ガラス

@rabbit090

第1話

 微妙に曇ってる、そして、どうしても晴れない。

 「なんか、無理だよ。それ、どうしようもないって。」

 「そんなこと言わないで、落とさなきゃ。意味がないじゃない。」

 「意味ないって、キレイにしても、また汚くするやつが出てくるんだ、なら、無駄な、徒労っていうか、いいじゃん!あたしが嫌なの、だからやめてよ。」

 「無理、無理だから。」

 あたし達の話はいつも平行線だった。姉妹なのに、相性が悪い、とは思っていた。

 家は、ついこの前に建てたものだった。死ぬほど働いて、二人で作った城。

 なのに、

 「誰…?」

 あたしは、その外壁を見てため息を吐くできてすぐに、嫌がらせが始まった。なぜ、こんな無駄なことに労を向けるのか分からないけれど、あたし達の父は、最悪な野郎だった。

 この小さな田舎町の中で、数多くの女が泣かされてきた。

 が、あたしと、妹からすればなぜ、あんなに信用できない男を、信じたのだろうかと、いぶかしむ。

 あいつは、変わらない、そして、絶対に変われない。

 「はあ…。」

 妹は懸命だけど、あたしはそうなれない。

 せっかく建てた家を、こんなにボロボロにされるいわれはない、本当に、なんなのよ。

 でも、ここから外に出ることはできない、それは、許されていないから。

 だからあたし達は死ぬまで、ここで生き続けていくのだろう。

 そう考えると、反吐が出そうで、ため息をついた。

 

 「信じてくれ。」

 「………。」

 あたしは、馬鹿だ。

 妹のことをあれだけ、無駄な労力を使う愚か者のように扱っていて、なお、恋に落ちたらしい。

 その男は、この田舎町の人間ではなかった。

 外部から来た、ビジネスマン、という奴だった。

 毎日スーツを着て、愛想よく営業をこなしている。こんな町にまで来てなにになるのかと思ったが、あたしが働いている場所に、彼はよく現れた。

 「逃げられる、訳ないじゃない。」

 「価値観が、おかしいんだ。世界は、広いんだってこと、本当は知ってるんだろ?」

 「それは…。」

 あたしは、黙っている。が、本当はよく知っている。

 あたしは、一度ここが嫌になり、外の世界へと逃げた。

 が、あたしの居場所は無かった。肩身の狭い思いをしながらも、ここに残ることの方が、最善だと知ってしまったのだ。

 しかし、それは本当なのだろうか。あたしは、常にそんなことを思っていた。

 「明日、荷物をまとめておいて。妹さんは、あとで連れ出そう。」

 「いやよ、一緒に行くわ。」

 「…分かった。」

 そして、あたしはそれを、妹に伝えた。

 妹は、ちょっと困った顔をしたが、このボロボロの家に住み続けることに嫌気がさしていたのか、了承してくれた。

 「じゃあ、行こう。」

 「うん。」

 「…でもさ、お姉ちゃん。その人、信用できるの?」

 「できると思う、そうね、最悪できなくても、あたしがあんたは守ってあげる。」

 「………。」

 口からは出まかせが出ている、それをよく分かっている。

 本当は1mmも疑ってなどいない、彼があたしを、裏切るはずがない。

 だって、あたしは彼のことが好きで、彼も、あたしのことが好きなはずだから。

 「どういうこと?」

 「………。」

 けど、間違っていた。

 町の人間と、彼は、グルだったのだ。

 この町の人間が、あたし達を閉じ込めるのには、理由がある。

 あたし達の父親は、この町の女性を散々困らせ、挙句の果てに、殺された。

 そうよ、殺されたのは、あたし達の父親なのに、なぜ。

 なぜ、どうして。

 なぜ、どうして?

 いい加減に、しろ!!

 しかし、言葉は出てこない。あたし達はまた、ここで沈んでいくのだろう。

 「ごめん。」

 あたしは、妹にそう伝えた。そして、妹はあたしの手を強く握っていた。

 「…ごめん。」

 そして、誰のものなのかは分からないが、弱弱しく小さな声で、そんな言葉が、こだましていた。

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