第42話 ブランデンブルクの魔術

ゴーレム達の拳が乱打される。

土煙が辺りに舞い、その音が村の方まで響いていた。


村人B「おい、なんだありゃ?何が起きてんだ?」

村人C「あれはマリア嬢のとこの家だぜ、最近物音もしなかったと思うが・・・」


物音に興味を示して村人達が寄ってくる。

奥まで歩いてはこないものの、何が起きているのか見ようと集まっていた。


アマギ「余波が届かないとも限らない。村に怪我人を出したくないんだが・・・」

ブライト「数が多いわ減らないわ、コイツらどっから出てきたんだ!」

シャルロッテ「・・・確かに変です。これだけのゴーレムがあると言うことは、その分の核が用意されているはず・・・それだけの数を隠す場所があったのでしょうか」


ゴーレムの核は、一体につき一つ。

これには例外は無い。

ゴーレムにとっての核というのは自身の情報を刻んだ記録装置というだけでなく、

それぞれ擬似的な生物としての“魂”の役割も担っている。

彼らに自我はないものの、自立稼働させる上で個々に魂を与えるのは、

ゴーレム術において基本中の基本であり、鉄則でもある。


アイリス「・・・アマギ、ちょっとこっちのゴーレムも見れる!?」

アマギ「ああ、何する気だ?」


彼女は、先ほど術式を解析していた時の違和感に加え、

ゴーレムの数にも不審を覚える。


アイリス「_“気配察知“を魔術で強化するわ。範囲はちょっと狭くなるけど・・・より精密に周囲の気配を探れる」


アマギ「・・・そうか、手早く頼む」


彼女は地面に魔法陣のようなものを描き、そこから発せられた光に身を包む。

しばらく意識を集中させた様子を見せた後、彼女は目を見開いた。


アイリス「_やっぱり、いた!アマギ!」


アイリス「100mほど南方、誰かいる!きっとソイツがゴーレムの術者よ!」


シャルロッテ「_!術者が・・・いたのですか!?」

アイリス「ええ!このゴーレム、自立稼働に見せかけておいて遠隔操縦よ!こんなに大量のゴーレムを一度に操れる術者がいるなんて・・・!」


ゴーレムは本来、人間の仕事を代行するロボットである。

状況に合わせて自律行動できてこそ、ゴーレムを扱う意味がある。


遠隔操作のゴーレムは、人間の力ではできない力仕事に利用もされるが、

ゴーレムの遠隔操作は難度が高い。

一人の術者では一体か二体が限度とされているのだが、

今回の場合術者は一人にも関わらず、十体以上のゴーレムが稼働している。


アイリス「・・・只者じゃない・・・!」

アマギ「その術者を倒せば、ゴーレムは止まるんだな?」

アイリス「ええ、急いで!私の予想だとこれは・・・!」


アイリスが何かを言い終わる前に、周囲で更に異変が起きる。


「(ボゴッ!!ボゴゴッ!!)」


音を立てながら地面から更に大量のゴーレムが現れた。

そして更に敷地の外、村の方の地面からも這い出てくる。


ライラ「む、村の方まで!?きゃぁ!?」


土か粘土で出来たようなゴーレムが現れ、村人はパニックに陥る。

そして土のゴーレムは今までのものとは違い、

アマギ達だけでなく村人達にも無差別に襲いかかっていた。


ブライト「させるかッ!!」


ブライトが村まで跳躍した。

空中で電力を充填し、槍斧の衝撃波でゴーレムを叩き潰す。


シャルロッテ「私達も村の方へいきましょう!アマギさんは術者を!」

アマギ「分かった!そっちは任せる!」


アマギは村とは逆方向へ、地形の起伏を乗り越えながら走り出す。

丘を一つ超え、窪みになった地形の底に、一人の男が立っていた。

その男は赤いボブカットの髪に、白衣のようなコートを着ていた。


アマギ「ゴーレムの術者だな。何者だ!」

赤い男「カール・ブランデンブルクと言えば分かるかい?アカミネ・アマギ」


アマギ「・・・!」


アマギ「(こっちを知っているのか。冒険者としてはまだ新人のはずだが・・・そして・・・カール・ブランデンブルクだと?この男が、シャルロッテが探していた“カール博士”・・・!?)」


カール「おいおい、そんなに怖い顔をしないでくれよ。俺は別に、君と敵対する気は無いんだ」


アマギ「どういう意味だ」


カールは睨むなと言いながら、睨みつけるような視線を向ける。

しかしその口元は笑っており、見つかったにも関わらず余裕の見える表情だった。


カール「君の噂は聞いているよ。竜を倒しあのブロンズの砦も崩壊させた。グリムの迷宮ラビリンスを破壊したのにも、君が関わっているらしいね?」

アマギ「・・・随分こっちに詳しいみたいだな。そういうお前は何だ」


カール「ああ・・・レジスタンスに所属しているんじゃないかとそういう噂が出ているのは知ってるよ。誰かがこの村を探しにくるであろうこともね。でも、まさか君に会えるとは」


