第1話 朝の光と秘密の部屋

朝の冷たい空気が校舎の廊下を駆け抜ける中、佐藤昭一はいつものように校門前の落ち葉を掃き集めていた。子供たちが登校してくる時間が近づくにつれ、彼の顔には自然と優しい笑顔が広がる。彼の存在は、子供たちにとって安心感を与える灯台のようなものだった。


「おはよう、サトウさん!」

明るい声が飛び交う中、いつものようにランドセルを背負った子供たちが彼の周りに集まってきた。サトウさんは一人一人の顔を見ては、名前を呼び、元気よく挨拶を返した。


「今日も元気だね、ユウキ。絵の授業、楽しみにしているかい?」


「うん!サトウさんも見に来てね!」


彼の日常はこうした小さなやりとりに満ちていた。しかし、学校で過ごす時間が終わると、彼は別の顔を持つ男へと変わる。家に戻ると、彼はひっそりと扉を閉め、誰にも見せない部屋へと向かった。


その部屋は、彼の作るマネキンたちで溢れていた。壁一面には、彼が丹精込めて作り上げた様々な表情のマネキンが並んでいる。彼にとってこの部屋は、創造の空間であり、彼自身の心の隙間を埋める場所でもあった。


この日、彼は新しいマネキンの制作を始めた。そのマネキンは、ある生徒をモデルにしていた。彼はその子の明るさや元気さを表現したくて、特別な注意を払って目や口元を作り上げていった。作業を進める中で、彼は時折、窓の外を見やり、静かにため息をついた。


完成間近のその夜、彼はマネキンの目を最後に仕上げた。とその時、ふとマネキンが微かに首を傾げるのを見たような気がした。彼は驚き、手を止めたが、何も起こらず、ただの錯覚だったのかと思った。しかし、それは彼の日常に潜む予期せぬ物語の始まりの兆しだった。

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