わった」登場人物たちがストーリーに乗って、全体が一つのサーカス的な色合いで描かれています。


 「みにくい男の人魚のはなし」を書いている私が言うのもなんですが、私自身は自分の作品に、あまり「変わった」人物を起用したいとは思っていません。なぜなら社会は普通の人間が大多数だからです。

 人間全員の比率をそのまま物語に当てはめるならば、特殊能力を持って生まれる人間はずっと少なく、さらにそれが成人しても残っているケースというものは本当に稀有だと捉えているところがあるのです。

 社会の人間たちの能力の比率をそのまま反映させたいので、あえて特別な人間の無駄遣いは避けたいのです。


 しかし、です。類は友を呼ぶということわざの通り、天才たちの集まる場所というものは確かにあります。

 私はこの作品を読んで、人口比率から見れば珍しいタイプの人間たちに焦点を当てるやり方もありだと感じました。

 それも一つの、社会の在りようですよね?

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