第25話 虫にご用心

 ジーンとリリアナが付き合いだしたなら、続く展開は大体わかってる。今日辺り、濃密なイベントが起きるはず。

 まぁ、それも更衣室に誘えればの話だが、どうせジーンには無理だろうな。


 おっと、やっぱり来やがったな、リリアナめ。

 朝の教室に元気な声を響かせやがって……。


「ジーンくん! また、治療お願いできないかな?」

「おやおや、僕の彼女のリリアナさん。美しいお顔の色が優れないようですが、朝からいかがなさいましたか? まぁ、僕の回復魔法にかかれば、きっとそのお悩みも解決して差し上げられるに違いありませんけどね。ええ、どうぞ僕を頼ってくださって構わないんですよ。僕はあなたの彼氏なんですから」


 朝からくどいやつだな……。

 わざわざのカップルアピールに、クラス中のヘイトが急上昇したぞ?


「実はね、ハチに刺されちゃって、痛くて座れないの」

「ややっ、痛くて座れないとは大変ですね。それで、どちらを刺されたのですか?」


 リリアナが顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにジーンに耳打ちしてやがる。


 女の口から言わせるなんて、ジーンのやつは相変わらず気が利かねえな。

 座れないって言ってんだから、想像つくだろうに。


「ええっ、お尻ですか!?」

「ジーンくん、声が大きいよ。それで、治してもらえないかな?」

「も、もちろん可能ですが、僕の治療は直接肌に触れることになりますよ? いいのですか? お尻に触れてしまいますよ?」


 いいのですか? って言いながら、揉みしだく気でいっぱいじゃねえか。

 生々しく指先をグネグネ動かしやがって。


 お前の治療は、触れるだけで出来るんじゃなかったのかよ。


「お願い、早く治して。このままじゃ椅子に座れないから、授業が受けられないの」

「ですが、お尻となりますと敏感な部分ですから、その周囲も含めてじっくりと観察しないといけないのです。そっ、それにお時間もたっぷりかけなくては。ああ、ですがこれは治療であって、エッチな目的じゃありませんよ? なにしろ僕は、エッチなのは苦手ですから」


 ああ、くどい! 正当化しようと必死になりやがって。


 じっくり観察とか時間をかけるとか、明らかにエロ目的じゃねえか!

 目は血走ってるし、鼻息は荒いし、前もこんもりしてるぞ?


 誰がこんな奴に治療してもらいたいと思うんだよ。


 せっかくリリアナがサービス満点のイベントを起こしてくれてんのに、全力でフラグを折りに行くなんて、ジーンの奴は最低だな。


「いいよ、ジーンくんなら。恥ずかしいけど、見せてあげる。でも、あんまりエッチなことしちゃ……ダメ、だよ?」


 おいおい、トロっとした上目遣いでジーンのことを見つめやがって。

 リリアナのやつも、その気たっぷりじゃねえかよ。


 わざわざジーンに向かって尻まで突き出して、ここで治療を受けるつもりか?

 リリアナ、お前も大概だぞ。けしからん、もっとやれ!


「でっ、ですがリリアナさん。お、お尻ですよ? そんな大事な部分を曝け出してもいいのですか? クラスの皆さんもご覧になっています。こんなところでお尻をお出しになったら……他の部分まで見えてしまうかもしれませんよ!」

「だって、周囲も含めて観察しないといけないんでしょ? それにジーンくんの回復魔法は直接触らないと効果ないし」


 おお、リリアナのやつが、制服のロングスカートをたくし上げていく!

 ミーアはさっき先生に呼ばれて居ないから、止めるやつも今はいねえ。


 おいおい、いいのかよ。とうとう腰まで捲っちまったぞ?