そう言うと彼は少し嬉しそうに、

狂気の様相を含んだ笑顔でアマギにある提案をした。


カール「・・・俺の部下にならないかい?君も“山脈帝国”に加入するんだ。君の強さは本物だ、“上級”程度の扱いは受けているらしいが、こちらへ来れば幹部として受け入れるぞ?」


彼はアマギをスカウトした。

炎の剣士は彼の言葉を整理すると、臆することなく言葉を返す。


アマギ「やはりレジスタンスか。悪いが、その提案を受けることは無い」

カール「何も答えを急ぐ必要は無い。今の装備では拘束も難しいしな。それより、いいのか?ここにきた目的、忘れているんじゃないのかい?」


カールは依然として余裕の態度で煽るように語りかけると、

これ見よがしに一つの宝石を見せびらかす。


カール「君達を襲っているゴーレム、それを動かしている魔力源だ。あのゴーレム達は地脈と接続しているわけじゃない。この宝石を破壊すれば、俺からの操縦も届かなくなる。あの村を救いたければ、一刻の猶予も_」


アマギはカールが言葉を終えるより先に、最速で踏み込んで斬る。

狙ったのは宝石だけでなく、それを持つカールもろともに斬り伏せる。

しかし、彼の斬撃は宝石も、カールの体も傷つけなかった。


カール「まだ話している途中だと言うのに、せっかちなヤツだ。俺が何も用意せず、ただ生身でここにいるわけがないだろう?だが今の一撃は悪くなかった、ますます気に入った」


カールは横に浮遊するように跳躍し、近くにあった岩の上へと着地する。


アマギ「・・・防御結界」

カール「正解だ。あのオーガ達はいいヒントになったようだな?」

アマギ「あれもお前の仕業か」

カール「ああ、魔術で強化したオーガ三体と、それに付き従うよう調教したゴブリン120体。本来は村への侵入そのものを防ぐために配置したんだが、撃破されたから何事かと飛んできたってわけだ」


アマギ「”炎刃えんじん”!」


隙を見かねて再び切り込むアマギ。

アグレッシブな事この上無いが、彼の剣戟はまたもやカールに届かない。

空中に発生した“光の壁”により、炎の刃は容易く防がれてしまう。


カール「ふぅむ、やはりまだ防御結界は破れんか。魔法戦士として日が浅ければ、どうしても霊力現象には手が届かない物だね」

アマギ「”晴嵐せいらん”!」


移動したカールに再三攻撃を繰り出すも、やはり防がれる。

彼の発する防御結界は、以前戦ったオーガ達の物より強力だった。


カール「ほらどうした?もっとやれるんだろう?」

アマギ「くっ!」


斬撃を繰り返すも、カールの余裕は崩れない。

十、二十、三十回と、攻撃を繰り返すアマギ。

彼はカールに斬りかかりながら、彼の目的を考える。


アマギ「(攻撃を受けるばかりで、一向に反撃してこない。ここで待っていたのは、俺が来ると分かっていたのか?いや、可能性を考えればむしろ他の四人がくる確率の方が高い・・・だが俺が来るように仕向けていたとしたら・・・)」


