第15話 蛮勇
アイリス「アイツら・・・ただの蛮族じゃなさそうね。強い魔力を感じる」
ブライト「ああ。全員、中級以上の冒険者くらいの実力はあるぜ」
アマギ「おまけに数が多いな。見えているので全てか?」
仲間らしく情報を共有する。当然、山賊達に聞こえないよう小声で。
宿の主「おいやめとけ!ソイツら普通じゃねぇんだ、並の冒険者じゃ歯がたたねぇぞ!」
逃げていく宿の主、彼だけでなく街の住人は散り散りに逃げていく。
それを追いかけようとする山賊達。最初に動いたのはアイリスだった。
アイリス「待て!」
矢を放つ。
男はアイリスの矢を躱し、住人は辛うじて逃げおおせた。
男A「てんめぇ・・・邪魔しようってのかぁ?」
男B「俺たちをナメてやがるな、頭目、まずアイツらからやりましょうや」
するとトラックとも、馬車の荷車ともつかない車から、一人の大男が姿を表した。
頭目の男「ああ、邪魔者は皆殺しだ」
頭目と呼ばれた男の言葉で、山賊達が一斉に構える。
こちらを完全に敵と見做していた。
アマギ「__お前達は何だ、なぜ街を襲う!」
男C「ああ!?賊が街を襲うのに理由があんのかぁ!?」
ごもっともである。
後方に居た、クロスボウの男がアマギに射掛ける。
アマギはそれを斬り落とそうと考え、自分が現在丸腰であることを思い出した。
アマギ「・・・あ、まだジンの爺さんに返してもらって無い・・・!」
これから取り返しに行こうとしていたところに、この山賊達の襲撃。
間が悪いとしか言いようがない。放たれた矢を反射で回避したアマギは、
武器を確保しようと、一番近くにいた剣を持った山賊に襲いかかる。
男A「ふん!丸腰で何ができる!」
駆け寄ったアマギに、バックステップからの斬り付けを試みる。
男の発言は当然のものだった。
武器を持った手練に対し、素手で向かって行くなど危険極まりない。
ただしそれは、武器を持っている方が、
持っていない方に対して同等以上の実力者である場合に限る。
男A「__!?」
アマギは剣の柄に手の甲をあて、振り下ろされる刃を止める。
直後、そのまま手首をつかんで捻り、取りこぼされた剣を落ちるより先に拾う。
男A「こいつ__強ぇぞ!」
男がそう言うが早いか、そばにいた別の男が斧でアマギを斬りつける。
アマギは拾ったばかりの剣で防ごうとして__
ブライト「オラァさせねぇぞ!!」
ブライトの横槍で斧の男が吹き飛ばされるのを見た。
アマギ「なんだそのタックル・・・!?」
アマギを持ってして、驚嘆する速度の突撃だった。
そして直後、二人の頭上を三本の矢が飛び去る。アイリスの射撃だ。
彼女が狙ったのは、頭目と呼ばれた男。
トップを討ち取れば瓦解する__という思惑の元の狙撃だった。しかし。
頭目の男「他愛無い」
男が車内から、大きな盾を引き摺り出し、アイリスの爆発する矢を完全に防御した。
アイリス「__あの盾は!?」
ブライト「なんだ、盾がどうした?」
気を取られたアイリスに、クロスボウの男が二度目の攻撃を試みる。
寸前で躱した彼女だが、着地した先には別の男が構えていた。
男D「__死ね!」
槍による刺突だった。巧妙な連携に、アイリスは目を見開く。
アイリス「(なるほど、確かにやるわね・・・!)」
彼女は刺突が急所に入らないよう、反射的に受け身を取る。
しかし、槍が到達する事はなかった。
アマギ「(マナ・フレア!)」
槍の男に炎が襲いかかる。
アイリスに集中していた男は、高温の一撃をまともにくらった。
男D「ギャ!!?」
そのまま剣を振る。山賊達をまとめて焼き払うつもりで、容赦なく炎を広げる。
しかしまたもや、頭目と呼ばれた男の盾がこれを阻む。
完全には防げていなかったものの、焼かれた山賊は三人にとどまった。
頭目の男「フン、チンケな炎だ。街への被害を気にしているな?」
頭目と呼ばれた男は、さすがは頭目だけあって、
アマギの、そしてブライトとアイリスの心も見抜いた。
この三人は人間の到達点とも言える破壊力を持つ冒険者だった。
しかしその場所が街になると、途端に力を発揮できなくなる。
彼らは破壊を好む山賊達とは異なり、街とそこに住まう住人を守る戦士だった。
街に被害が出るほどの威力の攻撃は、この場所で繰り出すわけにはいかなかった。
残りの山賊達がジリジリと詰め寄る。
頭目の男が盾を構え、未知の防御をアマギ達に向けていた。
アイリス「やっぱり、その盾・・・」
頭目の男「ああ。どうやらこれを知っているらしいな」
ブライト「なんなんだあの防御は、覆えていない範囲まで火炎を防いでいたぞ」
男の持つ盾は、明らかに男の体より小さかった。
そして後ろの山賊達をカバーできるようには見えなかった。
アイリス「あれはいわゆる魔法の盾、それもそこらの武器屋で売っている物とは格が違う、王立軍で公式採用される程の防御魔法を内包した、“光鉄の盾”よ!」
