第41話 ブランデンブルクの生家 [後編]
“旅立ちの刻が来る。天星に灯り無く、我らが父母は慈悲を無くした。其れは怨嗟でなし。悲嘆でなし。滅びを望み、滅ばさんと滅ぶもの。終わりは既に訪れた”
アマギ「・・・どういう意味だ・・・?」
その要領を得ない文章に、さしものアマギも頭を抱える。
他の四人も同様に、意味がわからない様子だった。
アイリス「まるで何かの予言ね。でも、何に関するものかしら?」
ライラ「この地、って行っていますから、この村のことでしょうか」
ブライト「_サッパリわからん。まぁ滅ぶ滅ぶって言ってるし、終末の予言か?」
シャルロッテ「うーん・・・?」
アマギ「これ以降のページには何もない。というか、予言って事は、ここに誰か来る事を前提に書いているな。でなければこんな場所に置いておく必要は無い」
彼はそう言うと、本のページを閉じる。
何かの情報にはなるかもしれないと、アイリスがポーチに本を詰め込んだ。
ライラ「まぁ、魔力は無いみたいですし、多分大丈夫でしょう・・・わ!?」
地下室が突然揺れ始める。
それは地震や、先程の家屋の構造が変化する時の揺れとは異なり、
地下室の壁面が変形していく事に起因していた。
アマギ「何か出てくる!構えろ!」
アイリス「何!?さっきまで気配は無かった!」
壁が凹凸を作り出し、人型に近い形を取る。
三体の石材でできたゴーレムが、抉れた壁から現れた。
ブライト「やっぱり、こういう罠はあるよな!」
アイリス「私達がここにいる間に起動したのね、最初は魔力を感じなかったわ」
ライラ「なんでいきなり_」
アマギ「本を取ったからかもしれないな。俺達がここの持ち主じゃ無いと気がついて出てきたんだろう」
狭く暗い地下室で戦うのはやりにくい、色々な物を壊すと考え、
彼らは一度地下室を出ようとするも、
階段への道はさらに別のゴーレムに塞がれていた。
シャルロッテ「・・・道のゴーレムは倒すとして、後ろの三体はどうしますか?」
アイリス「ソイツら結構強いわ!ゴーレムには自己修復の機能もある、前の一体に集中しましょう!」
ライラ「じゃあ、私が防御結界で後ろのゴーレムを押さえます、この狭い空間なら多分塞げるので!」
アマギ、ブライト、シャルロッテの三人で、道を塞いだゴーレムを睨む。
ライラとアイリスが背後のゴーレムを警戒し、
三人の戦いを邪魔しないように背中を守る。
アマギにとって未知の、ゴーレムという敵が現れた。
岩の体躯が動き出し、その両腕を振り下ろす。
動きこそ遅いものの、ハンマーのようなその攻撃に思わずアマギも退避する。
アマギ「(焔の耐久なら受けられるだろうが、気分的に刀で受け止めたく無いな)」
ブライト「オラァ!!」
シャルロッテ「やぁっ!!」
二人の攻撃が命中する。
狭く味方が近い場所のため、ブライトはマナ・スパークを発動できない。
しかし身体強化された腕力から繰り出される一撃は、
シャルロッテの攻撃と合わせて十分な破壊力を発揮した。
ゴーレムの体に損傷が現れ、動きが停止する。
だが次の瞬間、欠損した部位が粘土がこねられるように埋まっていく。
アマギ「・・・これが自己修復機能か!」
シャルロッテ「はい!ゴーレムは自らを形成している術式が停止するまで、その活動をやめません!」
みるみるうちに修復され、数秒で完全に元通りになるゴーレム。
再び石扉のような音を立てながら立ち上がり、アマギ達に襲いかかる。
シャルロッテ「っ!」
シャルロッテが盾で一撃を受ける。
正規軍でも採用される防御装備である。
流石の耐久性で岩の一撃を完全に受け止めた。
アマギはシャルロッテに殴りかかったゴーレムの腕を斬り付け、切断する。
切り落とされた腕は宙に浮き、
吸い付けられるようにして断面からピタリと接合する。
