「神曲【完全版】」ダンテ(河出書房新社)

「神曲【完全版】」ダンテ(河出書房新社) 


 基本的に、私は小説の中の挿絵はあまり好きではありません。でもこの作品の挿絵はデフォルメしすぎておらず、実写的な感じがして好感が持てました。こういう挿絵なら何枚あっても良いですね。

 ダンテさんが敬愛するウェルギリウス先輩と地獄経由で天国ツアーしながら、階層ごとに解説していくという一種の旅物語です。

 存命のうちにこんなに自信満々な本を出しちゃうあたり、ダンテはおちゃめで可愛いと思えます。それくらい、本書では自身のことを褒めちぎっていて、なんだか身悶えしました。しかし裏を返せば、そう言えるほど努力して、勉強してきた人ということでしょう。

 煉獄編では自身の性格の悪いところを反省するなどして、あまりのしおらしさにニヤニヤさせられる一面もありました。ウェルギリウス先輩に叱られてしゅんとするところも可愛いですよ。


 キリスト教の教義に触れるだけでなく、人物や悪魔、天使の描写、天国篇では輝かしい光の中にいる、まばゆい情景のつぶさな書き込みが素晴らしいです。

 本全体の構成が、地獄篇、煉獄篇、天国篇の三つのバランスがとれるように紙面が割かれているだけでなく、階層ごとにどれくらいのボリュームで書くかも計算済みという、まるで建築物のような一冊です。

 紙が貴重な時代に、これ、パソコンなしで書いたんですよね?とおばかな質問をしたくなります。


 全編を通して構成を考え、エピソードをバランス良く配置して執筆するアイディアはここからいただきました。「みにくい男の人魚のはなし」やそれ以前に文学賞に応募した作品ではそれが実現できておりませんが、来月(現在は2024年4月中旬)から取り組む内容にはぜひ反映させたい所存です。


 ちなみに神曲を高く評価したボッカッチョというおじさまがいて、その方は神曲リスペクトしつつ「デカメロン」という大作を書き上げています。こちらも読書の対象になりました。

 芋づる式に読みたい本が増えるから、どんなに時間があっても足りませんね。

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