第5話 ミニ・ワーウルとの戦い

「おい天海、これ昨日までにやっとけって言ったヤツじゃねーか! どうなってんだ!!」

「ひゃぅっ! ご、ごめんなさい!」

「ごめんなさいで済んだら警察いらねーんだよ、ボケが!」


 うう、今日の岡田さんは機嫌悪いなぁ。

 せっかく明日になれば休みだっていうのに、気が滅入っちゃうよ。


「すみません、すぐに取り掛かります!」

「死んでも今日中に終わらせろよ、分かったな!」

「はい!」

「声が小せー! シャキッと返事しろ!!」

「は、はぃぃい!!」


 ううう、やっぱり岡田さんは嫌いだ。

 でも、挫けちゃいられない!


 私は心の中でライムスのことを思い浮かべる。

 まるくて、ぷにぷにで、柔らかくて、かわいい。

 見てるとふにゃふにゃ~って力が抜けて癒されるんだよね~。


 よぉーし。

 ライムスのためにも、気合い入れて頑張るぞっ!!



「た、ただいまぁ~~」


 今日はドッと疲れたな。

 まさか終電を逃してタクシーで帰ってくることになるだなんて思わなかったよ。


『きゅるぴぃ~~っ!』


 ぽよんぽよんとライムスがこちらへやって来て、私の胸元に飛び込んできた。


『きゅう~!』

「ふふっ、私が帰ってくるまで頑張って起きてたんだね? よしよし」


 今までにも終電を逃したことは数回あったけれど、ライムスが出迎えなかった日は一度もない。


 そういう健気なところが愛らしくて大好きなんだよね~。


『きゅう! きゅうう!』

「え、寂しかったからいつもより多くナデナデしてほしいの? んもぅ~~、かわいい奴めっ! それならとびっきりのナデナデをお見舞いしてやるっ、くらえ~~」

『きゅぴきゅぴぃ~~っ!』

「あはははっ!」



 開けて翌日、土曜日。

 息苦しさとペチャペチャ感を感じて目を覚ますと、いつもどおりライムスが私の顔の上に乗っかっていた。


「むにゃむにゃ。ライムス、おはよ」

『きゅぴいっ!!』

「ふふ、今日も元気だねぇ」


 布団を整えて居間に向かうと、ライムスが、今か今かと朝ごはんを待ち侘びていた。


 今日の私の朝ごはんは鮭茶漬けにした。

 そしてライムスはチョコフレーク。

 ライムスは私と食べるごはんならなんでも大好物だけど、中でも甘いものが一番好きみたい。


 美味しそうに食べているライムスを見ていると、私のご飯まで美味しくなる。やっぱりご飯は家族と一緒に食べるのが一番美味しいや。


#


 今日の私は、少し離れたホールまで来ていた。

 川辺のホールはイレギュラーが出たということで、先週から調査が続いているんだって。


 だから他のF難度ダンジョンを探して、二駅先の公園まで来たよ。


 児童公園じゃなくて、お花見とかができるくらいのすごく大きな公園で、道路を隔てても公園が続いているよ。


 その公園は複数の区画に分かれていて、一番人気なのが噴水が見えるところなんだけど、そこに四日前からホールが出ちゃったらしい。


 ホールが出ると、ランクの高い低いに関係なく周辺エリアが封鎖されちゃうから、ちょっと迷惑なんだよね。


 まあ、ホールが無かったらエネルギー問題とか資源とかで困るらしいから、ここら辺は難しい問題だけど。


 先週と同じように書類に私とライムスのサインを書いて、私たちはホールを潜った。


 今度のダンジョンは森林地帯だった。

 高い木が空まで伸びていて、それがずーっと連なっている。


 陽は出ているけれど高木に遮られていて、森の中は薄暗さと若干の肌寒さがある。川が流れていて湿気もあるからその分の寒さもありそうだね。


 でもライムスにとっては快適みたい。


 スライムは水の成分が多くて、ダンジョンに出るスライムも水辺を好む。そういう習性はライムスも同じなんだね。


『きゅう~~!』

「ふふっ、ライムスが気持ち良さそうでよかったよ。さあライムス、今日もゴミ掃除がんばろうねっ!」

『きゅぴっ、きゅるる~っ!』


 私とライムスは元気いっぱいにどんどんと進んでいった。


 そしてやはりというべきか、このダンジョンにもゴミはあった。


 まず最初に見つけたのはポーションの空き瓶。


 多くの探索者にとって大事なのは中身。

 それは分かるけど、だからって捨てていくこと無いのにね。やっぱりモヤモヤしちゃうよ。


「はいライムス、あ~ん」

『きゅぴ~っ!』


 ライムスはニコニコと嬉しそうに、空き瓶を丸呑みにした。


 他にもコーヒーの空き缶やタバコの吸い殻、ビニール袋とかもあったので、それも食べさせてあげると、ライムスはそれらを美味しそうに食べて、ぷよぷよと弾んで喜んでいた。


 でもそのタイミングで、一匹のモンスターがこちらにやってきた。


『グルルル……』

「アレは、ミニ・ワーウル!」


 ミニ・ワーウルは小型犬みたいな見た目。

 ギザギザの毛とトゲトゲの牙が凶暴なモンスターだよ。


「ライムス、モンスターが出たよっ!」


 すると、ライムスのほうにもミニ・ワーウルが現れた。

 ライムスのほうには三匹のミニ・ワーウルがいて、ライムスは逃げられないように取り囲まれてしまった。


「ライムス!」


 同じFランクモンスターでも1対3はピンチだ。

 私はライムスに加勢しようと走った。

 けれど、ミニ・ワーウルが行手を阻まんと立ちはだかった。


「そんな……」


 こうなったら、ミニ・ワーウルを倒すしかない。

 そしてライムスを助けなきゃ!

 ライムス待ってて。

 絶対に助けるから。


 私は鉄の棒を構えて、ミニ・ワーウルに対峙した。


 本音を言うとすごく怖い。

 モンスターと戦ったことなんて一度も無いし、それに、ミニ・ワーウルはFランクモンスターの中でも凶暴だという。


 スライムやゴブリンよりも少しだけ強いと聞く。


 私に勝てるだろうか?

 そんな不安が過る。


「いや、こんなことじゃダメだ。私がしっかりしないと。……ライムス、待っててね。すぐに助けにいくから!」


 私は鉄の棒を強く握って、全力で突進した。


「はぁあああっ!!」

『ガルゥゥッ!!』


 渾身の力で振るった鉄の棒は、しかし空を切る。

 そして、ミニ・ワーウルの突進が私に直撃した。


「うわっ!」


 突き飛ばされて、その場に尻餅をついてしまう。

 それでも、私はめげずに立ち上がり、もう一度鉄の棒を構えた。


「邪魔しないでっ、私はライムスを助けるんだから!」

『グルルァッ、ガルァアアッッ!!』


 凄い気迫だけど、気圧されちゃダメ!

 絶対に負けないんだから!


「うわあああああああっ!!」


 鉄の棒を強く握り、今度は突進攻撃を待つ。

 あの攻撃は強かったけど、滞空時間がある。

 そこを狙えば攻撃も当たるはず!


『グワァアアアッッ!!!』


 きた、さっきの突進攻撃!

 

 ミニ・ワーウルは飛び掛かりながら、凄い気迫で威圧してくる。思わず目をギュッと閉じそうになったけれど、その瞬間、ライムスの姿が浮かんで、勇気が出てきた。


 早く助けに行かなくちゃ!

 そう思うと、恐怖が霧になって消えていくのを感じた。


「ここだっ!!」


 ミニ・ワーウルの跳躍に合わせて、えいっ! と渾身の一振り。


 私の攻撃はミニ・ワーウルのお腹にクリーンヒットした。


 ミニ・ワーウルは『ギャン!』と吠えながら、痛そうに地面に転がった。


 私はその隙に、鉄の棒を振り下ろす。

 そして3回目の殴打攻撃で、ミニ・ワーウルは煙になって消えた。


「や、やった……っ! 私にもモンスターが倒せた!」


 って、喜んでる場合じゃないよ!

 早くしなきゃライムスが危ない!


「ライムス、今助けに――」

『きゅぴ~~っ!』


 ライムスのほうを振り向くと、そこにミニ・ワーウルの姿は無かった。


 代わりに、嬉しそうに弾むライムスの姿があった。


「……え?」

『きゅぴきゅぴ~~!』


 ライムスはこちらへやってきて、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「もしかして三匹とも食べちゃったの?」


 私が聞くと、ライムスは元気いっぱいに返事を返した。


 ミニ・ワーウルを三匹とも食べちゃうだなんて、すごい食欲だ。


 私はライムスを抱きかかえて聞いてみた。


「ねぇライムス。もしかして朝ごはん足りなかった?」

『きゅぴ~~!』


 どうやらライムスは今がもっとも食べ盛りみたいだね。いっぱい食べる子はよく育つというし、なんだか嬉しくなっちゃうな!


 それからも私とライムスは、モンスターを倒したり捕食したりしながら、ダンジョンに落ちているゴミを掃除していった。

 

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