どうしてこうなった

 どうしてこうなったのか。

 何がどうなれば、親がラノベを書くなんてことが起こるのか。

 その経緯いきさつを、母の紹介も兼ねてザックリ書いていこうかな。




 私の母は、読書と執筆が趣味だ。

 家事の合間など、気が向いた時にネットで小説を読んだり、パソコンを使って小説を書いたりしている。そして、いつも作品が完成した時は私にそれを読ませてくれた。


 母の書く文章や世界観は私の好みにドストライクだったため、それを読む時間が私にとって至福の瞬間の1つだった。


 母の書く作品は短編が多く、少し純文学っぽいけど読みやすい文章、道徳的な世界観……例えるなら教科書の中に書かれている作品のような感じだった。


https://kakuyomu.jp/works/16817330662031727315

『みどりの花と銀の杖』

⇧母の処女作です。普段はこんな感じか、もう少し堅めな文章が多いです。


 ……でも、ある時。

 そんな母の作品に革命が起こることになる。





「娘〜、アンタってどんなジャンルの小説が好きなの?」


 ある日曜日の朝、コーヒー片手に母がそう訊いてきた。


「うーん、異世界ものかな」


「ふぅーん。なるほど、異世界ものかぁ……」


「? どうしたの、急に?」


「んー、次回作の参考にしようと思ってね」


「……参考?」


 それが、母がラノベに手を出す合図だなんて、その時の私はまだ知る由もなかった。




 その日の午後3時頃。

 パソコンで何かをカタカタと入力する母。多分、今日も小説を書いているんだろう。

 今回はどんな話なんだろう。楽しみだなぁ。


「娘〜、小説の第1話できたよ。読む?」


「おおっ、待ってましたーぁ! さてさて、今回の話はどんな感じかな〜♪」


 私はいつものようにパソコンに映される文章を読み始める。


 以下はその作品の書き出しだ。


※ 書き出しのみ掲載の許可を貰えました。



―――――


 繊細で器用そうな、それでもやっぱり男の人らしい大きな手。


 その手が、ドンっっ!と、結唯ゆいの背後の壁にたたきつけられる。

 それはもう、めり込みそうな勢いで。


 コンクリートの壁からミシ、という音がしたのは、気のせいだと思いたい。


 こ、これは…


 噂に聞く、アレ…?

 いやこんなの、ほんとに現実でやるヒトいるんか。


 彼の背後に、夜桜祭りのライトアップ電球が、いくつも揺らめく。

 ふっくらと満開の、夜風に群れ咲く桜を見あげ、笑いさざめく酔客たち。


 てゆうか、私、


 オタクで、地味顔で、出るとこは出てない、コミュ力底辺の、一眼レフカメラだけが唯一のお友達の私、


 …

 ……


 …このイケメンに、

 壁ドンされてるうぅぅぅ?!


―――――――



「……はえ??」


 どこかで見たような書き出し。

 どこか既視感のある主人公の説明文。


 なんか、ラノベっぽいぞ~?


 ……いやいや、そんなわけないじゃん!

 どうせ見間違いでしょ!


 そう首をぶんぶん降りながら、書き出しをもう一度読み直す。


 ……。

 …………。


 ……おおーっと?!

 見間違えじゃないっぽいぞ?!


「は、母上……こちらは、ラノベのようにお見え受けするのですが……?」


「ワタシもラノベ書いてみたんだ〜。ラブコメ系異世界ファンタジーなの」


「な、何故なにゆえそのチョイスなのですか、母上っ!?」


「前からラノベ執筆にも興味があっってさ〜。アンタが異世界もの好きだって言ってたから試しに書いてみたの」


「そんな理由!?」


 ……こうして、母はラノベを書きはじめたのだった。

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