アマギ「じゃあ、どうすれば倒せるんだ?」
ブライト「確か術式を停止すればいいんだが、術を使ってる魔術師がいないとなると!」
シャルロッテ「はい!単純にゴーレムに攻撃を繰り返して、術式ごと破壊するしか!」
ゴーレムは魔術で組み上げられ、さらにその術式に従って行動する。
その術式には大きく2パターン。
一つ目は術者が遠隔で操縦するタイプ。
これは停止するために術者を倒す必要がある。
それができなければ、上で部屋の構造を強引に戻したように、
術式そのものをハッキングして止める必要がある。
二つ目は、術者を必要としない自動操縦タイプである。
これは条件を満たすとゴーレムが動き出し、
予め決められた行動パターンに従って自立稼働すると言う物だ。
シャルロッテ「このタイプのゴーレムは術者がいないので、魔力の供給源がありません。つまり内部電源で稼働している状態なので、戦い続けていればそのうち停止します」
アイリス「基本的にそうだけど、今回の場合は工房で作られたゴーレムよ!大地を流れる魔力を汲み上げて、半永久的に稼働するわ!」
シャルロッテ「・・・ああ、そうでした・・・!」
訂正を入れるアイリスと、失念していた様子のシャルロッテ。
“工房のゴーレムは永久稼働”というのは魔術を知るものの間では一般常識らしい。
そのためもう一つの方法で止めるしか無い。
アイリス「・・・術式を破壊するしか無いわね」
アマギ「術式を破壊?」
シャルロッテ「はい。自立型ゴーレムは、どこかに術式を記録している“核”があります。それを探して物理的に破壊できれば、ゴーレムは完全に停止します!」
もちろん先程ルーン魔術で彼女がやったような、
術式のハッキングでも止められる。
しかし流石に狭い地下室で戦っている最中に、そんな暇は無い。
ブライト「でも、身体中のどこに核があるかは設計した奴次第だ!壊して探さないと!」
アマギ「分かった、壊せばいいんだな?」
刀を構え直すアマギ。
ブライトとシャルロッテは、彼の気配の変化に気付いて少し下がる。
アマギ「普通の刀なら折れるわ刃毀れするわ、斬れたもんじゃ無いだろうが・・・あいにくコイツは妖刀だ。多少の無茶は許容できる・・・!」
そう言うとアマギは、旋風のような動きでゴーレムの全身を斬りつける。
アマギ「“
縦横無尽とも言える剣戟を瞬時に五連撃。
星形を描きゴーレムの四肢と首を切断する。
そのあまりに鮮やかな剣技に、後ろの二人は見惚れていたが_
アマギ「_“
即座に次の攻撃を放つアマギ。
流れる動作で様々な技を繰り出し、ゴーレムの体を細切れにして行く。
その様子は鮮やかを遥かに通り越してむしろ狂気的、あるいは猟奇的だった。
ブライト「・・・うわぁ・・・オレこんな奴に殴りかかってたのか・・・」
シャルロッテ「これほどの使い手は軍にもほとんどいません。私が今も軍属だったら、特殊部隊にスカウトしたかもしれませんね?」
背後からの称賛の声に少し照れながらも、アマギは気を緩めない。
アマギ「・・・結構斬ったが、核はどれだ?」
小石程度になったゴーレムの破片を眺めていると、再びゴーレムが再生を始めた。
ブライト「まだどっかにあるらしいな!」
シャルロッテ「いえ・・・これは・・・」
一方、彼ら三人の背後では、三体のゴーレムをライラの防御結界が拘束していた。
狭い部屋の隅へゴーレムを押しやり、展開した光の壁を押し付ける。
ライラ「大人しくしていてくださいね?それ、貴方達で壊せる強度ではないので!」
動こうとするゴーレム。だが鮨詰め状態で身じろぎ一つも身動きが取れていない。
その状態のゴーレムに対し、アイリスが呪文を唱えて術をかける。
アイリス「_解析してるけど、変ね・・・このゴーレム、体内に核が無いわ」
それを聞いたシャルロッテが反応する。
