第2話 240430火曜、エッセイ「ハグ記念日」の巻
前回のエピソードの続きになります。
母は小生の生活している重度障害者施設に、
月に一度1ヶ月分のお菓子や飲み物を届けてくれています。
先週の金曜はファミマのどん兵衛おにぎりや焼きそばUFOおにぎりを、
買ってきてもらいました。
母が施設に到着する10分ほど前に思いました。
来年になるか何年後になるかわからない、
母の家の桜のしたでの母とハグする機会を待っていたら、
それまでに万一母に何かあった場合、
ハグし損なうという可能性もあります。
じゃあ、このあと母が来てガラス戸を開けた際に、
〈ハグしようといえるだろうか〉
言いにくいなぁ……。
しかし、「思い立ったが吉日」といいます。
小生は今日を逃すまじ、と決心しました。
途端に気持ちがそわそわしてきましたが、
小生は覚悟を決めました。
部屋の外のベランダを足音が近づいてきました。
そして、ガラス戸が開きました。
「溶けてきてるから早く食べなさい」
そう言って母が、
アイスクリームのチョコモナカジャンボを小生に渡しました。
「じゃあ、行くね」と母が外へ出ようとします。
「お母さん!ハグしよう!」口を衝いてでました。
母は思いがけず「どうしたんや?」と言いました。
〈そんなんせんでええ、と母は言うのだろうか。〉
母はすぐに言いました。
「いいよ、ハグしよ」
小生は幼いころ、
母に「おんぶ」「抱っこ」を何度もしてもらいました。
でも、いわゆるハグというものをしたことは、
これまで一度も無かったのではないだろうか。
40年前には「ハグ」という言葉も日本語には無かった気がします。
「抱っこ」の変化形なのだろうか。
「よしよし」と母は言って、
小生の背中へと手をのばしてきます。
「生まれたときはあんなにちっちゃかったのに大きくなったなあ……」
と、母はいつになく優しい声になっています。
小生が母の背中へと腕を丸めます。
母の身体はぬくかった。
母の体温が冷たくなくてよかった。
小生はさらりと済ませるつもりだったというのに、
とめどもなく勝手に涙が溢れだしました。
小生はハグを力強く行うことは出来ませんでした。
〈母の身体を枯れ枝が折れるみたいに傷めてはならない〉
というより、
まだ、ひとかけらの気恥ずかしさが残っていたのかもしれません。
「お母さんはあんたより先に死ぬやろう。
何も遺してやれるものがない。
でもな、おまえが小さいときにいろんなところへ連れて行ってやった。
想い出をたくさんつくってやろうと思ってな」
母は続けて言いました。
「おまえは自分がすごく不幸と思ってるかもしれん。
でもこの世の中で働かなくてすんで、
こういう施設で生活出来てるのはありがたいことやでぇ。
いま施設もいっぱいいっぱいで、
入りたくても入れない障がい者が多いらしいんよ」
自分自身にバカ正直な小生は頷きませんでした。
というのは、小生は自分を不幸とは思っていません。
歩行はもとより胸より下を動かすことが出来ず、
動けなくなってからの14年でバットのように細くなった脚を見るたび心配になり、
施設のはるかに歳下の職員から見下したようなタメ口をきかれ、
生活に不快とか不便だなと感じることは多々あります。
でも、自分の人生を不幸だなと宣言したら、
その時点で自分に敗けなのだと思います。
小生は今生の栄光の王冠をあきらめはしないーー。
それにしても涙が止まらず嗚咽する小生……。
〈ここまでなるはずじゃなかったのに……〉
母がマスクの内側で鼻をすする音がします。
母の窪んだ目から涙が流れているのかは、
よくわかりませんでした。
母が帰ったあとーー。
鏡を覗くと小生の目ん玉は真っ赤に充血してましたが、
心の奥の深いところで積もるように溜まっていた膿を、
荒波が押し流したかのように、
台風の過ぎ去った翌朝の青天のように、
心は軽く爽快になっていました。
約40年間ほど母の身体に触れてませんでしたが、
初めてのハグとなりました。
続く。果てしなく続く……。
玉置浩二「コール」
Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/6VdF8SqmcVRYrfO2Vcg3JN?si=LwjuO7nmRTOIcj3qv4dKcw&context=spotify%3Aplaylist%3A37i9dQZF1DZ06evO3oc2wI
YouTubeで観る https://youtu.be/svUSQHE7Wy0?si=gswNjDSakxFNyEP7
いつもお読みくださり、
無限の無限のありがとうございまする☆
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では、ご氣元よう‼️
( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )੭⁾⁾
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