アマギがカールに弄ばれる一方、村では混乱と悲鳴が渦巻いていた。


アイリス「こっち!まだゴーレムがいないから早く!」


アイリスは避難誘導をしながら弓矢でゴーレムを撃ち、

ブライトとシャルロッテが正面を引き受ける。

ライラは結界でゴーレムから村民を守りながら走り回っていた。


ブライト「村じゃなければこんな奴ら_」


纏めて潰せるのに、と言いかけて、潰したところで復活すると思い出すブライト。

彼らは現在、アマギが術者を倒すまでの間の時間稼ぎをしていた。


アイリス「_!右から来るわブライト!」

ブライト「おうよ!どりゃぁぁぁぁ!!」


アイリスが気配察知を用い、全体を把握しつつ指示を飛ばす。

ブライトとシャルロッテは、忙しく飛び回って村への被害を抑えるべく、

ゴーレム達を倒し、遠くへと吹き飛ばす。


しかし、ゴーレムは少しずつ数を増やしている。

とてもじゃないが抑えきれない。


アイリス「危ない!」

村の子供A「え?」


上から降ってきたゴーレムに、村の子供が一人踏み潰される_

それを予見したアイリスが、子供を抱えて跳躍し、辛うじて子供を救出した。

するとその先に、別のゴーレムが回り込んでいる。


ライラ「このゴーレム達、賢くなってませんか!?」

シャルロッテ「はい!先程解析しましたが、それぞれのゴーレムは意識にあたる“演算機能”を共有しています!」

アイリス「それを共有するゴーレムの数が増えれば、性能はどんどん上がって行く!厄介な事この上ないわ!」


そう言うとアイリスは、シャルロッテに目くばせした。


アイリス「_あなたが隠したいというのなら、私は無理は言わないわ。けど、潮時じゃないかしら」


シャルロッテ「私は・・・」


動きの止まる三人に、ブライトが更に口を挟む。


ブライト「おい!また増えたぞ、もう抑えられない、村人にも向かってる!できる事があるなら、早く_!」

シャルロッテ「・・・ええ、分かっています。少し、覚悟がいるだけ」


そう言うとシャルロッテは、槍を構え直し、笑顔でアイリスに言葉を返す。


シャルロッテ「大丈夫です、アイリスさん。私は隠したいわけではないの。でも、こうしていないと・・・私が辛かっただけ。でももう・・・」


ライラ「シャルロッテさん?何を・・・」


シャルロッテは魔力を放ち、それに呼応するように槍が輝き出す。


シャルロッテ「いい加減、受け入れないと_!」


ガラスが割れるような音と共に、槍が変化する。

取り付けられていた12本の針状の“何か”が剥がれ、そのまま周囲を回り始めた。


シャルロッテ「・・・神槍、第一拘束_解除。どうか、私の願いを・・・聞き入れてください」


彼女が空中に飛び上がる。同時に、黄金の色の光が辺りを包み込む。


ブライト「なんだ・・・!?これ・・・!?」

ライラ「あれって・・・でも何をする気なの・・・?」


アイリス「・・・私も初めて見るけどね、その効果は知っている。この状況には、うってつけの効果を」


シャルロッテの周囲に、複数の光の塊が現れる。

それは次第に人の形を取り、シャルロットによく似た姿の、

しかし明らかに別人の像に安定した。


シャルロッテ?A「_わーい!久々にこっち来れた!今度は何?何が起きたの?」

シャルロッテ?B「騒がないでください。見た所ゴーレムが溢れているようです」

シャルロッテ?C「やるよ、手早く片付けてしまおう」


シャルロッテ「・・・ええ。情報は今から“思念”を送ります。気をつけて」


現れた大量のシャルロッテ(によくにた誰か)は、

それぞれ飛行魔法で移動しながら各所に向かう。

完璧な連携により、未だ増加し続けているゴーレムを追い込んで行く。


ブライト「分身・・・なのか・・・!?」

ライラ「これなら・・・!」


アイリス達も加勢するも、シャルロッテ達(?)の連携には隙がない。

村人の避難場所の護衛に周り、ゴーレム達はシャルロッテに任せる事に。



一方アマギは、ペラペラと喋りながら勧誘してくるカールに対し、

未だ一度も有効打を出せていない。


アマギ「(もしこうやって俺の魔力を消耗させて、動けなくなったところを連れていく気なら、攻めるのは悪手だろうが・・・かといってコイツを倒さない事にはゴーレムは止まらない。どうすれば・・・)」


カール「レジスタンスも意外と忙しくてね、幹部に当たる人材がなかなか確保できないんだ。君を勧誘したのも、君のためというわけではない。だからこそ好待遇を保証すると言っているんだ。気に入らないなら要相談、というのも構わないが?」

アマギ「くどい!仲間を襲うような奴に聞く耳は無い!」


その一声に、カールはついに笑うのをやめ、

冷ややかな表情でアマギを見下ろす。


カール「_そうか」


アマギ「・・・!?」


アマギはカールの取った行動に驚き、攻撃の手が止まる。

彼は自らが持っていた、“ゴーレムの魔力限”である宝石を、

軽く握りつぶして粉々に砕いていた。


アマギ「・・・それはお前のゴーレムの動力じゃないのか、何故砕いた・・・?」

カール「なに、あまりに頑固なのでな?部下にならんと言うのなら、また日を改めて来るとしよう。君もこれで、俺に対する用は無くなっただろう?」


カールはそう言うと、アマギに背を向けて歩き出す。


アマギ「・・・待て!レジスタンスに所属しているなら、逃がすわけには行かない」

カール「ほーう?一発も食らわせられんくせに良く言う」


再びカールに斬りかかるアマギだったが、今度は当たる事もなく空を切る。

先ほどまで間違いなくそこにいた彼は、いつの間にか姿すら無くなっていた。


カールの声「・・・だが、その戦闘技術は誇ってもいいだろう。次会う時は、より成長している事を願っているよ。では、いずれ」


アマギ「く・・・待て!」


アマギは姿のない声に叫ぶも、カールの気配は無くなっていた。

彼がどこにいるのかは分からなかったものの、ゴーレムの術者は追い払い、

カールが現在レジスタンスの山脈帝国に属している事を突き止めた。

彼は今はそれで良しとし、元の道を辿って村へと走り出した。

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