第19話 魔物使いの試練②

 会場にはたくさんの探索者が集まっていた。


 中にはどこからどう見てもLv10以上って感じの人もいて、私はついつい威圧されてしまう。


 体中傷だらけだったり、全身の筋肉が尋常じゃないくらいに膨れ上がっていたり、眼帯をつけていたり、鋭いオーラを放っていたり……。


 とてもじゃないけどLv10には見えない。


 そんな私の不安を察したのか、スキンヘッドのお兄さんが注釈してくれた。


「彼らは既に職持ちですよ。今日の目的は上級へのランクアップでしょうね」

「なるほど。上級職へのランクアップも同じ会場なんですね」


 例えば戦士なら上級職は騎士、さらにその上位は聖騎士パラディンとなっているよ。


 私の場合だと、魔物使い→魔物飼いテイマー魔物の支配者ルーラーって感じだね。


「そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。当たり前ですが、下級と上級とでは試練の内容も異なりますしね」

「そ、そうですよね、へへへ……」


 そんなふうに話していると、サングラスのお兄さんが一枚の書類とペンを手渡してきた。


 名前、性別、住所、電話番号、勤務先、勤務先の電話番号、希望する職業。

 

 私はそれぞれに記入して、書類を提出した。


「希望する職業は魔物使い……間違いありませんね?」

「はっ、はい! 間違いないです」

「畏まりました。では、こちらへ」


 私はスキンヘッドのお兄さんに見送られながら、グラサンのお兄さんの後を追った。


 そうして案内されたのは、体育館くらいの大きさの部屋だった。


 私の他にも10人くらいの探索者の姿があって、部屋に入るなり視線を向けられたものだからドキッとしちゃう。


「ナンバー11、それが天海様の番号になります。試練開始までは20分ほどありますので、それまでは決してトラブル等を起こさぬようにお願いします。もし何かしらの騒ぎが生じた場合、当事者には有無を言わさず退場・・して頂きます。良いですね?」

「ふゃいっ、わ、分かりました!」


 トラブルを起こしたら即退場かぁ。

 ってことは、一人で黙ってるのが一番良さそうだね。


 面倒事に巻き込まれでもしたら最悪だし……。



 私は隅っこのほうで縮こまりながら、時間が経つのを待っていた。


 そんなふうにぼーっとしていると。


「なんだと、やんのかテメェッ!!」

「やれやれ、嫌になっちゃうよ。知ってるかい? すぐに怒鳴るヤツってのはね、感情を抑制できないガキと同じなんだぜ?」

「なにっ、こ、この野郎!」


 突然に大声が響き渡って、私の意識は現実に引き戻された。


「び、びっくりしたぁ」


 な、なんなんだろう?

 なんか、青髪の探索者と金髪の探索者が喧嘩しているけれど……。


 青髪の探索者は悔しそうに両手をグーにして、目尻には涙を浮かべている。対する金髪の探索者は、高飛車な身振りで青髪の探索者を挑発している。


 私はチラリと視線を向けてから、無視することに決めた。


 きっとあの二人は退場処分になっちゃうんだろうね。


 だったら、関わらないに越したことはないよ。


「はははっ、やっぱり感情的なヤツだ。そういうヤツに限ってバカみたいにモンスターに感情移入するんだよね。キミ、モンスターが傷ついたら「大丈夫か!?」とか言っちゃうタイプだろ?」

「それの何が悪い。モンスターは大事な仲間だ! 傷つけられたら心配になるのは当たり前だろ!?」

「やっぱりね。断言するけど、そんなんじゃ立派なテイマーにはなれないぜ? しょうがないから僕が特別にアドバイスしてあげよう。モンスターなんてのはね、所詮はただの道具なのさ」


 その言葉に私の眉間がピクリと疼いた。

 正直言って、かなりムカっと来たよ。

 でもここは我慢。

 退場させられたら元も子もないからね。


「モンスターが道具? テメェ、本気で言ってんのか!?」

「ああ、もちろん。僕はジョークが苦手でねぇ。口を突いて出る言葉は全て真実さ。あえてもう一度言おう。モンスターはただの道具でしかなく、それ以上でも以下でもない。ハッキリ言って、モンスターを道具だと割り切れないような甘ちゃんに、テイマーが務まるとは思えないね。僕から言わせれば、キミみたいなヤツに試練を受ける資格はない! 仮に受けたとしても無様に失格するのがオチだろうし、そうなるくらいなら、自分の意志で退場したほうがまだマシなんじゃないかい?」


 だぁんっ!!