ブライト「光鉄の盾!?王立軍の・・・!?」
驚くブライト。
そしてアマギは既に、街の資料館でこの“光鉄の盾”についての知識を得ていた。
アマギ「光鉄の盾・・・錬金術により特殊な鋼で作られた魔法の盾か」
男A「ああそうさ!以前軍の部隊と出会した時、俺たちが強奪したんだ!」
男B「お前らの攻撃なんて、この盾の前では無力!大人しくそのまま射抜かれな!」
そういうと後方から、再び矢が放たれる。今度は十本以上、同時に飛来する。
アイリス「っ!」
跳躍して躱すアイリス、物陰に退避するブライト。そして__
アマギ「甘い!」
軌道を見切り、避けると同時に踏み込むアマギ。剣を握り、再び炎を纏う。
狙うは頭目、彼の持つ盾。これさえなんとかできれば、彼らは恐るるに足りない。
アマギ「”
突きの動作による斬撃、そこに炎を織り交ぜる。衝突の衝撃と、火炎による火力。
頭目の大男は、あまりの衝撃によろけ・・・しかし一歩下がった程度で立て直した。
アマギ「・・・!」
頭目の男「無駄だと、言っただろう・・・!」
彼は笑うと、男は魔力を腕に集める。盾によるバッシュがアマギに直撃した。
剣と腕でガードし、受け身を取ったにも関わらず、
ほとんど動かなかった大男とは対照的に、10m以上飛ばされた。
アマギ「が_!?」
後頭部を壁に強打した。アマギは意識が遠のいていくのを感じた。
アイリス「アマギ!この!!」
アイリスが矢を放つ。狙ったのは人ではない。
空中で炸裂した矢から、急速に霧が広がっていく。
頭目の男「煙幕か・・・!」
その隙にブライトは気絶したアマギを抱え、アイリスと共に一度離脱する事にした。
・・・
しばらく経って、日が傾いた頃。アマギは見知らぬ部屋で目を覚ました。
シュウ「気がつきましたか?アマギさん」
布団の横にはシュウがいた。どうやらここはジンの鍛冶場で、
あの後ここに運び込まれたと理解するのに、そう時間はかからなかった。
アマギ「・・・二人は?」
シュウ「外にいます。また山賊が来るかもしれないからって、見張りを」
アマギ「そうか・・・いてて」
まだ後頭部は少し痛いが、治療の魔法でもかけられたのか、
ほとんど外傷は無いようだった。
アマギ「その山賊達は、どうなった?」
街が無事か、アマギは心配する。
シュウ「・・・近くの店から金品を盗み出した後、南側の山に帰って行きました」
アマギ「・・・そうか。守れなかったんだな」
悔しい気持ちをやり過ごし、シュウが運んできた食事を食べる。
アマギ「そういえば、ジンの爺さんは?」
アマギはふと、今朝方この鍛冶場に用があったことを思い出す。
ジン「ここにいるよ。ったく若ぇもんが無茶しやがる」
廊下から声が聞こえる。どうやらアマギが起きたのを話し声で察して来たようだ。
ジン「よう、昨日ぶりだな」
アマギ「ええ・・・あの」
ジン「お前さんの用件は分かっとる。この刀だろ?」
そう言うジンの手には、アマギが預けた妖刀があった。
アマギ「話が早いですね・・・それ、一度返していただけますか」
そう言うとアマギは、近くに置いてあった超空間ポーチから、
シュウに押し付けられた貨幣の袋を取り出した。
ジン「・・・ああ、ソイツは結構。どうせ老い先短いもんでな。返さなくていい」
アマギ「しかし、こんなに沢山いただけません」
ジン「・・・なら、一つ頼まれてくれないか」
そう言うとジンは、気絶する前のアマギが持っていた、盗賊の剣を取り出した。
既に折れていた。それどころか、炎刃の熱によるものか、所々が溶けていた。
ジン「奴らの使っている武器は、街や軍、冒険者から奪った物だ。その中から、取り返して欲しい物がある」
アマギ「それは・・・?」
ジン「一振りの剣だ。俺が妖刀を作るって話はしただろう?ありゃ半分間違いでな。俺は魔法の力を宿した剣を作るんだ。その中には、本当に他人に危害を加えるしかできねぇ、危険な剣もあった。それを取り戻してほしい」
ジンの真剣な表情に、思わず息を飲む。
目の前の老人は、その年からは考えられない逞しい体を、アマギの前で二つに折る。
ジン「頼む。あれは世に放っちゃいけねぇ武器だ。奴らが危険なのは分かってる。何も今すぐにとは言わねぇ。でもあの剣だけは、俺の手で責任持って処分してぇ」
深く礼をしたジンに、アマギは立ち上がり肩を叩く。
アマギ「・・・わかりました。その魔剣は、俺が必ず取り戻します」
ジン「・・・本当か!」
ダメ元だったのか、本気だったのか。
アマギの返答に、ジンは思わず驚いた。
それを見てアマギは、一瞬笑って、宥めるように続けた。
アマギ「・・・その刀、返してくれたらね」
老人は少し面食らい、彼に妖刀を返却した。
これにて、クエスト外の依頼の受注は完了した。
次の仕事は山賊退治、奪われた魔剣の奪還である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます