第8話 初めてのレベルアップ!

 スライム族のコーナーにやってきた。


 スライム族の装備品は、ヘルメットの形状をしたものが多いね。


 側頭部分に棘が付いたものや、頭頂部分に剣が付いたもの。噴水機や火炎放射器、エンジンや動翼が付いたもの。


 どの装備品にもスライムの攻撃力や防御力を上げたり、動作を補助する機能が付いている。


『きゅぴぃい~~っ!!』


 ライムスは頭頂部分に剣が付いた装備が気に入ったみたいで、目を輝かせて眺めていた。


「ライムスはそれが好きなのかな?」

『きゅぅ~~』


 ライムスがぷるぷると弾んで、嬉しそうにこちらを見上げてくる。


 私は装備品のタグを手に取って。

 そして驚愕した。


「ひぅっっ、さ、300万円……っ!??」

『きゅるぴぃ?』


 うっ、ライムスの純真無垢な瞳が痛い。

 

 私は胸の痛みに耐えながら、タグを元の場所に戻した。


「ごめんねライムス。今はまだ買えないや……」

『きゅ~?』


 私がタグを戻すと、ライムスが少しだけ悲しそうな顔になった……気がする。


 勘違いだったらそれでいいんだけど、もしあの装備が欲しかったのなら、ちょっと悔しいな。


 ライムスには不自由させたくないし。

 もっともっと仕事頑張んないとだな~。


 その後もいろいろな商品を見てみたけれど、ライムスはどれにも興味を持たなかった。


 やっぱり、あの頭に剣がついたヤツがお気に入りみたいだね。


 いつの日か買ってあげられるといいな。

 そんなことを思いながら、私は明日の分のポーションを購入して、店を後にした。



「はいライムス。今日の夜ご飯はカレーライスだよっ!」

『きゅぴぴっ! きゅぴぴぴぃ~~っ!!』

「あはははっ、そこまで喜んでくれるだなんて思わなかったよ! そんなにカレーが食べたい気分だったの?」

『きゅいきゅぴぃっ!!』

「そっかそっか。ライムスが喜んでくれて私も嬉しいよ。じゃあいくよ? せーの、いただきますっ!」

『きゅぴぃ~~!』


#


 翌朝。


 息苦しさと冷たさを感じて目を覚ますと、やっぱりライムスが私の顔の上に乗っかっていた。


「んぅ~~。ライムス、おはよう」

『きゅるぴ~!』

「うん? 早くご飯食べて早くダンジョンお掃除に行きたいって? も~、ライムスってば朝からやる気満々だね?」

『きゅるるんっ!!』

「分かったよ、すぐに行くから待ってて」


 私は布団を整えてからキッチンに直行して、昨日の余りのカレーを火にかけた。


「ライムス、お昼はクリームパンでいい?」

『きゅぴぴっ!』

「ん? ピーナッツのほうがいいって?」

『きゅぅ!』

「分かったよ、それじゃあピーナッツパンにしようね」

『きゅるぅ~~』


 

 朝食を終えた私たちは昨日と同じダンジョンにやってきた。


「今日もお掃除頑張ろうね、ライムス!」

『きゅるぅんっ!』


 ま、今日の目的はお掃除だけじゃないんだけどね。


 昨日、ライムスが吐き出したミニ・ワーウルの核というアイテム。


 どのダンジョン配信でもあんなアイテムがドロップしてるのは見たことがない。


 それで寝る前にネットで調べてみたら、かなりレアなアイテムだということが分かった。


 実際、レシートにはAランクと書かれていたし、ミニ・ワーウルの核がレアなのは間違いないと思う。問題は、それが3つもドロップしたということだよね。


 確率的には0じゃないけれど、かなり低い確率なのは間違いない。たぶん、宝くじで高額当選するのと同じくらいの確率じゃないかな……分からないけど。


 昨日のドロップがまぐれだったのかどうか。

 今日はそれを確かめるのも目的の一つだよ。


『グルルル、グブゥッ!!』


 ダンジョンを進むこと約5分。

 さっそくゴブリンのお出ましだ。


『ギャワーーッ!』

『ゴブゴブゥッ!』

『ギギギギギィ!!』


「ライムス、そっちの二匹は任せたよ!」


 昨日の戦闘で分かったけど、ライムスはミニ・ワーウル3匹を相手取っても戦える強さがある。


 たぶん今の私よりかは強いんだと思う。

 だから私は、今日はライムスにも戦闘を任せると決めていた。


『きゅいきゅるるぅっ!!』


 ライムスはやる気満々で、元気いっぱいに飛び跳ねていた。


 出現したゴブリンの数は4体。

 群れで動いているみたいだね。

 

 私とライムスは二手に分かれて、ゴブリンを二体ずつ引き付けた。


『ゴブァーーーッ!!』

『グギェエエエッ!!』


 ガキィンッ!


「……っっ!!」


 ゴブリンは背は低いけど腕の筋肉が発達している。だから攻撃の威力はFランクモンスターの中でもトップクラス。


 でも背が低いから、武器を振り下ろせる私のほうが有利だね。


 昨日戦ったときと同じように、木のこん棒と鉄の棒が衝突する。そして、ゴブリンのこん棒が明後日の方向に吹き飛んでいった。


「今だ、くらえっ!」

『ゴギャ!?』


 鉄の棒がゴブリンの脇腹にヒットした。

 ゴブリンは涎を飛ばしながら、苦しそうにその場にうずくまる。


 本当なら追撃を仕掛けたいところだけど……。


『ギリギリリィ……ッ!!』


 うう、すごい剣幕だ。

 仲間がやられて怒ってるのかな?


「でも負けないよっ、攻撃の強さはこっちに分があるからね!」


 探索者としては初心者だけど、ダンジョン配信はいっぱい見てきたんだ。


 ゴブリンの弱点なんて丸分かりだよ!


「はあっ!」

『グゲェッ!?』


 私は渾身の力で鉄の棒を振り下ろした。

 そして二匹目のゴブリンもこん棒を失った。


 ゴブリンの攻撃が強いのはこん棒のおかげだよ。

 逆に言えば、こん棒を失ったゴブリンは恐るるに足らないってことでもあるね。


「これでよし。ここからはずっと私のターンだよ!」

『ギャ、ギャワァーーーッ!?』

『ギィィイイイッッ!!!』


#


「ふう。ちょっとコツを掴んだかな?」


 こん棒を失ったゴブリンはそれでも激しい抵抗を見せた。お陰でポーションを一本使っちゃったけれど、戦い方は昨日より上達したと思う。


 私はゴブリンが落としたドロップ品を拾って、ビニール袋の中に入れた。


 と、その時。


 ぱぱぱーん!


 いきなり頭の中にファンファーレの音が鳴り響いた。


 そしてその後で、女性の機械音声が喋りかけてきた。


 ――おめでとうございます。個体名・天海最中のレベルがアップしました。


 その声を聞いた途端、私はピンときた。


「そっか、これが『世界の声』ってヤツだね? うわぁ~、初めて聞いちゃったよ! なんだか感動しちゃうね~」


 探索者はレベルが上がると頭の中に声が聞こえるという。そしてその声はいつしか『世界の声』と呼ばれるようになったらしい。


 こうして私は、生まれて初めてのレベルアップを果たしたのだった。





 


 








 


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