「え?」

「はぇっ?」


 関わらないようにしよう。

 聞かないようにしよう。


 そう思ったのに、無視しようとすればするほど二人のやり取りが鮮明に聞こえてきて……。


 気が付いた時には、私は怒りに任せて地面を殴っていた。


「ちょっと、そこの金髪! 君の発言はさっきから無礼だよ!!」

「おいおい、キミはなんなんだね?」

「私が何かなんてどうでもいいよ! そんなことより、この人に謝って!!」


 私は青髪の探索者を指し示す。

 

 すると金髪の探索者は眉をひそめて、呆れたように噴き出した。


「はははっ、謝る義理なんてどこにもないね! 僕は正論しか言ってないもの」


 ぐぐぐ、この金色頭、ムカつくぅ~~!

 今すぐにでも殴り倒してやりたい気分だよっ!


「どこが正論なのさ! モンスターが道具だの、感情的な奴には資格がないだの、自分で退場しろだの――全部メチャクチャじゃない!!」

「私も、そう思うな」


 すると、意外なことに援護が飛んできた。


 頭にリボンを付けた黒髪の少女がこちらへやって来て、私の隣で立ち止まり、色白な指先が金色頭を指差した。


「撤回して」

「はあ?」

「モンスターは、道具じゃない。だから撤回して」

「俺も嬢ちゃんたちに同意だな!」


 さらには髭面のおじさんまでもがこちらに加勢してくれた。


 全体的に筋肉質で、見た目は厳つい。

 髭もトゲトゲで頭はモヒカン。

 街中でこんな人に絡まれたら泣いちゃうかもしれないけれど、味方になってくれるとすごく心強いや。


「モンスターは仲間だ。俺たち魔物使いは、モンスターと心を通わせ、絆を深め、そうやって強くなっていくのさ。だから、モンスターが道具って意見には賛同できないぜ」

「あはははははっ! 馬鹿ばっかりで笑っちゃうよ!! しかも生意気なことに撤回しろだなんて、身の程しらずもいいところだね。キミたちは知らないようだけど、僕は大手企業三ノ宮グループの御曹司なんだぜ? その僕に楯突こうなんざ、100年早――」

「いい加減に、しろ!」


 ぱぁんっ!!


「え? び、ビンタ……? この僕を、平民が…………?」


 あ……。

 や、やっちゃった…………。


 一瞬の沈黙。

 気まずい空気が室内に流れる。

 打ち破ったのは、髭面のおじさんだった。


「がわははははっ!! 嬢ちゃん、アンタ中々やるじゃないか、気に入ったぜ!!」

「うん。お姉さん、ナイスだよ。スカッとした」


 すると、青髪の探索者が目をウルウルと揺らしながら、ビシッ、と頭を下げてきた。


「す、スマン!!」

「え、なっ!? どうしてアナタが謝るんですか!?」

「だってよぅ、コイツは俺が突っかかった喧嘩だぜ? なのに、アンタらを巻き込んじまった! 俺のせいでアンタたちまで退場になるかもしれねぇ……。そう思うと、申し訳なくてよ。せっかく擁護してくれたってのに、本当にすまねぇっ!!」

「いや、いやいやいや! ちょっと、頭上げて下さい! そもそも、私がムカついたからクビ突っ込んじゃったワケですし、退場処分になっても自己責任ですよ!」

「ううう、アンタ、いいヤツだなぁ~。ぐすん」


 ううっ、なんて純粋な人なんだろう。


 こういう時ってどうやって対応するのが正解なのか全然分からないや。


「やれやれ。人の言いつけを守らずに早速トラブルを引き起こすとは。見下げた根性ですね」


 振り返ると、そこにはグラサンのお兄さんが立っていた。


 グラサンをしてるから分からないけど、その声には怒りが混じっている……気がする。


 私はゴクリと唾を呑んで、一歩引き下がる。


青髪やまもと金髪さんのみやモヒカンいがリボンふじみや、そして黒髪ロングあまみ――お前たちは退場だ!!」

「ちょっと待って」


 リボンの女の子がピシャリと言った。

 しかし――。


「黙れ、言い訳を聞くつもりはない。どのような事情があれトラブルはトラブル。初めに言ったはずだぞ。当事者は全員退場・・させるとな。さぁ、5人とも私についてこい」


 取り付く島もないとは言うけど、まさにこのことだね。


 残念だけどルールはルール。

 言うことを聞くしか、ないみたいだね。


 こうして私たちは退場処分を課され。

 そして部屋から退場すると。


「伊賀さん、藤宮さん、天海さん、おめでとうございます! お三方は、第一試練合格ですっ!!」


 

 えーと……。

 どーゆーコト??

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