 教室の中でスカートを捲り上げてジーンに迫るとか、大胆すぎるだろ。

 クラス中の男どもは注目してるし女は呆れてるし、とんでもねえ状況だ。


「お、おほぉっ、リ、リリアナさん、それ以上はいけません、いけませんよ。ぼっ、僕はエッチなのが苦手なのですから! でっ、ですが、むほぉっ」


 偉そうなことを言いながらジックリ見てるじゃねえかよ、ジーンのやつ。


「そ、そうだ、更衣室へ行きましょう! 更衣室で鍵をかければ、他の人たちに見られることなくジックリと治療ができますから。そうです、そうしましょうよ」

「えっ、更衣室で鍵をかけるの? それって……エッチなことしない?」

「むふぅっ、しません、しませんとも! はぁっ、はぁっ……僕はエッチなのは苦手なんですから!」


 あっ、ジーンのやつ、更衣室に誘いやがった。しかもやる気満々だな。

 このままだと、ジーンのやつにいい思いをさせちまうじゃねえか。


 そうはさせるかよ! リリアナの真後ろのポジションを奪い取ってやる。


 俺はジーンを突き飛ばして、特等席を勝ち取った。


「虫刺され程度なら、俺がこの薬で治してやるよ! ほら、早く刺されたところを出しやがれ!」

「えっ? えっ?」


 ビビアンに調合してもらった傷薬を、俺は指先で掬い取る。


 腰が直角になるほどの前屈みの姿勢で、スカートを捲り上げたままのリリアナは、困惑の表情を浮かべながら振り返ってきやがった。


 こんなときは、冷静にさせちゃダメだ。


「おらっ! 早くしねえか!」

「はっ、はいっ!」


 マジか! 半分冗談だったんだが、従順すぎるだろ。

 ここがハチに刺されたところか。赤く腫れあがってて、確かに痛そうだな。


 この調子なら、もう少しぐらい調子に乗ってやるか。


「それじゃ薬が塗れねえよ。もっと俺に向かって高く突き出しやがれ!」

「はっ、はぁっ、はぁっ……はいっ! みんなは見ちゃダメ!」


 周囲に見られないように、スカートの裾を広げて持ち上げたリリアナ。

 その拍子に、手を離した花柄の布切れがポトリと足元に落ちる。


 こんな最高の光景を独占しちまっていいのか?


「アークくん……早く。こんな恥ずかしい部分、誰にも見せたことないんだから」

「お、おお。じゃぁ、塗るぞ」

「…………ひゃうんっ!」


 指先がちょっと触れただけで、可愛い声出しやがって。


 乳白色の薬を柔らかさの頂点に付けた後は、手のひら全体を使って優しく撫で回しながら塗り広げてやる。


 ヒクヒクさせやがって、感じてんのか?


「あっ、あはぅっ……アークくん、そんなに広げちゃ……あぁんっ♡」


 俺に振り返る顔つきが、みるみると色気を帯びていきやがる。


 ちっ、ここが教室じゃなけりゃ、もっと続きができそうなのによ。


 これ以上は、嫉妬の眼差しを向ける男どもが暴走しかねねえ。

 スベスベで柔らかい感触も充分味わったし、ここまでにしとくか。


「治療終了だ! これですぐに治んだろ」

「えぇっ……もう、おしまいなの?」


 なんだよ、もっとして欲しかったのか?


 長いスカートを下ろしたリリアナが、足首まで下がってた花柄の布切れをゴソゴソと持ち上げた。


「痛みが引いてきたかも……」


 俺を上目遣いで見上げるリリアナが、みるみると笑顔になっていく。

 表情にいつもの明るさが戻ったってことは、薬が効いたみてえだな。


「うんっ、治ったよ! もう大丈夫みたい、ありがとうアークくん!」

「んじゃ、これやるよ。ニキビとかにも効くみてえだから、試してみやがれ」

「お薬、もらっちゃっていいの? ありがとうね、アークくん! 大好き!」


 えっ? 大好き? 一回治療しただけで、そんなに好感度が上がるのか?


 傷薬の入った瓶を嬉しそうに眺めやがって。

 攻略対象だけあって、こいつもかなり可愛いじゃねえかよ。


「これだったら一人で治療できるから、もうジーンくんに頼まなくても良くなるね。今までお世話になりました。ありがとうね、ジーンくん。さようなら!」


 ジーンに向かって、リリアナがペコリとお辞儀した。

 晴れやかな笑顔で手を振りながら、そのまま教室から駆け出して行く。


 今のって、完全に別れの言葉だったよな。


「えっ? そんな、待って、待ってください、リリアナさーん!」


 調子に乗ってるジーンをちょっと悔しがらせてやろうと思っただけだったんだが、悪いことしちまったか……?


「ああっ、リリアナさん、ひどいですぅ! 僕って、治療するためだけの存在だったんですかぁ。はぁ、どうして僕って、いつも認めてもらえないのかなぁ。こんなに頑張ってるのに……」


 リリアナにとっちゃ、お前はまだ治療してもらうだけの存在だったみてえだな。

 まだ充分に好感度を上げてないのに調子に乗るからこうなるんだよ。


 なんだかリリアナの好感度が上がったみたいだし、この先は俺が攻略しても構わねえよな……?

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