シャルロッテ「・・・やはりそうですか。何かがおかしいとは思いました。あれだけ細かく切り刻まれて、核が無事だなんて・・・」
これらのゴーレムには核が無い、それを聞いたアマギ達は、
とりあえず破砕した前方のゴーレムが再生に時間をかけている間に、
地下室を脱出することにした。
・・・
ライラ「核が無い、って。どういう事ですか?」
アイリス「そうね・・・術者がいないなら、必ず核はある。体内に無いとなれば・・・」
アマギ「・・・体外、周りのどこかにそれがある・・・とか?」
アイリスは頷く。近い場所、少なくともこの敷地のどこかには核がある。
ゴーレム達は狭い階段を登れずにいたが、
どうやら少しずつ変形して階段の狭さに適応しつつあった。
アイリス「早く核を潰さないと上まで来るわね。この様子だと五分ってとこかしら」
アマギ「・・・地中に埋められていたりすると探せないな」
ブライト「さっきやったみたいに、部屋の構造を変えて閉じ込められねぇか?」
ブライトはシャルロッテに、もう一度先程の術を使うように言う。
シャルロッテ「・・・おそらく意味はないでしょう。あの地下は術の範囲外、扉の位置が変わったとしてもこの階段は変わらず床下にあるので、多分床板を壊して出てきます」
ライラ「とにかく、探しましょう!」
アマギ「いや、ライラはさっきみたいに、地下室の通路を防御結界で塞いでくれ。もちろん可能ならだけど・・・」
ライラ「・・・わかりました!絶対通しません!」
アマギ「アイリスとシャルロッテは、ゴーレムの術式を解析して、可能ならハッキングしてくれるか?」
アイリス「・・・やってみるわ」
シャルロッテ「はい、ここからなら落ち着いて解析できます」
アマギ「ブライト、俺達二人で探す、隠しやすそうな場所を探してくれ」
ブライト「ああ!俺は上を探してくる!」
彼らはアマギの素早い指示のもと、手分けして事態に対応する。
しかしその少し後。術の解析を進めていたアイリスが違和感に気付く。
アイリス「何?このゴーレム・・・もしかして・・・」
シャルロッテ「どうかしましたか?アイリスさん」
同時に、核を探すアマギが予測スキルにより危険を察知する。
アマギ「_!まずい、全員建物の外に!」
ライラ「え_?」
突如として、建物が再び揺れ始める。先程構造を変えた時と似た揺れだったが、
明らかに建物だけでなく、その周囲の地形も揺れている。
アイリス「こっちに来て!」
アイリスが弓矢で壁を撃ち抜く。
どうやら術で強化され、通常より硬い様子だったが、
彼女の強弓には耐えられずに不思議な光と共に穴が開く。
ブライト「おい!なんだ何が起きてんだ!」
アマギ「倒壊する!早く!」
全員がアイリスの開けた穴から抜け出すと、直後に建物が崩壊した。
壁も天井も全て押し潰されるように消えると、更に別の“予測“が視界に映り込む。
アマギ「・・・構えろ。今度は多いぞ」
アマギの号令で皆が身構えると、倒壊した建物の素材が動き出す。
次第に形を変え、異なる物へと変わって行くその現象は、
先程地下室で見たのと同様のものだった。
シャルロッテ「ゴーレム!こんなに沢山・・・しかも」
アイリス「ええ、多分さっきのと同じ!体内に核が無いゴーレムよ!」
石材、木材、ガラス材と様々な素材のゴーレムが並ぶ。
数はおそらく20程度だが、“倒せない”という事実が問題である。
アマギ「こうなってくると、いよいよ核を見つけないと大変なことになる。村の方まで被害が出たら・・・」
ブライト「ああ!下手すりゃ死人が出ちまう!そっちまで行くか分かんねぇけど・・・!」
動き始めるゴーレム達。スルーズ村の最奥の場所。
倒壊した魔術師の生家の跡で、再び戦いが始まる。
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