トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件
@arugley
みみと楓
下手くそな口笛を吹き、鏡に映る自分を見てにこりと笑い、おぼつかない手で髪を結う。力加減がわからず力んでる姿を見て通りがかった姉がくすりと笑う。
「お姉ちゃんお姉ちゃんします」
しょうがないなと綺麗に髪を結ってくれる。
私の名前は、安藤みみ。都内の高校に通う高校二年生。アッシュブラウンの二つ結びのフィッシュボーン。姉に怒られつつも、引っ込み思案だった自分を変えたくてちょっと髪を染めて高校デビューをした普通の女子高生。年頃ということもあり、好きな男の子が居る。
彼は夏野楓。同じ高校に通う一つ上の先輩。
良く噂ではかっこいいけど何処かミステリアスだとか、フェロモンが凄いとかそんなことを聞いていた。
私自身が彼を好きになったきっかけは、勉強が出来ず母親に近くにある集団塾に入れられたことだった。
そこの塾は少し変わっていて、一,二年生の総復習として三年生が一年生に教える時間が一コマあるのだ。
相手に説明することにより、理解力をより高める為の物らしい。
「初めまして、夏野です。よろしく」
隣に座り、苦手な数学のテキストを机の私と彼の丁度真ん中に広げる。
「初めまして、安藤みみです。数学壊滅的なのですが、よろしくお願いします」
ふと横顔を見ると、夏野さんは黒髪と大きい二重に鼻筋が通っていて肌はあまり焼けておらず白い。
「三年だから部活より勉強優先してたら肌が白くなったんだよね」
と聞く前に言われたことは良く覚えている。他の女の子たちにもそう言われたのだろうかと後々思った。
あの時間があったからこそ、今こうして先輩を好きになる事が出来たのだ。母に感謝しなくては。
「安藤ちゃん、また来たの?次は何処が分からないの」
と数学の教科書を持ってきた私に、笑いながら楓先輩は言う。
先輩の落とし方がわかりません!なんて言えないし、数学も分からないが、実質先輩に近付けるのはこの手段しかみみには無いのである。
「えっと、ここです!そして、楓先輩良かったら今日一緒に帰りませんか」
数学の教科書を握る手に力が入る。
「んー、どーしよっかな。この問題を教えて一回で解けたら良いよ」
と手を出して来たので、教科書を渡す。
「分かりました!」
そう来ると思ったのよ、事前に昨日練習問題解きまくってて良かった。心の中でガッツポーズをする。
「何ニヤニヤしてんの、ちゃんと聞く気無いなら帰ってもらうよ」
と言いつつも教室から廊下に出てきて、私の横に来て問題を教えてくれる。こうゆう所が本当に好き。
「みみって名前なのに、聞く気は無いの」
とキュンキュンしてる私に先輩は言う。
「その耳じゃないですよ、この名前はお母さんの美月とお父さんの湊から同じみが共通してるからみみになったんですよ!」
とついどうでもいい名前の由来を、話してしまった。
「そうなんだ。安藤ちゃんの家は、仲良さそうだね。なんか想像がつくよ」
と楓先輩は答えてくれた。
「仲良いですよ、今度私の家に遊びに来ませんか?」
先輩の左腕を思わず掴む。
「そんなことより、早く問題解けるようになりたいでしょ。ちゃんと聞きなよ」
腕を掴まれてるのなんか全然気にしてない。私を恋愛対象に見てないのかな。
それとも、やっぱりかっこいいから慣れてるとか。
嫌だな、こんな時に胸があったら漫画みたいにアピール出来たのになんてモヤモヤ考えてしまう。
だが、折角掴めたこの腕を離すことは考えられない。先輩は真摯に教えてくれてるのに私の頭の中はそんな思考がぐるぐる回っていた。
「はい、これ解いて」
渡された教科書と同時にスルッと離された手が物寂しい。あっ、先輩ちょっと目の下にクマがある。やっぱり、受験生は大変なんだ。
「絶対解きますよ!」
ポケットからシャーペンを出して早速問題に取り掛かる。やっぱり、昨日やったからなんだかずるい感じがするけどごめんね。楓先輩と一緒に帰りたいんです。
そして、あわよくば、どこかに寄り道して2人でデートしてる気分を味わいたい。
「それにしても、安藤ちゃんは俺にばっか聞きに来るよね。友達とかには聞かないの?」
痛いところを突かれた。友達が居ない訳では無い。寧ろ普通の人より多いかもしれない。
でもそれが、ばれるわけにはいかない。
「実は、同じクラスの男の子が教えてくれるってなったんですけど、いかにも教えてやるって感じで嫌だったんです」
あっ、これは言ってよかったのかな。こうゆうふうに私は一度焦るとボロが出るタイプだ。でも、同じクラスのその男の子は数学ができるとは決して言えないのだ。
「そうなんだ。問題は、出来た?」
と顔色一つ変えない先輩。特に気にしてなさそう。
「出来ました!」
見よ、昨晩の私の努力の結晶を。これで先輩と一緒に帰れる。なんて幸せなの。全世界に向かって愛を叫びたい気分。
「出来てるじゃん、実はさっき言ってた子に教えて貰ってたりして」
と疑うように私を見る。
「違いますよ!昨日、ほぼ寝ずに頑張ったんです!先輩、そんなことより一緒に帰ってくださいね」
この事は隠しときたかったのに、私の口からは全て出てしまっていた。はいはいと手を振りながら教室に入る先輩。
上手くいったわ、安藤みみ。少し手に汗握りつつも私の物語がここから始まるのね。なんて素晴らしい気分と期待しながら喜んだ。
「先輩、教えてくれてありがとうございます!また、後で」
その後ルンルンと浮かれた気分で教室に帰ったのを、今でも覚えてる。
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