第16話 破壊の銅山 [壱]

アイリス「アマギ!起きていたのね・・・」


ジンとアマギのやりとりの後、アイリスが部屋に入ってきた。

どうやら余程心配してくれていたようで、ホッと胸を撫で下ろしていた。


アマギ「ブライトは?」

アイリス「まだ外で見張ってる。それより、山賊達の居場所、分かったわ」


アイリスはそう言うと、徐に魔法の地図を取り出した。


アイリス「彼らがいるのはおそらくここ、南にある山の中腹。この辺りからさっきの大男の魔力を感じ取った」

アマギ「本当便利なスキルだな、気配察知って・・・」


彼は地図に示された周囲の地形から、襲撃のためのルートを考える。

彼らの拠点は崖にあった。

その東西に道があり、おそらくそれ以外の場所から侵入するのは難しい。


まるで砦のような防衛拠点。アマギの頭には、三つのプランが浮かんだ。


アマギ「一つに、正面から襲撃する事だ。さっき戦った限り、頭目の男は強いが他の連中は武器に頼っている。正面からでも十分制圧できると思う」

ブライト「でもそれは、連中の戦力があれで全てだとしたら、だな」

アイリス「アレが最大戦力だとしても、ここまで攻めにくい場所に拠点を置いてるとなると、防衛設備も充実してる可能性はある。正面からはあまり攻めたくないわ」


アマギ「・・・二つ目がこの山の斜面から侵入するルートだ。下側から登っていくか・・・」

ブライト「正気か?武器持って崖登るとか、できっこ無いだろ・・・」

アイリス「背負ったとしてもバランスを崩しやすい。そもそも、万が一気がつかれたら投石で落とされるし、侵入は現実的じゃなくなるわ」

アマギ「そうだな。そうなると崖の上から侵入する方が楽ではある。ただ・・・」

アイリス「ただ?」


アマギ「この上側の崖がどのくらい険しいかわからない。使えるならこのルートがいいが・・・使えない可能性も考えられる」

ブライト「となると・・・残りの一つが一番現実的かぁ・・・?」


三人は頭を抱える。確かに現実的ではある。ただし、危険度は他二つの非では無い。

彼らはしばらく話し合った後、結局残った三つ目・・・

奇策とも言えるアマギの作戦を進めるために、山で準備を始めるのだった。


数刻後。日没と同時に作戦を始める。

彼らは今朝方街を襲い、その時にアマギ達と戦って消耗している筈である。

その隙を突かない手は無い。


ブライト「さぁーて、うまくいきますように」


山道を進む。作戦を夜間に完遂するため、身体強化までして三人は駆ける。

しかし三人が急いでいる理由は、それだけではなかった。


アイリス「でも、本当にうまくいくんでしょうね?下手したら何もかもパァよ!」

アマギ「アイツらになんとかできないなら、俺達がやればいいさ!」

ブライト「だからって、あんな物使うとか、お前キレてるんじゃねぇか?」


・・・


山賊達の砦では、頭目と呼ばれていた男が一人の人物に頭を垂れていた。


頭目の男「報告の通り、献上金の調達は完了。これより部下がお届けに上がります」


大男の目前には、並の体格の男・・・その映像が空中に浮かんでいた。

ホログラムとも呼ばれるその技術は、明らかに山賊の砦の中で異質のものだった。


映像の男「よい。貴様らの働きを快く思う。しかし依然として、例の存在がどこにあるのか・・・その情報も掴めていないとはな」


頭目の男「・・・力を尽くしておりますが、どうしても足取りを掴めず」


映像の男「フン。まぁ気に揉む必要はない。その地域には既にない、という事かもしれんからな。しかし分かっていような?情報を得ていてなお、それを我らに黙っているのなら・・・貴様らの首、一つ残らず魔獣の餌にしてくれるぞ、ブロンズよ」


ブロンズ、とはこの頭目の大男のことだろう。

そう行った映像の男は、迷宮で出会った魔術師と同じ声、同じ顔の人物だった。


ブロンズ「承知しておりますグリム様。我らの活動はレジスタンスの援助あっての事。それを肝に銘じております」

グリム「貴様の言葉を、此度は信用するとしよう。ではな。追っての吉報を待つ」


そういうとグリムは通話を切った。


ブロンズ「・・・チッ!一々癪に触る!」

男A「頭目、例の魔剣ですが・・・」

ブロンズ「・・・なんだ、まだ制御できんのか」

男A「え、ええ。味方に斬りかかってしまうようで・・・もう無理なのでは」


ブロンズ「黙れ、他の者にも試させろ。あれを使えれば、我らはもっと強くなるのだ。グリムなんぞに頭を下げる必要も、もはや無くなる!」


そう言うとブロンズは、自らの持つ盾を見る。


ブロンズ「フン、盾なんぞ。俺が求めるのは絶対的な破壊力だ・・・!」

男B「は、はい!急いで・・・!なんとか制御させてみせますんで!」


部下達はブロンズの癇癪を恐れているようだった。

その魔剣とは、ジンが作り、封印を決めていた剣そのもの。

アマギがジンのために取り返そうとしている、呪いの武器そのものである。


_突然、砦に大きな地響きが起きた。


ブロンズ「何事だ!」

部下C「ま、魔獣です!大型の魔獣が、砦の東門に・・・!」

ブロンズ「なんだと!獣避けの結界はどうなってる!!」


砦には、結界が貼られていた。

魔獣が近づくのを防ぐ効果を持った物である。


部下C「わ、わかりません!俺にはなんとも・・・!」

ブロンズ「チッ!東門に戦力を集めろ!砦を守れ!」


ブロンズがそう命じ、その通りに山賊達が動き出す。

砦にはおおよそ50人の戦力がいた。

そのうち少なくとも30人が、東門を破ろうとする魔獣に釘付けになる。


ブライト「ここまでは、予定通りだな」

アマギ「ああ。魔獣を引き連れて東門へ急行。その後振り切って西門へ回り込む」

アイリス「魔獣から逃げるわ、崖を大急ぎで登るわ・・・これじゃこっちが疲労困憊じゃないかしら?」

ブライト「まったくだな」


そう言う割に、三人ともそれほど息は上がっていない。

魔力による身体強化が十分に働いている証拠だ。


アマギ「さて、ここからが問題だな」


彼らからは、砦の中の様子はわからない。砦には結界が張られていた。

グリムが迷宮で使用したものと同様、魔力を絶って気配を遮断する。


アイリス「獣避けは破ったけど、いくつもの結界が張られている。これ全部解除するのは時間がかかりすぎる」

アマギ「なら、向こうに敵が釘付けになっていることを祈ろう。突入するぞ。ブライト!」

ブライト「おうよ!」


彼はマナ・スパークを発動する。

迷宮の壁を破壊したように、砦の門に狙いをつける。


ブライト「”雷光槍斧ハルバート・サンダラー”!!」


雷鳴のような音を立て、砦の西門が消滅した。


ブロンズ「今度はなんだ!!」


それに山賊達が気づくのは当然。

しかし依然として暴れる東門の魔獣を放置することはできない。


アマギ「手薄だな、やはり。魔獣を陽動に使う作戦は、大成功みたいだ」


そう言いながら、遭遇した山賊を斬り、進む。

手に持っているのは妖刀”焔”。

アマギが以前から使っていた、ジンに預けていた妖刀。

命名したのはジンだが、彼はアマギの戦い方を知らなかった。

偶然にも火炎に因んだ名前になったのは、

彼がその刀から炎のような力強さを感じ取ったからだった。

・・・


ブライト「中に入れたら、三人に分かれて進もうぜ」


鍛冶場の会議で、ブライトは二人にそう言っていた。


アマギ「・・・何故だ?一緒にいた方が安全じゃないか?」

アイリス「そうよ、わざわざ別れる必要もないわ、そんなに広い砦でもないし」


別れようと言ったブライトには、そう言った明確な理由があった。


ブライト「まずよ、俺達は別に行動した方が、少なくとも対人戦では立ち回りやすいと思うんだ。特に俺は、魔力を解放するだけで周りに雷が起きちまう。近くで戦ってると、お前らまで巻き込んじまうんだ」


アマギ「・・・確かに、俺の炎もアイリスの”爆奏矢シェル・アロー”も、味方が近くにいる状態で使うと巻き添えになるリスクがある。相手が魔獣ならともかく、集団の人間なら、単独で行動した方が立ち回りやすいか・・・」


アイリス「私の矢は別に、爆発させなくてもなんとかなるわ。けどそうね、あんたの雷がこっちに飛んでくるのはごめんだわ」

ブライト「ははは!まあそういう事だ!」

・・・


そんなやりとりがあって、現在の彼らはそれぞれ一人で戦っている。


砦のあちこちで、火と雷と爆薬の光が上がり、

その度に施設は無慈悲に壊されていく。

さながら彼ら山賊達が壊してきた、街の建物と平和の代償を払わせるように。


ブロンズ「・・・東の魔獣は陽動、という事か。一体誰がこんなマネを・・・」


そういいつつも、この大男の脳裏には昼間吹き飛ばした剣士の姿が想起されていた。

まさか、ありえんと思いつつも。


ブロンズ「奴だとしたら何が狙いだ?復讐か・・・?それとも・・・」


彼ら三人の目的は、奪われた街の金品を取り返す事だった。

そのこと自体は、ブロンズも気が付いていた。しかし、彼は万が一を考える。


ブロンズ「まさかあの魔剣を狙っているのか・・・!?」


その可能性に思い至り、同時に激昂の感情を露わにする。


ブロンズ「させん、させんぞ!あれは俺の物だ!グリムにも、貴様らにも渡しはせん!!」


・・・


雷光の一撃が炸裂する。

槍斧の機能を用いずとも、対人戦でマナ・スパークは強力無比なスキルである。

触れれば感電、回避は困難。

稲妻を纏いながら周囲に放電し続けるだけで一方的に進撃できる。

敵に感電対策がない限りはだが。


ブライト「!」


彼が放った電撃の跡に、一人誰かが立っていた。

その人物は全身に鋼鉄の鎧を纏っていた。

頭部に至るまで隙間なく、完全に覆われていた。


ブライト「何者だ!」

鎧の男「・・・レジスタンス所属、山脈帝国よりの使者。名をロックという」

ブライト「レジスタンスの・・・!?何でここに・・・!?」


ソレはレジスタンスの刺客だった。

ブライトは予想の外を突かれ一瞬戸惑いつつも、

すぐさまロックと名乗ったその人物を睨みつける。


ロック「ここの山賊はレジスタンスの支援を受けて戦力を確保している。それを無駄遣いしていないか、今朝方監察官として派遣されたところだ。明朝戻る予定だったが、面白そうな連中が攻めてきたのでな」


ブライト「・・・(電撃が効いていなかった。あの鎧・・・金属なのに電気を通さないとは、何かの魔法で防御してやがるな・・・!)」


鎧の男が動き出す。ブライトは冷や汗を流していた。

雷が効かない敵は、彼の経験上初めてだった。


ロック「_行くぞ、雷の戦士。我が拳、どのように受け止める!」




場面は変わる。

アイリスは爆奏矢で注意を引き、

その隙に射抜くという戦法を繰り返していた。

そんな中彼女は、捕虜を収容するためにあるような区画を見つける。


アイリス「ここは・・・牢屋ね」


人のいない、空の牢屋が並んでいる。少なくとも百人は収容できるだろう。


アイリス「これはつまり、人身売買でもしているって事・・・?」


その光景から、アイリスはそう推測するに至った。

そして人がいないところを見ると、既にどこかに運ばれたのだろう。


そう思って進んでいると、

最後の牢屋に、一人の少女が閉じ込められているのを見つけた。


アイリス「・・・!貴女、大丈夫!?」


檻の中の少女が顔を上げる。

美しい銀色の髪と、冬空のように透き通った青い瞳をしていた。


銀色の少女「__誰?」


少女はアイリスを見て、怯えと希望の眼差しを向けながら言葉を発する。


アイリス「私は冒険者、この砦を制圧しに来たの。今_」


鍵を開けようとした彼女は、牢屋に結界が張られている事に気づく。


アイリス「(何?この結界・・・外のとは違う・・・)」


彼女は結界の解除を試みる。しかし、うまくいかない。

まるで鍵以外の方法では絶対に開かない、という概念が表出したような強度。

しかし牢屋の前で手間取っていると、上の階層から大きな音が聞こえてきた。

雷が轟くような、あるいは崖が大きく崩落したような音が。


アイリス「何!?今の、ブライトでもアマギでもない!__一体上で何が・・・!?」




時は少し巻き戻り、場所は砦の中心部。

ブロンズがグリムと通話していた広い空間。

最速で内部を駆け抜け、その部屋に辿り着いたアマギと_


ブロンズ「__やはり、貴様か」


不機嫌そうに玉座に座る、巨体の男が対面していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る